ブロムシュテット+バンベルク響の最高のブルックナー4番
11月6日、サントリーホールで、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、バンベルク交響楽団の演奏を聴いてきた。魂の震える素晴らしい演奏だった。
前半はピョートル・アンデルシェフスキのピアノでモーツァルトのピアノ協奏曲第17番。注目の若手ピアニストだが、なかなかに個性的。なぜ、20番以降の協奏曲ではなくて、17番なのだろうと思っていたら、第2楽章になって意図がわかった、まるでバッハのようなモーツァルト。研ぎ澄まされた音で、一つ一つの音の粒立ちが最高に美しく、沈黙の中から音そのものがたちあらわれる。グールドのバッハを思わせる。モーツァルトの俗的な部分を除いて結晶だけを取り出したかのよう。第3楽章はかなり立体的に弾いて、楽しめた。ただ、モーツァルトにしては自然に流れない音楽だが、それはそれで、とてもおもしろい。ピアノのアンコールとしてバッハのフランス組曲の中のサラバンド。これも第2楽章と同じ雰囲気。見事だった。
もちろん私の目的は後半のブルックナーの交響曲第4番。
これはもう第1楽章から私の心の奥底を揺り動かした。ヴァントやウェルザー=メストのような緊張感にあふれる演奏ではない。ところどころ、緊張の緩んだようなところがある。しかも、バンベルク交響楽団はうますぎない。ベルリンフィルのように垢ぬけ研ぎ澄まされた音を出すわけではない、ウィーンフィルのように機能的でありながら情緒にあふれる音を出すわけではない。アンサンブルも完ぺきではない。だが、それが程良いブルックナーを作り出す。このオーケストラに関してよく言われることだが、まさしく田舎じみた雰囲気。バンベルクは一度訪れたことがあるが、川の美しい落ち着いたドイツの地方都市だった。まさにあの町が目に浮かぶ。
ブロムシュテットは完璧にオーケストラをコントロールしているわけではなく、かなり自由に演奏させているように見える。それでいて、要所要所は締めて、自然に流れ、自由に歌い、しかも十分に宗教的で自然賛歌的なブルックナーが生まれてくる。第3楽章と第4楽章に、とりわけ魂が震えた。第4楽章では、何箇所かで涙が出てきた。
85歳だという。信じられない。昔の巨匠のように重々しくない。引き締まった、それでいて実に自由な音楽。
ホールで旧友と出会って、帰りに少し飲んだ。夜中に帰って、感動の残っているうちに、と思って、大急ぎでこのブログを書いている。
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コメント
ブログを拝見し、とても嬉しかったので、思わず初めてコメント書かせていただきました。
実は私は11月1日のブロムシュテットさんのベートーベンを聴いてきました。この方の生演奏ははじめて聴いたのですが、完全にノックアウトされてしまいました。
音楽の知識はあまりないのですが、あんなに「音が生き生きしている!」と感じたのはもしかしたらはじめてかもしれません。音が、限りなく気高く、限りなく澄み渡り、懐が深く立体的でありながら、限りなく無邪気。楽団員と一体となって、心から音楽している、と感じました。
中年男がお恥ずかしいかぎりですが、特に英雄が本当に素晴らしく、2楽章のあまりに高密度で濃厚な音の重なりも含め、ほぼはじめから終わりまで、涙と鼻水が出っぱなしの状態でした。ブルックナーも聴いてみたかったです。
これからもブログ読ませていただきます。
ありがとうございました。
投稿: KS | 2012年11月 7日 (水) 02時10分
こんばんは。お久しぶりです。
同じ会場にいらしたのですね。
ブルックナー4番、冒頭のホルンがちょっと素っ気なく聴こえましたが、聴き進むうちに、すぐその意図が判りました。
全体的にとってもおおらかな演奏で、豊かな音の流れに身を任せた1時間余りでした。
ところでブロムシュテットさん、実は私の母と誕生日が全く同じ85歳。10年くらい年齢詐称しているのではないかと思うほどお元気ですね。米寿を過ぎたスクロヴァチェフスキさんと共に、ますます元気で活躍して欲しいものです。
投稿: ムーミンパパ | 2012年11月 7日 (水) 23時54分
ムーミンパパ様
コメント、ありがとうございます。あの場にいらしたのですね。
おっしゃるとおり、ブロムシュテットは、「老」あるいは「翁」という感じがまったくしませんね。そうですね。全体的に、余計な思い入れを込めて音楽を停滞させることのない演奏だったと思います。それでいて、あれだけ観客の心を揺り動かすのですから、驚くべきことです。ただ、空席が目立ったのが意外でした。
投稿: 樋口裕一 | 2012年11月 9日 (金) 07時50分