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映画「愛、アムール」を見た

映画「愛、アムール」を見た。

私が毎日のように映画館に通っていたころ、つまり1970年代、ジャン=ルイ・トランティニャンは大スターだった。「男と女」「Z」「暗殺の森」、そしてアラン・ロブグリエが監督した「危険な戯れ」など見て、実にいい役者だと思った。そして、マルグリット・デュラス原作・アラン・レネ監督の「二十四時間の情事」に主演していたエマニュエル・リヴァも大好きな女優だった。繰り返しこの映画を見て、リヴァの知的な美しさにうっとりしたものだ。

トランティニャンとエマニュエル・リヴァが共演する映画が話題になっているとあっては、見に行かないわけにはいかない。しかも、クラシック音楽もふんだんに出てくるという。今日、時間を見つけて、近くの映画館に見に行った。

それにしても、重い映画だった。八十歳を過ぎた老夫妻。夫はある時、妻の精神の変調に気づく。そして、徐々に状態は悪化する。妻は下半身マヒになり、痴呆が始まり、言葉も切れ切れになり、寝たきりになっていく。夫は必死に介護する。妻の痛々しい姿を娘にも見せまいとし、妻の尊厳を守ろうとする。そして、愛のあまり・・・、という物語。

いたずらに泣かせようとするのでもなく、淡々とじっくりと、そして実にリアルに、老夫婦の生活を描いていく。全編にわたって水道の音、皿の音、椅子の音などの生活音が大きく響くが、それは生活=生命を象徴するだろう。生きることの尊さ、重さ、宿命。知的で、品行方正で、経済的にも余裕があり、人々の尊敬を得ている老夫婦にも、その重い宿命が押し寄せる。

トランティニャンとエマニュエル・リヴァの演技が素晴らしい。もちろん、ミヒャエル・ハネケ監督の手腕も驚くべし。

迫ってくる老いに対しても凛として生きようとしつつ、徐々に敗北していく姿が痛々しい。同時に、それを食い止めようとしながらも、最後には受け入れざるを得なくなっていく「愛」の重さにも感動する。きっと世界中にこのような思いでいる夫婦はたくさんいるだろう。

映画はコンサートの場面で始まる。そして、シューベルトの即興曲が何度か聞こえる。ハ短調の曲はまるで「運命」のように響く。

ピアニストが登場する。なんだか見覚えのある顔で、いかにも本物のピアニストっぽいし、実際にピアノを弾いているように見えるなあと思いながら、最後のクレジットを見てびっくり。アレクサンドル・タロー本人が、老妻の弟子の役で出演していた。

とてもいい映画だったが、自分の両親が90歳に近く、私もシルバー料金で映画を見ている立場だから、他人ごとではない。見た後、つらい気持ちになった。

 

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