新国立劇場「タンホイザー」、少々不満
1月30日、新国立劇場でタンホイザーを見た。少々不満。仕事が重なって猛烈に忙しいので、ごく簡単に感想を書く。
ヴォルフラムを歌ったヨッヘン・クプファーと牧童の國光ともこが最もよかった。クプファーは伸びのある豊かな声。國光も清楚な輝きを感じた。それから、合唱もすばらしい。
タンホイザーを歌ったスティー・アナセンは、その昔、ベルリン・シュターツオパーの「パルジファル」コンサート形式日本公演で、風邪をひいたエルミンクの代役で、楽譜を見ながら必死に歌っていた歌手。ここまでの歌手になったのかと感慨深かった。演技力があり、しっかりと歌っている。私は大いに共感を覚える。領主ヘルマンのクリスティン・ジグムンドソン、ヴェーヌスのエレナ・ツィトコーワも十分に満足。ヴァルターの望月哲也、エリーザベトのミーガン・ミラーもいい。女性陣は、容姿的にもきわめて美形。二人の歌手を似た雰囲気にしたのは、エリーザベトとヴァヌスの裏表の関係を強調するためだろう。
私が不満を覚えたのは、コンスタンティン・トリンクスの指揮。ゆっくり、しみじみと、そして繊細に演奏したいのかもしれないが、メリハリがなく、盛り上がりに欠ける。ドラマティックな要素がかなり不足。平板なワーグナー。官能性もあまり感じられなかった。東京交響楽団も、きちんと合わない。ちぐはぐな感じが残った。
演出についても、何事もないまま終わった印象。バイロイトのような読み替えも困るが、今回のように、何も起こらないも困る。きちんと解釈を示してほしい。
というわけで、深い感動は得られないまま、劇場を後にした。
帰りに若い女性に声をかけられた。かつて、私に小論文を習ったという。大学に入学し、今、編集者だとのこと。私の小論文指導が役に立ったと言ってくれた。とてもうれしかった。
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コメント
樋口先生、私は現在、ある国立大学で日本語表現法という授業を非常勤で教えております。私が高校生の時は、樋口先生の著書を読み漁り、小論文の添削講座を取り、それらが大学入学後も大変役に立ったことを覚えております。ありがとうございました。さて、今日は友人のヨッヘンが部屋で誕生日パーティを催したので参りました。そこには、領主ヘルマン役のクリスティン・ジグムンドソンさんやエリーザベト役のミーガン・ミラーさんも見え、楽しいひと時を過ごしました。ヨッヘンはもちろんですが、彼らも明るく、本当に素晴らしい人柄の方々です。指揮者のコンスタンティン・トリンクスさんも来ていました。彼とは、あまりお話しはできませんでしたが、驚くほど若く見え、びっくりしました。今日こちらのブログを拝見しましたが、また明日ヨッヘンには、講演後会う予定ですので、先生がお褒めになっていらしたことを是非お伝えしておきたいと思います。きっと喜ぶと思います。それでは失礼いたします。
投稿: HF | 2013年2月 2日 (土) 04時15分
すみません、誤字です。「講演後」→「公演後」失礼いたしました。(下から3行目)
投稿: | 2013年2月 2日 (土) 04時17分
HF様
コメント、ありがとうございます。拙著をお読みいただいたとのことにつきましても、ありがとうございます。
クプファーさんとお友達ですか。本当に素晴らしい歌手ですね。きっとこれから先、もっともっと活躍なさるでしょう。また機会がありましたら、ぜひ聴きたいと思っています。
投稿: 樋口裕一 | 2013年2月 2日 (土) 23時06分
こんにちは。
私も、「タンホイザー」を鑑賞してきましたので、興味深く読ませていただきました。私の気が付かなかった所も詳細に書かれていて、当日の舞台が再び目に浮かびました。ありがとうございます。
オーケストラの演奏はご意見をお読みすると確かにそんな気もしましたが、貴兄ほど演奏を深く聴いていなかったのでそれほどは気になりませんでした。
私個人の感想としては、主役級の歌手と合唱バランスもよく、けっこう楽しめる舞台だったに感じました。
私もブログに率直な感想などを書いてみましたので、ご意見、ご感想などコメント頂ければ感謝致します
投稿: dezire | 2013年2月 3日 (日) 12時07分
dezire様
コメント、ありがとうございます。ブログ、読ませていただきました。
私も合唱と歌手陣については、満足でした。ほかの方のブログなどをのぞいてみましたところ、タンホイザーをうたったアナセンを否定的にとらえる人が多いようでしたが、私はとても共感しました。もう少し声に輝きがあるともっとよいのですが、実に堅実に、実にしっかりと歌っていますので、私は十分に満足でした。
ただ、やはり気になるのは指揮でした・・・
投稿: 樋口裕一 | 2013年2月 6日 (水) 21時45分
樋口先生、
コメントありがとうございます。先生がお褒めになってらっしゃったことをヨッヘンに伝えましたら、大変喜んでおりました。彼は本当に素晴らしい人柄の持ち主ですが、歌に対する自身の姿勢は大変慎重で厳しいです。朝起きてしばらくは発声せず、ホテルなどで従業員とどうしてもやりとりしなければならない時は筆談すると言っておりました。
私も5日の公演に足を運びました。感涙する場面もありましたが、隣の席の方が「あれ、タンホイザー今日は調子悪いのかな…」と言っているのが聞こえました。それはさておき、エリザベート役のミーガン・ミラーさんも公演後に連絡をくれました。「死の都」で来年も新国立劇場に舞い戻ってきます!!とのことです。ところで「タンホイザー」の指揮ではないのですが、「愛の妙薬」の指揮をしているジュリアンさんに、タンホイザー公演の休憩中、偶然また会いました。もし樋口先生が彼の演奏をお聴きになったらどのように評価されるのか…ちょっと気になりました。それでは失礼いたします。
投稿: | 2013年2月 7日 (木) 23時19分