日下紗矢子のヴァイオリンに興奮
今年に入って、ずっと猛烈に忙しかった。私の勤める多摩大学の業務、私が塾長を務める白藍塾の仕事、そして原稿を書く仕事。そのいずれもでさまざまな難題をかかえ、仕事が立て込んで、まったく動きが取れなかった。しかも、時々コンサートに行くものだから、いっそう仕事が滞る。
今日3月14日、やっと、正月から掛かりきりだった原稿を書き上げて、出版社に送った。少し肩の荷が下りた。時間さえたっぷりあれば1週間か10日くらいで仕上がるはずだったが、他の仕事で外に出ることが多く、なかなか執筆に時間を割けず、完成が今になってしまった。すぐに次の仕事があるが、あと数日だけでもゆっくりしたい。
少しだけ軽い気持ちになって、夕方、武蔵野市民文化会館小ホールで日下紗矢子ヴァイオリン・リサイタルを聞きにいった。素晴らしかった! 興奮した。
前半にバッハのヴァイオリン・ソナタ ホ短調とベートーヴェンの「クロイツェル」。ドイツ本流の音楽。バッハもとてもよかった。細身の清潔な音。小ざっぱりした雰囲気なのだが、ここぞというところで鋭く切り込む。そのため、スケールが大きく、魂を深く揺さぶる。オズガー・アイディンのピアノも、ピタッと寄り添って実にいい。平板ではなく、まさしく立体的な音で、弾むような雰囲気。
「クロイツェル」は凄まじかった。繰り返すが、ヴァイオリンは細身で清潔な音だ。それなのに、私は、不思議なうねりの世界を感じる。大きくうねって、聞く者をベートーヴェンの世界に巻き込んでいく。精神が大きくうねっていく。第一楽章と第三楽章のスケールの大きく情熱的な部分が実にすばらしい。適度に荒々しく、美しいところは限りなく美しい。
後半は初めにメシアンの「主題と変奏」。初めて聞く曲。その次にフランクのソナタ。前半がドイツ音楽なのに対して、後半はフランス的な世界が展開される。
フランクも「クロイツェル」と同じように素晴らしかった。4つの楽章を通して一つの物語を語るかのように展開していく。第一楽章は抑え気味、第二楽章で情熱が掻き立てられ、第三楽章、第四楽章である種のエクスタシーに達する。ここでもかなりうねるが、前半のドイツ音楽を弾く時とは少し異なる。フランス風の、やや都会的なうねりとでもいうか。それが深い興奮に導く。何度か感動のために身体に震えが走った。終楽章では、全身がふるえた。
アンコールはバッハのアリオーソとG線上のアリア。興奮した魂を鎮める音楽。まさしく、前半にドイツ、後半にフランスで、それぞれの魂の情熱の高まりを聞かせ、最後にそれを鎮める・・・というコンサート全体もしっかりと計算しつくされ、物語が作り上げられている。みごと。
日下のヴァイオリンは2、3年前に一度聞いた記憶がある。とてもよかった記憶があるが、興奮するほどではなかった。が、今回は心の底から感動した。素晴らしいヴァイオリニストになったものだと思った。
ところで、一昨日(12日)は仕事で京都に行った。京都駅前のメルパルクで講演。開始時間よりも少し早目について、タクシーで智積院に行って、長谷川等伯と息子久蔵の絵を見た。等伯の楓の図と久蔵の桜の図は生命そのものをひしひしと感じる。見るたびに心を奪われる。先日、京都で叔母の死を知り、無性に等伯の絵を見たいと思ったが、時間が合わなかった。今回、見ることができてよかった。
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