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今年最高! ネマニャ・ラドゥロヴィチの無伴奏リサイタル

 間違いなく今年最高の経験だった。ザルツブルクやバイロイトを加えても、これほどの凄まじい演奏には、今年は出会わなかった。11月13日、浜離宮朝日ホールでのネマニャ・ラドゥロヴィチの無伴奏リサイタル。

 曲目は2007年のトリフォニーホール、昨年、兵庫県立芸術文化センターとまったく同じ。前半にバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、後半にバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「バラード」。得意のプログラムということだろう。

 これまでの2回も凄いと思ったが、今年はもっと凄かった。今年は昨年よりももっと余裕ができた印象。研ぎ澄まされた細身の美音、完璧な音程、完璧な技巧。そのような音で、スケール大きく、そして鬼気迫る音を作り出していく。一昨日も書いたが、感情に任せて弾いているのではない。起伏があり、スリリングでドラマティックだが、そこにしっかりした構成がある。だから、形が崩れない。余裕なく必死に弾いて鬼気迫る雰囲気になっているのではなく、技術的に余裕があり、音も美しいがゆえに、本質的に鬼気が迫ってくる。

 バッハのソナタの第二楽章で私は頭に音が突き刺さるような感激を覚えた。これほど明晰で、これほど怜悧でありながらもこれほどスリリングで熱い音楽を、私はネマニャ以外のヴァイオリニストの演奏で聴いたことがない。魂が流動し、躍動し、興奮する。第四楽章もますます高まり、飛躍する。そして、イザイの凄まじさときたら。「怒りの日」のテーマがまさに形を変え、音質を変えて現れる。恐ろしかったり、悲しかったり、ため息交じりだったり。いってみれば、「死」の観念があれこれと表情を変えて人生に現れるかのよう。イザイの曲がバッハと同様に深く、鋭く、スケールの大きな曲として現れた。

 後半のバッハのパルティータ第2番は圧巻。ジーグあたりからもう独壇場。シャコンヌは言葉をなくすほど。オペラシティで聴いたシャコンヌとは比べ物にならないくらいに気迫がこもっていた。出だしからして、私は揺さぶられて涙が出てきた。これほどすごいシャコンヌがこれまであっただろうかと思った。

 ネマニャの音楽は「対話」だというのが私の持論だ。作曲者と演奏家、演奏家と観客。その対話を音楽で奏でる。決まった曲を決まった通りに演奏するのではない。対話しながら、音楽をその場で生成していく。だから音楽が生まれ出てくる瞬間の感動がある。シャコンヌが今形を取り、目の前で生まれているかのように感じる。

 弓の毛が切れ、それが絡まって、何度か音がつまずいた。一度は大きく間が空いた。そのため、確かに音楽が途切れた。だが、ネマニャの場合、これも音楽の一つだ。こうして、今まさに音楽ができている。「シャコンヌ」という既成の名曲を弾いているのではない。今、ネマニャがシャコンヌを作り出している。だったら、弓が絡まって音が途切れても、それが今あらわられる音楽なのだ。イザイの「バラード」も、鋭利で劇的でしかも情緒にあふれる音楽として現れた。

 それにしても、今日の観客の何と上質なこと。楽章の間もほとんど物音ひとつ立てず、じっと音楽に耳を傾ける。ネマニャも凄まじい集中力だが、今日の観客もまた凄まじい集中力。

 アンコールはシャンソンの「枯葉」を無伴奏ヴァイオリンに編曲したもの。これも素晴らしかった。これを聴いて、ネマニャの音楽の特質の一つがわかるような気がした。一つの楽器でこのシャンソンを実に立体的に、重層的に弾き分ける。ヴァイオリンだからほとんどが単音なのだが、音色を使い分けることで、あたかも別の楽器が重なっているかのように演奏する。しかも、それが完璧な構成感で演奏されるので、まったく楽器一台で演奏しているという違和感がない。楽曲でもいくつものモティーフがそれぞれ対話して、一つの曲が成り立っていく。しかも、「枯葉」が遊び心もあり、知的でもあり、高貴でもある曲になっていた。

会場は大喝采で大興奮。終演後サイン会が行われたが、200人か300人が並んだのではないか。この会場の最高記録に近いらしい。

 2007年に初めてネマニャを聞いて心を奪われてから、ずっと追いかけてきたが、その成長ぶりも著しい。初めから凄かったが、ますます凄まじい演奏家になっているのを感じる。私は、今日のコンサートを今年の最大の事件の一つだと思うのだが、私が期待するほど、ネマニャの凄まじさが人々に伝わらない。残念ながら、今日も顔見知りの音楽評論家の顔を見かけなかった。なぜネマニャがもっと大ヴァイオリニストとして大ニュースにならないのか実に不思議。

 ともあれ、大興奮。ネマニャを聴くごとに、これこそが本当の音楽なのだという思いを強くする。来年の10月に来日が予定されているという。それまでが待ち遠しい。

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コメント

樋口先生、このような正直で真摯な感想を書いて頂きありがとうございます!!
ネマニャのコンサート、無伴奏は初めて参加しました。

すごかったですね!!

ここまで来ると、、技巧が云々ではなく
ネマニャの魂を見せてもらった
生き様を見せてもらった
そんなような気がします

大好きなシャコンヌ、、、途中からあまりのすごさに
体が動かなくなりました
でもハートはとても至福でした。。
ひたひたとどんどん核心に迫ってくる、、。

音楽的に詳しくないのですが
バッハのシャコンヌは、絶望のような暗いメロディ、
たまに現れる 救われるようなメロディ
それが交互に続き、
まるで人生、、悟りの曲だなと私は思っているのですが
ネマニャの演奏も、それを体現するような筆舌しがたい演奏でした。

枯葉はシャンソンでしたか、、、
ジャズのように、とってもリズムよく跳ねて(swingしてる)ので
なんて引き出しが多い人なのかと
しかもあの演奏をした後で、、よく弾けるなと、、
粋、、やってくれますね
日本をファンを大事に思ってくれてるのですね♪

ネマニャの音は人々をハッピーにすると思います
ちょうど友人とオペラシティで話していたのです、、。
ネマニャ君自体が愛に溢れハートフルなエネルギーの持ち主なので
来ているお客様もシンクロ(共鳴)するのですね
彼の自由さ・無邪気さ・愛
今回特に会場中が 至福に満たされているのを何度も感じました♪

長文お読み頂きありがとうございました。
来年10月より前に、コンサートに来てほしいですね

投稿: moon | 2012年11月14日 (水) 01時00分

樋口先生、こんにちは。
私は所要で今回は東響と昨日のどちらにも行けませんでした。
今回ネマニャはリサイタルは1度だけですからね。
moonさんのおっしゃる通り、10月前にも来てほしいです。

投稿: Y.M | 2012年11月14日 (水) 11時40分

樋口先生、初めまして…。
プルン虎猫と申します。
10日のオペラシティと、13日朝日浜離宮ホール、両方ネマニャの聴いてまいりました。

大好きな神聖で透明なバッハの無伴奏を、魂こもる演奏のネマニャに涙しました。

ただ、13日の朝日浜離宮ホールでは、かなりネマニャが疲れているように見受けられました。

私は、日頃仕事の疲れをY田養蜂場のローヤルゼリードリンクとDH*のプラセンタゼリーでとっておりますのでネマニャの体調が心配で差し入れしてあげたかったです…。

本当に、ネマニャの天真爛漫な笑顔を愛しておりますのでとても心配しております。

投稿: プルン虎猫 | 2012年11月14日 (水) 20時35分

プルン虎猫 様

コメント、ありがとうございます。
確かに疲れているように見えましたね。しかし、そうであるがゆえにかもしれませんが、凄まじい集中力でした。でも、疲れはファンとしては心配です。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月15日 (木) 09時22分

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