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グルベローヴァの「アンナ・ボレーナ」 衰えたりといえども凄まじい!

 10月31日東京文化会館でウィーン国立歌劇場公演「アンナ・ボレーナ」を見た。目当てはもちろんグルベローヴァ。グルベローヴァのおそらく日本での最後のオペラ公演。最終的にはとてもよかった。

 「アンナ・ボレーナ」は、先日、今回と同じ演出の映像(ネトレプコ出演)を見たばかり。カラスのCDは何度か聴いた記憶があるが、実はほとんど私にはなじみのないオペラ。昔々、世界史でも習い、映画「1000日のアン」でも見たイギリスのヘンリー八世によって処刑されたアンの物語。

 グルベローヴァは第一幕の出だしは、まったく衰えを感じさせず、最高に素晴らしいと思った。が、すぐに声がかすれたり、苦しげな声になったり、音程が決まらなかったり。グルベローヴァほどの大歌手でも、衰える時は来る。これまで、多くの歌手の衰えを目の当たりにしてきたが、やはり、グルベローヴァにもその時がきた。

 と、思いつつ見ていたら、そこはグルベローヴァ。並みの歌手とは違う。だんだんと調子が上がってきた。

 もちろん、絶頂期ほどの声の輝きはない。あの頃のように音程がびしっと決まって会場中に響き渡る美声はない。「だましだまし」という表現が一番近いかもしれない。が、会場中の人々を感動させる力は変わらない。アンナ・ボレーが乗り移ったかのように、誇り高く健気な王妃を歌いあげる。ほかの歌手たちとは格が違う。

 第二幕の狂乱の場面は会場中が静まり返る中で、まさしく人々への別れを歌った。苦しげであるだけに余計に悲劇性が高まる。細かいコントロールは甘くなっているが、相変わらずの美しくよく響く声。心の奥にビンビンと響く。

 私が初めてグルベローヴァの実演を見て大興奮したのは1980年のウィーン国立歌劇場来日公演の「ナクソス島のアリアドネ」だから、32年前ということになる。私が初めて購入したCDもグルベローヴァのアリア集だった(なんと14200円だった記憶がある!)。その間、ずっとコロラトゥーラの女王の座を守り、観客を感動させてきたのだから、改めてそのすごさに驚く。最後は満員の客がスタンディング・オーベーション。

 指揮のエヴェリーノ・ピドは音がいきいきしていて、しかも歌わせる。とてもいい指揮者だと思った。飽かせることなく、最後まで聴かせてくれた。ウィーン国立歌劇場のオーケストラは本当に素晴らしい。言うことなし。

 そのほかの役では、エンリーコ8世のルカ・ピサローニがよかった。悪役らしい迫力ある歌。スメトン を歌うエリザベス・クールマンもジョヴァンナ・シーモアのソニア・ガナッシもしっかりした歌で見事。ロシュフォール卿のダン・ポール・ドゥミトレスクも歌はとてもいいのだが、ちょっと太り過ぎ。リッカルド・パーシー卿のシャルヴァ・ムケリアは、ほかの歌手たちに比べて、かなり弱いと思った。音程も不安定。声も少なくとも私の好みではない。この人のせいで、アンナとの二重唱やロシュフォール卿との二重唱も感動できなかった。

 それに、「アンナ・ボレーナ」というオペラ自体、やはり今回のウィーン国立歌劇場公演のほかの2演目に比べると音楽的な弱さを感じざるを得ない。イタリアオペラがあまり好きでない私としては、もう少し音楽的に何とかしてほしいなあ・・・という思いを禁じ得なかった。

 とはいえ、やはりグルベローヴァは凄い。この人と同じ時代を生き、この人の歌を何度も聴けたことを感謝しよう。大満足。

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コメント

グルベローヴァの年齢から考えて、全盛期並の歌唱力を期待するのは酷かも知れませんね。でも千秋楽には行きますので、寂しいと同時に楽しみです。グルベローヴァの日本デビューになったツェルビネッタも東京文化会館だったそうですね(樋口先生も横浜でシノーポリが指揮した時もお聴きになったとおっしゃっていたと記憶しますが、これも素晴らしかったですね)。その同じ会場で、日本最後のステージに接する事が出来るのを喜びたいと思います。

投稿: 崎田幸一 | 2012年11月 1日 (木) 23時18分

崎田幸一様
コメント、ありがとうございます。
若いころ、私は大の長嶋茂雄ファン(今はアンチ巨人です)だったのですが、往年の輝きを失った長嶋選手を見て悲しい思いをしつつ、最後の試合のホームランに大感激しました。そして、「長嶋選手、ありがとう」と心の底から思ったものです。グルベローヴァの歌を聴いて、あの引退試合のことを思い出しました。グルベローヴァも永遠に記憶に残る歌手だと思います。千秋楽を楽しんでください。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月 3日 (土) 14時43分

11/4最後のグルベローヴァさんの公演のチケットを知人からもらい聴くことができました。やはり年齢には逆らえないのでしょうね。1箇所(1幕)声がかすれたときもありましたが声のコントロールは凄い。実年齢からすればある意味お化けみたいな人、狂乱のシーンでは凄みさえ感じるほどでした。アンコールと叫んだ人もいました。拍手もオケがやんで万雷拍手、皆さん全神経を集中していた。拍手は尽きないが関西在住の私は帰りの時間を気になりつつもまさしく後ろ髪を引かれる思いで帰宅しました。東京在住のとき大型のオペラハウス公演は毎年聴くことができましたが、神戸に戻りオペラ公演が皆無に近いことに失望です。来年のスカラもトリノ公演も東京のみ。
1980年に親と一緒にアリアドネを聴きあれから32年間の公演が思い出されます。長い間ありがとうと。

投稿: ササキ | 2012年11月 5日 (月) 19時05分

ササキ様
コメント、ありがとうございます。
私は11月4日には見ておりませんが、ネットで見る限り、私が見た日と全体的な同じような感じだったようです。それにしても、おっしゃるとおり「お化け」ですよね。コロラトゥーラでこれだけの年月にわたって君臨したというのは、歴史上例を見ないかもしれません。
関西にお住まいですか。私にも、関西在住のオペラファンがたくさんおられますが、皆さん、かなり苦労なさっているようですね。
なにはともあれ、私もグルベローヴァへに感謝したいと思っています。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月 7日 (水) 08時02分

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