« NHKの「ローエングリン、そしてシュヴァルツコップのCD | トップページ | 飯田みち代+笠松泰洋デュオコンサート迫る、そしてロッシーニオペラDVDのこと »

2013年始まる 2012年の「ベートーヴェンは凄い」もこれまで以上に凄かった

 2013年元旦。

 今年も家族が健康に過ごせますように。知人たちに不幸がありませんように。日本が、世界が平和で豊かになりますように。

 昨日、すなわち2012年1231日、東京文化会館で「ベートーヴェンは凄い」を聴いた。小林研一郎指揮、篠崎史紀さんをコンサートマスターにした岩城宏之メモリアル・オーケストラ。私がこのイベントを聴くようになって5回目だと思う。毎回、凄さに圧倒されてきたが、今年も素晴らしかった。

 交響曲第1番が始まった時、これまでのマエストロ・コバケンとかなり印象が異なることに気付いた。オーケストラはこれまで同様、日本のほかのオケでは聞けないような見事な音。サイトウ・キネンに匹敵するのではないか。ところが、コバケン特有のテンションの高さをあまり感じない。昨年までのように、猛烈な速度でテンション高く演奏するのではなく、むしろゆっくり演奏している。第4楽章になってかなりハイテンションになった。

 第2番も同じ雰囲気。緩急の差が大きく、ゆっくりしたところは丁寧に歌わせる。昨年までは、ちょっとザツではあるが、ともあれテンションの高さで押し切るといったところがないでもなかったが、そんなことはない。そのため、音楽が立体的になり、メリハリがついている。ただ、昨年までの元気がないので、もしかしたら、体調が悪いのではと、ちょっと心配になった。

 そして、第3番。第1楽章のスケールの大きさに圧倒された。まさしく巨匠風の演奏。しかも、実に構築的。情念で押すのではなく、曲の構造を見極めたうえで、がっしりと音を作り出していく。もちろんオケは素晴らしい。弦楽器も管楽器もティンパニも機能的に文句なし。しかも、よく歌う。第2・3・4楽章も巨匠風に大きく描いて、圧倒的名演だった。

 実は第4番はきちんと聞けなかった。この曲の終了直後に、このイベントの主催者である三枝成彰さんとトークをすることになっていたため、楽屋に移動して聴いた。正面で聴けなかったのが残念。

 ところで、第4番の後、私の出番であるトーク。三枝さんに舞台上で話をするように依頼されたのは、2週間ほど前だったと思う。音楽をゆっくり聞けないし、しゃべりは上手ではないので気が重いと思ったが、現存の人物の中で最も尊敬する三枝さんの依頼を断ることはできない。今回のプログラムにも執筆した私の所有する270枚を超す第九のCDについて話した(プログラムでは265枚となっているが、数え忘れたもの、その後に購入したものを含めて、270枚を超えている。ただし、未整理のため、重複もかなりあると思われる)。

 とはいえ、私が第九のCDをたくさん持っているのは、CDが発売されるようになった当時から、音楽好きの素人として、目についたCDをとりあえず購入して聴いているうち、それが年間10数枚ずつだったらしく、25年ほどの間に250枚を超えていた・・・というだけのことであって、特に整理しているわけではないし、そもそも専門家ではない。だから、たいした話はできなかった。浅くてまとまりにないことを言っただけだった。が、ともあれ、フルトヴェングラーやテンシュテットの演奏の凄さについては伝えることができたし、三枝さんの楽しい話が聞けたので、それで良しとしよう。

 第5番以降は、トークのことを考えず(ただ、ちらちらと「バカなことを言ってしまったのでは?」という反省が頭をよぎった!)に音楽に集中して聞くことができた。

 第5と第7は言葉をなくすような名演だった。まさしく巨匠。昨年までのように突っ走るのではなく、丁寧に音を構築していく。そして、テンションの高いところはかつてと同じように。そうすると、実に深くて大きなベートーヴェンが浮かび上がる。

 昨年の「ベートーヴェンは凄い」以来、マエストロ小林の演奏を聴いていなかったので、気付かなかったが、まさしく巨匠。素晴らしい。

 第6は難しい曲。三枝さんによると、「曲の出来が悪い」とのこと。私も実は感動したことがない。見事な演奏だったが、大感動には至らなかった。

 第7の途中からハイテンションのコバケンの面目躍如。第8はそのまま突っ走った。それはそれで素晴らしかったが、これも巨匠風に演奏してくれるともっと凄かったのではないかと思った。

 最後が第九。マーラーによるオーケストレーション補足版。

 楽器を大量に増やし、あれこれの楽譜に手を入れ、スケールを大きくしたオーケストレーションに私はかなり違和感を覚えた。これは、クリスチャン・ヤルヴィ指揮、トーンキュンストラー管のCDで聴いたことがあったが、そのときの印象も変わらなかった。スケールを大きくすればするほど、曲そのものが持っている本質的な迫力が失われ、むしろ安っぽくなってしまう気がするのは、私がもともとマーラー嫌いであるためではあるまい。まさしくマーラーみたいなベートーヴェンで、私には受け入れがたいものだった。

 ただ演奏は素晴らしい。青戸知(バリトン)はリート的に語りかけるようなソロで、とても説得力がある。錦織健(テノール)もこの難しいソロを完璧に歌いこなし、朗々と声を響かせる。アルトの竹本節子もソプラノの岩下品子も文句なし。

 終演後、ロビーで有志による「美しく青きドナウ」を聞くうち、2013年を迎えた。その後、関係者のパーティに参加して、何人かの知り合い(コバケンさんともお話しできた!)と話をした後、車で、深夜の正月を自宅に急いだ。

私自身のしゃべりはともかくとして、最高に満足なコンサートだった。このような圧倒的名演で昨年を締めくくることができて、実にうれしい。ただ、パーティの席で、冗談なのかもしれないが、マエストロ小林が、「もう限界。来年はお断りしようか」と言われていたのが心配。まさか本気ではないと思うが、マエストロ小林のほかに、1番から9番までを一晩で振ってこれほどの名演をしてくれる指揮者がおられるとは思えない・・・

|

« NHKの「ローエングリン、そしてシュヴァルツコップのCD | トップページ | 飯田みち代+笠松泰洋デュオコンサート迫る、そしてロッシーニオペラDVDのこと »

音楽」カテゴリの記事

コメント

新年あけましておめでとうございます。
今年もブログの更新、楽しみにしております。(私は多忙のため休みがちですが・・)

今回も素晴らしい演奏の連続で、圧倒されました。その感動を思い出しつつ、ラジオでウィーンフィルのニューイヤーコンサートを聴いています。

私は岩城さんの最後の年が始めてで、その後はコバケンさんの3回目をパスしていますので、7回目になります。

気のせいかも知れませんが、昨年までと比べて、響きに厚みが感じられた様に思われます。オケが成長したのか、コバケンさんの振り方が変わったのか、判断は出来ませんけれど。

エロイカでは、二楽章の遅めのテンポが印象的でした。また終楽章後半で、変奏主題が朗々と鳴り響く所が感動的でした。
四番のあとのトーク、楽しく聴かせて頂きました。おすすめの音源、私は一つも持っていません。強いて言えばバイロイトの演奏、かなり昔にCD化された時にラジオで放映されたものをエアチェックしたテープがあるくらいです。

5番以降も名演の連続で、私から重ねる言葉もありません。強いて言うと六番、溢れる歓びに身を任せたように思える終楽章は、素晴らしかったと思います。
7番の終楽章の盛り上がりは、半ばやけくそとも思えましたが、見事に締めくくったと思います。
8番(私の一番好きな曲で、アンケートにもそう答えました)は曲の持つ遊び心が十分に生かされた演奏でした。

そして問題の第九。まぁ好き嫌いはあるでしょうね。話の種にはなる、と言った所でしょう。ただ、祝祭的な賑やかさを求めると言う意味では、面白かったと思います。

圧倒的な名演の連続でしたが、実は一つだけ、不満があります。毎回思うことですが、第一楽章の呈示部をなぜ繰り返さないのでしょうか。せめて1.5.8番くらいは、繰り返して欲しいと思います。総演奏時間は、この三曲だけなら、10分も増えないと思います。同じことを感じる人は他にもいるみたいで、私の後の席の人も、1楽章が終った所で隣の人に「繰り返してないね」とささやいてました。故岩城宏之さんが振った時は、病身・高齢にもかかわらず、繰り返していたのを聴いているだけに、ちょっと残念でした。このことはアンケートにも書いていますが、悪筆なので読んでもらえるかどうか・・・。

圧倒的な名演だっただけに、ちょっと残念な気持ちが残りました。

投稿: ムーミンパパ | 2013年1月 1日 (火) 20時13分

ムーミンパパ様
コメント、ありがとうございます。そして、新年おめでとうございます。
大晦日には、あの場にいらしてたんですね。本当に素晴らしい演奏でした。7回目ですか。私もこれから続けようかと思っています。あれほどの名演を聴くと、また今年の大晦日も聴きたくなりますね。マーラー版はやめてほしいと、個人的には強く思いますが。繰り返しについては、私はあまり気になりませんでした。
私のトークについては、お気づかいありがとうございます。
今年もよい演奏にたくさん触れたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2013年1月 3日 (木) 18時34分

遅れ馳せながら、おめでとうございます。そういえば、今年は1933年から、満80年ですね。日本にも世界にも、色々あった年でした。さて、ベートーベンの交響曲を一気に全部とは、演奏者側が凄いのは勿論ですが、聴衆側もやはり凄いです。ぼくはどうも気後れして、未だにこのコンサートには行った事がないです。ブラームスでやっても、ラ・フォル・ジュルネみたいに時間の間隔があけば苦になりませんけど…。午後の昼間にまず2曲、夜に残り2曲とか。でも、ベト全一気聴きに挑戦するのもいいかも知れないですね。コバケンさんが途中でへたれなかった様子で、これまた凄いです。
では今年もよろしくお願いいたします。樋口先生にも良い一年になります様に。

投稿: 崎田幸一 | 2013年1月 5日 (土) 09時58分

そういえば、言い忘れていました。樋口先生のお話が直接うかがえるコンサートやトークショー等あれば、行きたいと思います。

投稿: 崎田幸一 | 2013年1月 5日 (土) 10時00分

崎田幸一 様
コメント、ありがとうございます。
そして、新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
おっしゃる通り、実は9曲全曲を一日で聴くのは、かなり大変です。が、演奏する人々はその比ではないと思います。それを凄まじい集中力で演奏するマエストロ、そしてオーケストラのメンバーにただただ感嘆するばかりです。
ところで、1933年って、何の年でしたっけ? ちょっと思い当たらずにおります。
なお、ブログ(11月24日)にも書きましたが、1月9日と2月9日に、九段下でゼミ主催のコンサートを行います。私が話をする予定はありませんが、軽食・ドリンク付きの気軽なコンサートですので、個人的にお話しする時間はかなりあると思います。おいでいただけると嬉しいのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2013年1月 6日 (日) 00時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/56442373

この記事へのトラックバック一覧です: 2013年始まる 2012年の「ベートーヴェンは凄い」もこれまで以上に凄かった:

« NHKの「ローエングリン、そしてシュヴァルツコップのCD | トップページ | 飯田みち代+笠松泰洋デュオコンサート迫る、そしてロッシーニオペラDVDのこと »