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NHKの「ローエングリン、そしてシュヴァルツコップのCD

 昨日、今年の大学での仕事がすべて終わった。気を使う仕事もやっと私の手から離れた。少し安心。

今朝、起きて、疲労困憊している自分に気付いた。今日から正月にかけて原稿を書こうと思っていたが、それは少し先に延ばすことにして、今日はゆっくりすることにした。

 まず、先日、NHK-FMで放送されたミラノ・スカラ座の「ローエングリン」を録画していたものを見た。スカラ座で見た知人が素晴らしかったと言っていたが、まさにその通り。これほど凄い「ローエングリン」は、バイロイトでもベルリンでも、これまで見たことがなかった。バレンボイムの指揮も激しくうねり、ダイナミックであり、かつ繊細でもある。ローエングリンのヨナス・カウフマン、ハインリヒのルネ・パーペ、オルトルートのエヴェリン・ヘルリツィウスは、最高の歌。

エルザを歌うアンネッテ・ダッシュもバイロイトで私が聴いた時よりもずっと声が出ていてよかった.テルラムントのトマス・トマソンも、律儀で真面目な人物像をしっかりと歌って文句なし。

ただ、クラウス・グートの演出については、よく理解できなかった。うろたえて自信なげなローエングリンで、ブラバントにやってきたことに激しい違和感を覚えているようだが、それにどのような意味があるのか最後までわからなかった。

 

 ところで、しばらく前から、時間を見つけて、シュヴァルツコップのCDを聞き続けていた。

このブログにも何度か書いてきたとおり、私は中学生のころからの、ということはつまり47年ほど前からのシュヴァルツコップ・ファンだ。リヒャルト・シュトラウスに導いてくれたのも、そもそもオペラに導いてくれたのも、リートを好きにさせてくれたのもシュヴァルツコップだった。

佐藤勝宏さんが自費出版なさった「エリーザベト・シュヴァルツコップ その声楽人生」を読み、佐藤さんとお話ししてから、私の中でシュヴァルツコップ熱が再燃した。佐藤さんに教えていただいたり、新たに見つけたりの未聴のCDなども新たに購入した。そのいくつかの感想を書く。

 

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「四つの最後の歌」

  今回聴いた中での一番の掘り出し物は、これ。シュヴァルツコップが得意とする「4つの最後の歌」の二つの演奏が収録されている。パウル・クレツキ指揮、ウィーン交響楽団と、ハンス・ミュラー=クライ指揮、シュトゥットガルト放送交響楽団。それだけでなく、「ナクソス島のアリアドネ」の2つのアリアをカラヤン指揮、ベルリン・フィルで歌っている。52年から60年にかけてのライブ音源。音質は十分に鑑賞に堪える。

「4つの最後の歌」のクレツキ伴奏による演奏は、私にとって理想に近い。沈潜した凄味のようなものを含み、ぐいぐいと引きこまれる。シュヴァルツコップの歌に関しては、セルとの演奏よりもずっと率直。クレツキの指揮はかなり控えめで、歌手を立てている印象だが、第4曲のソプラノの歌が終わった後のオーケストラの沈痛さは尋常ではない。

 ハンス・ミュラー=クライ指揮のものは、歌もオケももっと情熱が表に出て、かなりロマンティックな印象。クライはイダ・ヘンデルの伴奏で名前を聞く指揮者だが、単なる伴奏者ではないと思った。情感豊かでとてもいい。

 それにも増して素晴らしいのがカラヤン指揮による「ナクソス島のアリアドネ」の二つのアリア。カラヤン+フルハーモニアの「アリアドネ」全曲盤のシュヴァルツコップの歌も素晴らしい。私はこれをシュヴァルツコップの最高の演奏だと思っている。が、それにもまして、このライブは素晴らしい。ライブであるだけに、シュヴァルツコップは全曲盤よりも自由に歌っており、訴える力が大きい。

 

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「ペレアスとメリザンド」 

 カラヤン指揮、ローマRAI響。1954年のライブ。ほかに、ヘフリガー(ペレアス)、ミシェル・ルー(ゴロー)。これが意外といい。私にわかる限りでは、シュヴァルツコップがとてもきれいなフランス語で歌っている。カラヤン指揮の「ペレアス」といえば、フォン・シュターデがメリザンドを歌ったものが有名だが、私はシュヴァルツコップの録音のほうがフランスの香りが残っていて好きだ。フォン・シュターデのレコードは、このオペラにしてはメリハリがありすぎ、演出がうますぎて、私は違和感を覚えるのだが、それに比べて今度聴いたものはもっと率直。シュヴァルツコップも可憐で不思議な少女を実にうまく歌っている。録音状態も悪くない。

 

・「ヘンゼルとグレーテル」

 カラヤン指揮、フィルハーモニア。ヘンゼルはグリュンマー、グレーテルがシュヴァルツコップ。これはまぎれもない名演。このレコードの存在はずっと昔から知っていたが、どういうわけだが、これまで聴いたことがなかったように思う。初めて聴いて、生き生きとしたヘンゼルとグレーテルの歌唱、そしてカラヤンの音楽づくりに驚嘆。

 

・「コシ・ファン・トゥッテ」

 ベーム指揮の1962年のザルツブルクでのウィーンフィル。配役の多くが有名なレコードと重なっているが、グリエルもを歌うのはヘルマン・プライ。引き締まったとてもよい演奏。シュヴァルツコップに関しては、レコードとかなり印象が異なる。実は私は、レコードはいじくりすぎている気がしてあまり好きではないのだが、このライブのほうが率直で好きだ。ところで、「コシ・ファン・トゥッテ」は、以前、カンテッリ指揮の1956年のミラノスカラ座のライブのCDを聴いて、とてもおもしろく思ったことがある。カンテッリの溌剌として引き締まった指揮もさることながら、シュヴァルツコップの歌にも勢いが合って素晴らしい。

 

・「ディドとエネアス」

 ジェレント・ジョーンズ指揮、マーメイド・オーケストラ。ディドを歌うのは、フラグスタート、シュヴァルツコップはベリンダを歌っている。これもなかなかいい。フラグスタートの堂々たる強靭な歌と、シュヴァルツコップの可憐でちょっと弱い歌が対照的でおもしろい。

 

 そのほか、新たに聴いたものに、オペラ「トロイラスとクレシダ」抜粋(ウィリアム・ウォルトン作曲のオペラからの抜粋。新古典主義の作曲家なので、19世紀のオペラを聴いているのと大差ない感覚で聴ける)、「バクダッドの理髪師」(ブラームスとほぼ同時期に生きた作曲家コルネリウスのオペラ。シュヴァルツコップの歌もおもしろい)、「アブ・ハッサン」(ウェーバーの1時間に満たないオペラ。シュヴァルツコップは好調)、そして、久しぶりに「ホフマン物語」(クリュイタンス指揮、パリ音楽院)、「賢い女」(サヴァリッシュ指揮、フィルハーモノア)、「ジプシー男爵」「ヴェニスの一夜」「ウィーン気質」「微笑みの国」(アッカーマン、フィルハーモニア)も聞き返した。本当にこのころのシュヴァルツコップは声もしっかりと出ており、迫真力に富んでいて実にいい。音程がびしっと決まっていないところもないではないが、それも魅力の一つだと思う。どっしりしておらず、どこか弱さを持った人間が浮かび上がってくる。

 私は多少凝り性のところがあって、いったん聴き始めると、すべての演奏を聴こうとする傾向がある。そのためにかなりお金と時間を使ってしまっている。本当は改めたい性格なのだが・・・

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コメント

樋口裕一様
 大変お忙しい中をエリーザベト・シュヴァルツコップのCDを精力的にお聴きになったようですが、シュヴァルツコップ・ファンとしましては本当に嬉しい限りです。最近リリースされた「四つの最後の歌」は二つの録音に10年近い年月がありますが、彼女のこの曲への愛着が少しも変わらずに凄さを感じます。「アリアドネ」のライブも完成度が高いですね。
 それと「ホフマン物語」のジュリエッタは彼女最後のオペラ録音となったものですが、それまでのロンドン、ベルリンを離れレッグのいないパリでの録音に慣れない所もあったでしょうが、燃焼力ある歌い方に惚れぼれします。他のCDもすべて素晴らしいものです。また、じっくり感想を話したいと思ってます。

投稿: 佐藤勝宏 | 2012年12月28日 (金) 09時20分

あけましておめでとうございます。
バイロイトの放送の樋口先生のお話し拝聴致しました。せっかくなので、ザルツブルクのティーレマンの影の話題なども、もう少し長くお話しされたら、と思いました。もっともNHKの都合もおありでしょう。
ところで、シュワルツコップは、12月下旬に偶然、オベレッタの「ウイーン気質」と「微笑みの国」のCDを聴きましたが、大変素晴らしく感動しました。
今年もいろいろな話題をお聞かせ下さい。

投稿: 白ネコ | 2013年1月 5日 (土) 22時30分

佐藤勝宏様
コメント、ありがとうございます。
大変失礼しました。ご返事が遅れました。
正月中も、ずっと原稿を書いている状況でして、残念ながら、あまりシュヴァルツコップを聴くことができませんでした。仕事を終わらせて、ゆっくりと音楽に耳を傾けたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2013年1月 6日 (日) 09時23分

白ネコ様
コメント、ありがとうございます。そして、あけましておめでとうございます。
バイロイトの放送をお聞き下さったとのこと、ありがとうございます。様々な事情で、あれ以上のことを話すことはできなかったように思います。
シュヴァルツコップは歴史に燦然と輝く大歌手だと思います。カラスに匹敵すると思うのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2013年1月 6日 (日) 09時29分

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