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ネマニャ・ラドゥロヴィチ+東京交響楽団に興奮

 11月10日、東京オペラシティコンサートホールで、東京交響楽団の定期演奏会を聴いた。指揮とヴァイオリンはネマニャ・ラドゥロヴィチ。ものすごい演奏。バイロイトもザルツブルクも含めて、私の聴いた今年最高の音楽だったかもしれない。そう思ったのは、私がこの若手ヴァイオリニストのファンクラブの会長であるためではあるまい。私は大いに興奮した。

 私が2007年に初めてネマニャの演奏を聴いた時、その激情的でデモーニッシュな力に幻惑された。聴いているうちに自然に体が動き、聴いている私たちもネマニャのリズムと音を生きた。20歳そこそこだったネマニャの若い命が音楽の中にたぎっていた。だが、今回は、ネマニャはもっと大人になっていた。

見かけは例によってまるでロックスター。だが、相変わらず音程がびしっと合った研ぎ澄まされたスリムな音。しばしば激しく弾くが、リズムや音程が乱れることがないので、激情的な感じはしない。私はネマニャのヴァイオリンの音をどこまでも澄み切った命の光線のように感じる。命の光線がまさしく生命の律動によって息づき動く。そして、それが一つの宇宙を形作っていく。自由で豊かで無限の宇宙。聴いているうち、私たちもまた宇宙の中を漂い、揺り動かされ、人生を生き直す。そして、そうしているうちにこの上ない幸福感を覚える。

今回のコンサートの最初にネマニャ一人が登場して演奏したバッハのシャコンヌはまさしくはそのような世界だった。たった一台のヴァイオリンで、まさしくそのような宇宙が目の前に広がった。私はネマニャの音に圧倒されるばかりだった。

 次に東京交響楽団の弦のメンバーが加わって、バッハのイ短調のコンチェルト。これも素晴らしかった。オケと独奏が親密に対話し、研ぎ澄まされていながらも豊かで自由な世界が広がる。特に第三楽章に圧倒された。ここで命が躍動する。何かを解釈しているわけではない。まさしく音楽そのものの楽しみ。私は何も考えず、ただヴァイオリンの音に揺り動かされ、ヴァイオリンの音そのものを生きる。なんと新鮮な音、なんと新鮮な流動。

 後半はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲2曲。先に若書きの二短調。天真爛漫でメンデルスゾーンの育ちの良さや天才ぶりがわかるチャーミングな曲。それをまさしく音そのものの楽しさを際立たせるかのような演奏だった。激しいところは激しく、美しいところは美しく。しかし、それは単に大袈裟に表現しているのではない。曲想に素直に従って、まさに音楽と対話しながら演奏している。音楽が自然に息づき、躍動していく。

 そして、最後にホ短調の協奏曲。これはもう、言葉をなくすほどの素晴らしさ。私の語彙力では、この音楽の凄さを語ることができない。第一楽章のあの有名なメロディの得も言われぬ美しさ。突き抜けるほどに美しい音。そこに何らかの感情を無理やり託そうとしているようには思えないが、その音には人生のすべてがあるかのように感じられる。第一楽章の終わり、あまりの素晴らしい音の流動に涙が出そうになった。メンデルスゾーンの人生もこの美しい音の連続の中にすべて結晶化されているように感じられる。第三楽章の躍動も圧倒的。ヴァイオリンとともに私の魂は宇宙の中を躍動していた。

 アンコールはバッハの第二番のパルティータから「サラバンド」とパガニーニの「24のカプリース」の「悪魔の笑い」と呼ばれる曲。「サラバンド」は深く沈潜するように、カプリースは華麗に。いずれも清潔で研ぎ澄まされた音。これまた素晴らしい。

 ネマニャの凄さに改めて圧倒された。改めて、私がこのヴァイオリニストの音の心の底から愛していることに気付いた。

ロックスターのような服装で登場するこの27歳の若者に弾き振りをさせ、その指揮に従いつつ、実に楽しそうに演奏してくれた東京交響楽団のメンバーにも感服。ぜひまたネマニャの弾き振りを聴きたい。レコーディングしてくれると、こんなうれしいことはない。

 

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音楽」カテゴリの記事

コメント

樋口先生、こんばんは!
以前先生の書かれたブログ記事でネマニャさんのことをはじめて知り、それ以来、生演奏を聴ける日が来ることをを楽しみに待っておりましたが、私も今日、オペラシティ―でついに!ネマニャさんデビューをすることが出来ました。

まさに澄み切ってくっきりと輝く旋律、微笑むネマニャさんの小さなバイオリンからとてつもなく幸福感に満ちた音楽の波がおしよせてきて…もう至福の時間を過ごすことが出来ました。
会場にさわやかな風がずっと吹いているような不思議な感覚がありました。
素敵な出会いを感謝致します。ありがとうございました。

投稿: SWAN | 2012年11月10日 (土) 22時46分

SWAN様
コメント、ありがとうございます。
ネマニャのヴァイオリンには、その場にいる人を幸福にし、一体化させる力があるように思います。普通のクラシックの演奏家にはないものであるため、もしかしたら異端視されているかもしれませんが、あれこそが本当の音楽、自分の中からわき出たものを人々に伝えようとする音楽なのだと思うのです。
同じ場で感動を分かち合えたことをとてもうれしく思います。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月11日 (日) 08時37分

 樋口先生、お久しぶりでございます。本当に昨日の公演には感涙ひとしおでございました。約1年前にチケットを購入して以来、この日まで頑張る、と目標にしておりました。
 今回はネマニャくんの好きな選曲ばかりでしたから、どんな指揮をもしてくれるのだろうと嬉々として楽しみにしておりました。
 シャコンヌに関しましては途中から彼のカラーに染まっていて、足踏みをする音まで軽やかで…。
 2曲目のバッハのヴァイオリン協奏曲は恥ずかしなが存じ上げない作品でした。
なんともキラキラした美しい曲で、ひと耳ぼれをしてしまいました。素敵な曲で、パンフレットのコメントにもありましたが、もっと書いて頂きたかったですね。ネマニャ君にピッタリで、胸がいっぱいになりました。
 後半はもうおなじみの2曲。私は仕事中ずっとリピートして聞いていた曲をライブで聴ける喜びでいっぱいになって、拍手の手が痛いのも忘れるほどでした。
 私事でファンクラブには参加できなくなってしまいましたが、今後も彼なしには仕事が手につかなくなってしまった私でございます。ファン層もご高齢の方も増えてきていて、嬉しい限りです。老夫婦のファンの方にもお会いできて、濃厚な時間を過ごさせて頂きました。

 私の一方的な感想ばかりになりまして、申し訳ございません。先生の御本、悩める日本にいまも本屋さんに縦積みですよ。
 先生のユーモアもある優しいご気性に感銘を受けております。
 今年一番といってくださったコンサートにご一緒出来ました事、光栄に思いつつ、末筆とさせていただきます。
                     かしこ

投稿: 花車(はなくるま) | 2012年11月11日 (日) 14時14分

花車様
コメント、ありがとうございます。
ネマニャのコンサートでは、そのような温かな交流があちこちに見られるように思います。それこそが、ネマニャの音楽の持つ力でしょう。私も、ネマニャの音楽によって生きる力、つながりたいという思いを強めます。
明日は無伴奏曲が演奏されますが、それも楽しみです。

投稿: 樋口裕一 | 2012年11月12日 (月) 08時50分

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