ハイティンク+ロンドン響のベートーヴェン第7に感動
3月9日 、サントリーホールでベルナルト・ハイティンク指揮、ロンドン交響楽団を聴いた。
前半には、まず、ブリテン作曲の「ピーターグライムス」から「4つの海の間奏曲」。好きなタイプの曲ではないが、演奏は見事。アンサンブルがきれい。音楽の作りもよくわかった。退屈しないで聞けた。
そのあと、マリア・ジョアン・ピリスが加わって、モーツァルトのピアノ協奏曲第17番。ピリスの音は本当に素晴らしい。ピリスが加わったとたん、かぐわしい世界が広がった。しなやかで芯が強い。ほどよく叙情的。かつて、ピアノにはさして関心のない私がデュメイ目当てにコンサートに行き、むしろピリスに感激したことがあったが、あの時のことを思い出した。
ハイティンクの指揮はまさにハイティンク。無理がなく、でしゃばらないが、十分に雄弁。大好きなタイプの指揮だ。オケも素晴らしい。フルートのなんという美しさ! 弦も厚みがあって美しい。
本領発揮は、後半のベートーヴェンの交響曲第7番。どっしりした音。重心が低く、誇張せず、慌てず焦らず、じっくりと音楽を聞かせてくれる。ティンパニのどっしりした音がまさにハイティンク風。そしてじわじわと感動が広まっていく。ハイティンクを聞くと、ヤンソンスまでがあざとい指揮者に思えてくる。特に何も工夫していないように聞こえる。オケを煽っているようにも見えない。煽りたくなる曲だと思うが、少しも煽らない。それでいて徐々に盛り上がり、最高潮に達する。生き生きとして深いベートーヴェンが鳴り続ける。これぞ至芸。第四楽章は魂が震えた。
アンコールは、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のスケルツォ。このようなチャーミングで諧謔的な曲もハイティンクの手にかかるとちょっと奥ゆかしくなる。これみよがしに器用なところを見せるのではなく、しっかりと人生の根を下ろした音楽とでもいおうか。いやはや本当に素晴らしい。
ただ、私の前の席の高齢の女性が、ずっと演奏中に居眠りをしているのが気になった。目を覚ましていたのは休憩中だけで、音楽が始まると、うつらうつら始める。頭が揺れ、身体が動く。時々目を覚まして、姿勢を直し、身体でリズムを取ろうとする。が、すぐにまたうつらうつら始める。それを私の目の前、つまり私とハイティンクの後ろ姿を結ぶ直線上でずっとやられるのだから、気になって仕方がなかった。その女性はマスクをしているようだったので、もしかしたら花粉症の薬のせいで眠気に襲われているのかもしれない。お互いさまなので非難する気はないが、やはり気になる。
第3楽章で、携帯の呼び出し音も鳴り響いた。これは非難しないわけにはいかない。緊張感が途切れてしまった。
しかし、演奏そのものには私は大いに感動した。今となっては当たり前のことだが、ハイティンクは押しも押されもしない大巨匠だと改めて思った。
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