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ヤンソンス+バイエルンのベートーヴェン1・2・5は超名演だった!

 11月27日、サントリーホールでマリス・ヤンソンス指揮、バイエルン放送交響楽団のベートーヴェン・チクルスの2日目、交響曲第1・2・5番の演奏を聴いた。言葉をなくすような名演。

 前半は1番と2番。ベートーヴェンの初期の交響曲をヤンソンスは実に生き生きと聞かせてくれる。数年前、オーケストラはコンセルトヘボウだったと思うが、ヤンソンスはベートーヴェンの2番の素晴らしい演奏を聴かせてくれた。その時のことを思い出した。名人技としか思えない。ヤンソンスの手にかかると、初期の曲が息づき、起伏を持ち、繊細で豊かな世界を築く。音楽史の上では、ベートーヴェンが自分の世界を築いたのは交響曲第3番からというのが常識になっているが、第1番も第2番も歴史に残る名曲だということを認識させられる。とりわけ、第2番はヤンソンスの得意曲なのだろう。

 ハイドンの延長線上にあるベートーヴェン。大袈裟ではなく、しっかりと構成され、繊細で音楽の豊かさにあふれている。しみじみと美しい。張りがあり、切れがよく、しかもしなやか。第1番の第4楽章、第2番の全楽章が圧倒的に素晴らしい。

 休憩中、音楽ジャーナリストのS氏と言葉を交わした。「ヤンソンスは初期のベートーヴェンについては素晴らしいけれど、5番や7番のような壮大な曲は向いていないのではないか」などと話した。そんな危惧を実は抱いていた。

 が、始まってみると、5番はもっと凄かった。

 といっても、ヤンソンスらしく、壮大さを求めていない。運命的ではない。「苦悩から歓喜へ」というような人生の苦しさを精神の力で乗り越える物語はここでは展開されない。形而上学的なドラマはヤンソンスの音楽にはない。おそらくそのようなものは意識的に排除されている。もっと純粋に音楽的。

 ただひたすら音楽的に緊密に構成され、音が生き生きとして、一部の隙もなく織りなされた豊かな音が押し寄せてくる。その迫力に圧倒される。そして、第四楽章は、「苦悩から歓喜」というよりも、まさしく音楽の喜びの世界。わくわくとした音楽そのものの世界が爆発する。非音楽的な思想が盛り込まれていないだけにいっそう愉悦を覚える。音楽の力だけで、これだけのものを達成できることに改めて驚く。「苦悩から歓喜」などという言葉を乗り越えて、それ以上の歓喜を観客全員に最高度に感じさせてくれる。

 第4楽章のピッコロの音も、ただひたすら愉悦を高める。なんと楽しげなピッコロの音だろう。なんと若々しく、何と音楽の喜びに全身をゆだねたベートーヴェンだろう。フルトヴェングラーの形而上学的な演奏を好んできた私だが、ヤンソンスを聴くと、それはそれで非常に強い説得力を覚える。

 オケは何度かミスがあったが、そんな小さな傷はどうでもよい。弦の響きは美しく繊細、全体のアンサンブルも最高に美しい。管楽器もえも言われぬ美しさ。

 アンコールはハイドン作曲と言われる弦楽四重奏曲の「セレナード」の弦楽合奏版。最高度に興奮した観客の心を鎮静化させる楽しい曲。これもまた絶品。

 先日、ネマニャの演奏を今年最高と表現したが、ヤンソンス+バイエルンを聴くと、こちらの今年最高の座を譲らざるを得ない。これほど完成度の高いベートーヴェンは久しぶりに聴いた。家に帰りついてもまだ音楽の喜びに酔っている。

 

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コメント

>数年前、オーケストラはコンセルトヘボウだったと思うが、ヤンソンスはベートーヴェンの2番の素晴らしい演奏を聴かせてくれた。

このときたしかヤンソンスは東京で二種類のプログラムを指揮していますが、どちらも前半がベートーヴェンの2番だったと記憶しています。あれは素晴らしい演奏でした。ヤンソンスは1970年代頃からこの曲をよくとりあげていたようて、初来日する以前にもこの曲を聴いた方がその演奏を誉めていたところをみると、ほんとうに得意なのだと思います。自分もせめてこの日だけは行きたかったのですが諸事情で行けませんでした。

ヤンソンスは父も日本の楽壇と深い関係をもっていましたが、本人も毎年自分の手兵を交互に率いて来日してくれています。彼も日本に何か特別な思い入れ等があるのかもしれません。ほんとうにありがたいことだと思います。

投稿: かきのたね | 2012年11月28日 (水) 02時24分

かきのたね様
コメントありがとうございます。
ベートーヴェンの2番、本当に得意にしているんですね。
ヤンソンスがしばしば来日してくれるのはとてもうれしいことです。そして、毎回、満足させてくれるのは、さすがです。ただ、ワーグナーの演奏のときだけは、「ワグネリアン」の私としてはかなり違和感を抱いたのを覚えています。
ともあれ、後期のベートーヴェンが楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月29日 (木) 14時38分

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