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第7回12歳の文学賞について

 昨日、小学館本社で第7回「12歳の文学賞」受賞式が行われた・・・はずだ。「はずだ」というのは、私は審査員のひとりでありながら、仕事が重なって授賞式には参加できなかったからだ。大変残念に思う。

 最終審査会も大事な大学の会議が重なって出席できなかった。ただし、もちろん通過作品はすべて読み、私の評価は審査員の先生方に伝えてもらって、最終結果の参考にしてもらった。最終結果と私の判断はまったく同じだったので、すんなりときまったようだった。

 今年もまた傑作ぞろいだった。たまたまよい小説が書けたというのではなく、コンスタントに小説を書くだけの力を持った小学生が増えている。感服した。

 そんな中、大賞を獲得した西堀凛華さんのホラー小説「人形」は、完成度が高かった。何気ない描写をしても、そこに妖しさが宿り、読む者の興味をかきたてていく手腕は大人顔負け。たくさんの人形が登場し、それぞれに名前がつき、それぞれに個性があるが、そうした個性をしっかりと描きわけている。ストーリー展開も実におもしろい。

 2作の優秀賞受賞作の一つ、松崎成穂さんの「コミック・トラブル」にも驚嘆した。まさしく本格的な文芸作品の味わい。多くの人物が登場し、複数の視点から一つの物事が追われていくので、読者は自分で客観的事実を探り当てていかなければならない。しかも、かなり複雑なストーリー。ただ、やはり小学生が中年男の視点で描くのは無理がある。その点で少し説得力が不足。これから人生経験を積んだ後、どんなすごい小説を書くかが楽しみだ。

 もう一つの優秀賞受賞作、仲川晴斐くんの「くもの糸その後」は、芥川龍之介の短編のパロディ。おしゃか様とえんま大王の立場が逆転して実に皮肉のきいたストーリー。ひねりがあり、そこに人間観察の裏付けがある。しかも、悪ふざけではなく、品格もある。オチも見事。言葉のセンス、皮肉のセンスに脱帽。個人的には、今回の全作品の中で最も好きな作品だった。

そのほか、飯沼優さんの「寄宿人の生活」(樋口裕一賞受賞作)に私は大いに興味をひかれた。映像が目に浮かばない個所や納得のいかない説明があるのだが、つじつまの合わないところがあるのに、深いところで作者の肉声を響かせている。不思議な小説だと思った。

 

 今回の授賞式に出席できなかったことでも明らかな通り、今の私の状況では、審査委員という責務をまっとうできないと判断せざるを得ない。

 そもそも、昨年の4月に多摩大学経営情報学部の入試委員長になってからというもの、年に12回の入試と10回を超すオープンキャンパス(来年度はもっと増える)に関する仕事に忙殺され、自分の原稿も停滞し、多摩大学以外の業務でも私が忙しいがゆえに大きなミスが増え、何度か計画した旅行もすべて直前になってキャンセルせざるをえなくなり、コンサートのチケットを何枚も無駄にした。しかも、このところ、時折目が見えづらくなる(眼科で見てもらったところ、白内障という診断を受けた。まあ、要するに、老化現象!)。そんなこんなで、私自身の負担を少しでも減らすために、12歳の文学賞の審査員は今回限りで終わりにさせていただくことにした。

 審査員の末席を占めさせていただいている間、子どもたちの優れた作品をたくさん読み、あさのあつこさん、西原理恵子さん、石田衣良さんらと交流して、とても充実していた。小学館のスタッフの方々にも大変お世話になった。感謝申し上げる。今後もこれまで以上に、多くの小学生の豊かな才能が発揮されることを祈る。

 

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コメント

白内障ですか…。私もかつて若いときに患い手術をしたことがあります。そして昨年夏からももう片方の目がかすんでいます。が、ルテイン&ブルーベリーを昨年末から服用しはじめてから、目の違和感やかすみの進行が最近収まってきました。人によるかもしれませんが一度試されてみてはいかがでしょうか。あと白内障にとって紫外線は厳禁ですので、日差しがきついところでは紫外線をブロックするサングラスが必須です。目は一生ものですのでお大事にしてください。

投稿: かきのたね | 2013年3月29日 (金) 02時54分

かきのたね様
情報、ありがとうございます。私もなにかよいサプリはないだろうかと考えているところでした。試してみることにします。

投稿: 樋口裕一 | 2013年3月30日 (土) 21時32分

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