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オペラ研修所公演「カルディヤック」のこと、サヴァリッシュ氏の訃報

 3月1日、新国立劇場中劇場にて、オペラ研修所公演、ヒンデミット作曲の「カルディヤック」を見た。とてもおもしろかった。

 かなり前にポネル演出、サヴァリッシュ指揮のこのオペラの映像を見て、大いに興味をひかれ、ぜひ実演を見たいとずっと思っていた。今回、初めて見ることができた。なかなかの傑作だと思った。もっと上演されていいオペラだ。「ヴォツェック」やヤナーチェクのオペラとも通じる、内的に激しいドラマ。ドイツ表現主義の典型と言えるような作品だ。

 ストーリーもさることながら、何よりも合唱の扱いがおもしろい。凶暴で、感情に動かされやすい群衆をうまく描いている。ナチス勃興前夜のドイツの不安な精神状況がよくわかる。

 新国立劇場オペラ研修所の公演だが、レベルはかなり高い。見事な演奏。

 私は特に、貴婦人を歌った柴田紗貴子、カルディヤックの娘を歌った倉本絵里の声が心に響いた。そのほか、士官の日浦博章、騎士の伊藤達人、衛兵隊長の大久保充哉、カルディヤックの村松恒夫もとてもよかった。指揮は高橋直史。オケは、トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ。理想的とはいえないかもしれないが、十分に鮮烈でキレのある音をだしていた。ただ、もっともっと表現主義的な激しさがあってもよいように思った。合唱は栗友会合唱団。これもとてもよかった。

 演出は三浦安浩。プログラムに本人が書いていた通り、まさしくフィルム・ノワールを意識した演出。ただ、私としても、どうせ映画を意識するのなら、「カリガリ博士」などを意識するほうがもっとずっと鮮烈だったのではないかと思う。ただ、きっとそのようにすると、いかにもドイツ表現主義的になって陳腐になると、演出者は考えたのかもしれない。三人の黙役が登場する。プログラムの演出家自身の言葉によれば、「影」ということらしいが、実は私には納得できなかった。

とはいえ、全体的には不気味で、退廃的で、しかも不思議なエネルギーにあふれていて、とても魅力的な舞台だった。

 ヒンデミットという作曲家には、大いにひかれる。「カルディヤック」のDVDを持っていたはずなので、もう一度見てみようと思って探すのだが、見つからない。我が家には1万枚近いCDとDVDがあるので、一度見当たらなくなると、なかなか出てこない。

 ともあれ、何とか見つけ出してみてみよう。

 数日前、サヴァリッシュ氏の訃報を見た。特別に好きな指揮者というわけではなかったが、もちろん何度となく感動的な音楽を聞かせてもらった。バイエルン国立歌劇場によるワーグナーやシュトラウスのいくつかのオペラは素晴らしかった。

 1984年、日本リヒャルト・シュトラウス協会が発足したとき、私も早速協会員になって、発足パーティに出席した。気軽な気持ちで当時愛用していたインテルメッツォのロゴのついたラフな上着(専門用語で何と言うか知らないが、私の知っている言葉でいえばジャンパーに近い)を着て出かけた。周囲の方がみんな正式の礼服やスーツを着ているのにびっくり。小さくなっていた。すると、名誉会長だったサヴァリッシュ氏が挨拶にたった。「さきほど、インテルメッツォの服を着た男性を見かけたが、インテルメッツォが私たちのシュトラウスの優れたオペラの題名だとご存知の方は、それほど多くないだろう」というように話を切り出した。きっと私のことだろうと思った。「もちろん、シュトラウスのインテルメッツォのことは知ってますよ。だから、この服を買ったんですよ」と後でサヴァリッシュ氏に弁明しに行こうと思ったが、もちろん、ドイツ語ができるわけでもないので、その勇気が出ないまま、すごすごと帰った。

 私がもっともサヴァリッシュ氏に個人的に最も近付いたのがこのときだった。合掌。

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コメント

サヴァリッシュ氏の死去は本当に時代が変わったという感がします。

思えば、ホルスト・シュタイン氏などN響を良く引っ張ったマエストロが今はいらっしゃらないですね。
サヴァリッシュ氏のお得意はワーグナー、そしてR.シュトラウスでした。ミュンヘン・オペラでの「影のない女」は定評がありましたが、今は樋口先生がご覧になられた、かのティーレマンのザルツでの歴史的な名演が世をにぎわせる時代になり、隔世の感です。

日本のR.シュトラウス協会発足のパーティには私も出席しましたが、今はもうサヴァリッシュ氏はいらっしゃらないのですね。ご冥福をお祈りいたします。

投稿: 白ネコ | 2013年3月 2日 (土) 12時07分

サヴァリッシュというと自分の学生時代よくテレビでよくみかける指揮者として御馴染みでした。意外かもしれませんが、ショスタコーヴィチの8番をN響で指揮して、素晴らしく明晰で格調の高い緊張感のある演奏を聴かせてくれたことが今でも印象に残っています。

個人的にはCDにもなっているフィラデルフィアとサントリーホールでやった、オールRシュトラウスプロが特に忘れられない演奏となっています。

正直にいうといまいちそんなに相性のいい指揮者ではなかったのですが、やはりお見かけしなくなってから一抹の寂しさのようなものは感じていました。その後相次いで、クライバーン氏、アラン女史と亡くなられました。残念ですがこれも時代というべきなのでしょう。謹んで哀悼の意を表させていただきます。

投稿: かきのたね | 2013年3月 3日 (日) 18時29分

白ネコ様
コメント、ありがとうございます。
あのパーティに出席しておられましたか!
昨日のことのように覚えていますが、考えてみると、あれから30年近くたつんですね。当時のサヴァリッシュ氏は、今の私よりも若かったのだと思うと、驚いてしまいます。その頃、私はサヴァリッシュ氏を長いキャリアを持つ巨匠だと認識していたのですが。
NHKが、追悼に「ワルキューレ」を放送するようですね。私も、それを見て追悼したいと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2013年3月 3日 (日) 23時23分

かきのたね様
コメントありがとうございます。
私もサヴァリッシュにつきましては、N響のブラームスやベートーヴェンを聴いて、少々物足りなさを感じた記憶があります。私はサヴァリッシュは基本的にオペラの人だと認識しておりました。ワーグナーやシュトラウス、とりわけ猿之助演出の「影のない女」は素晴らしいものでした。0歳児だった息子の大病、・入院・手術が重なって、「アラベラ」と「マイスタージンガー」を見られなかったのが、今更ながらに残念です(息子は何事もなく今もピンピンしています)。

投稿: 樋口裕一 | 2013年3月 4日 (月) 09時04分

現在NHK:Eテレの「お願い!編集長」と云うサイトで1986年N響定期公演1000回記念でのメンデルスゾーン作曲のオラトリオ「エリア」を再放送するように要請しております。2014/4/11までに100人の賛同(100Eね!)が集まれば再放送されます。是非ご協力ください。
http://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/30936.html#main_section

投稿: がんばれ!公共放送NHK | 2014年4月 5日 (土) 12時05分

がんばれ公共放送NHK様
承知しました。
「エリア」、ぜひ見たいですね。

投稿: 樋口裕一 | 2014年4月 9日 (水) 07時30分

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