チョン・キョンファのリサイタルに不満を抱いた
6月3日東京文化会館で、チョン・キョンファのヴァイオリン、ケヴィン・ケナーのピアノによるリサイタルを聴いた。引退したのではないかと思われていたチョン・キョンファの久しぶりの日本公演。前半にモーツァルトのソナタホ短調とブラームスのソナタ第1番「雨の歌」。後半は、シマノフスキの「夜想曲とタランテラ」、フランクのソナタ。私は大いに期待して聞きに行った。
実はかなり不満だった。前半は特に強く不満を覚えた。モーツァルトが優美でもなく華麗でもなく繊細でもない。ブラームスも、私には何をしようとしているのか納得できなかった。かなりふつうの演奏。もちろん、これがチョン・キョンファでなく、並みのヴァイオリニストの演奏なら、良い演奏だと思うだろう。しかし、チョン・キョンファの演奏にしては、あまりにふつう。いや、確かにかなり個性的な表現があちこちにある。ほかの人では聞いたことのない歌い回しが出てくる。しかし、それが私の心にはなぜか響かない。何事もなく通り過ぎていく。後半は前半よりは音楽に乗ってきたように思った。しかし、技巧が華々しいわけでもなく、音がとりわけきれいなわけでもなく、特にエレガントなわけでもない。かつてのような一途なまでの集中力とすさまじい迫力があるわけでもない。
アンコールはエルガーとクライスラー。これにもあまり感動しなかった。
実は、私はチョン・キョンファについては、ずっと聞かず嫌いを続けていた。デビュー当時、FM放送で何かを聞いて、あまりの我の強さに辟易した。ドイツ正統派の演奏が大好きだった当時の私には、チョン・キョンファの演奏は我慢できなかった。その後、しばらくたって、ラトル+ベルリンフィルが伴奏したブラームスの協奏曲を聞いて初めて驚嘆。プレヴィンとのシベリウスの協奏曲のCDなどを聞いて、その素晴らしさに気付き、その真価をやっと知った。機会があったら実演を聞こうと思って、今日に至る。が、もっと前に聞いておくべきだったとつくづく思った。
本日が来日の初日。たまたま調子が出なかっただけかもしれない。あるいは、もしかしたら、本質的に私には合わない演奏家なのかもしれないとも思う。いずれにしても、そのうちまた次の機会に聞きたいものだ。
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コメント
チョン・キョンファは10年前にハイティンクとのブラームスの協奏曲を聴きましたが、そのときもすでにかつてのようなギラギラしたような弾き方ではなく、かなり堂々とした真っ当な演奏をしていた記憶がありますが、かといってじゃあものすごく印象に残ったかというと、そういうわけでもありませんでした。
ただひじょうにいい演奏を聴いたというより、いい曲を聴いたという印象が残っていることから、凡演とかではなかったという気がします。当時55歳だったので、あのときはこれからよりこういう方向性に行くのかなと思っていたので、興味深く拝見させていただきました。
なんかもう一度ブラームスの協奏曲を聴いてみたい気持ちになりました。
投稿: かきのたね | 2013年6月 4日 (火) 23時40分
かきのたね様
コメント、ありがとうございます。
チョン・キョンファは、だんだんと枯れてきたと言えるでしょうね。意識的にそのような方向に進もうとしているのかもしれませんね。
投稿: 樋口裕一 | 2013年6月 5日 (水) 23時57分
先生、こんばんは…♪
キョンファさんのコンサート私も聴いておりました!
初めて彼女の生演奏を聴くので、期待しておりましたが…
先生の感想を拝見して思わずうなずいてしまいました。
私も1曲目のモーツァルトで「?」と想い、その後ブラームス、シマノフスキも期待したほどキラリと光るところのない演奏だな…と感じてしまいました。
ブラームスソナタは昨年武蔵野で聴いたデュメイさんの生演奏が今のところ、マイベストです。
フランクが一番よいと思いましたが、でもフォルジュルネで聴いたデュメイさんや先日来日した際のルノー・カプソンさんの演奏のほうが魅力的でした。
なんとなくこぶしの効いたフランクというか…アジア的なフィルターを通したフランクのような…そんな面白さを感じて聴いていましたが(ピアノの掛け合いも…少々大人しい演奏でしたね)。
また、ご感想を拝見するのを楽しみしておりますね!
投稿: SWAN | 2013年6月 6日 (木) 01時04分
SWAN様
コメント、ありがとうございます。
そうですか。あの時、おられたのですね。
おっしゃる通り、こぶしのきいたフランクという感じでしたね。そう感じたのは先入観のせいではないと思います。そこが面白さでもありましたが、私が乗りきれずにいた原因でもあったように思います。
最近聞いたフランクでは、私はラ・フォル・ジュルネの竹澤恭子さんの演奏に最も強く感動しました。
投稿: 樋口裕一 | 2013年6月 6日 (木) 23時59分
6/11のチョンキョンファ聴きました。音楽を西洋のもの、作曲家のものと見る人には?な演奏かもしれませんね。豊麗、美麗でもなくというか現在では貧弱と言っていいでしょう。聞き手はかなりの集中力をもってその貧弱な響きの中に入っていかなければなりません。最初のモーツァルトでああこれは叩かれるだろうなと思いました。プロコフィエフは曲が難しいので何とも言えませんが、終了後の長い沈黙が感動なのか戸惑いなのかははっきりしません。後半シャコンヌの余韻に浸りたい会場の雰囲気を断ち切る早急なフランクへの突入。ありゃりゃ..!3曲のアンコールが終わった後、会場は総立ちでした。勿論、肌に合わなかった人達はさっさと退散していましたが。全プログラム終了後振り返ると、凡庸に聞こえたモーツァルトがくすんだ響きの深遠さの表出として、難解なプロコフィエフ
投稿: papageno | 2013年6月12日 (水) 12時22分
は激情の透明な身悶えに、シャコンヌからフランクへの連続は、近代音楽200年,どう変り、どう変わらなかったのか構造的、情緒的に実感していました。帰路、頭の中はあの貧弱でつや消しをした歌が鳴り響きました。そしてその歌から滲み出でくる情念はKoreaの空気を孕み、そしてそれをも包み込むのはやはり女性、母性という大きな愛なのかもしれないと思いました。
投稿: pagageno | 2013年6月12日 (水) 12時59分
papageno様
コメント、ありがとうございます。
残念ながら、私の聞いた日の演奏には、少なくとも私はおっしゃるような要素を聞き取ることができませんでした。もちろん、私自身の音楽観(papagenoさんからすると、私の音楽的な感性の不足ということになるでしょう)によるものかもしれませんし、その日の演奏が、papagenoさんの聞かれた日とは多少異なるのかもしれません。
なお、誤解のないように言いますが、私はチョン・キョンファを「叩く」つもりなど毛頭ありません。偉大な演奏家を「叩く」などとんでもない。残念ながら感動できなかったという素直な感想をブログに書いたまでです。
投稿: 樋口裕一 | 2013年6月13日 (木) 07時13分
pagageno様
一言付け加えます。
私が聞いた6月3日には、さほど熱狂的な拍手は起こりませんでした。総立ちとは程遠い反応でした。ですから、彼女自身の音楽も、pagagenoさんが聞かれた日とは多少違っていたのかもしれません。
投稿: 樋口裕一 | 2013年6月13日 (木) 08時53分
名古屋での6月8日のコンサートは、とてもすばらしかった。
特にバッハのシャコンヌ。最近の若手の演奏とは異なる、むしろなつかしい感じがするものでしたが、すみからすみまで音楽が行きわたり、「どうだすごいだろう」感をまったく感じさせない、品格を感じる演奏でした。学生時代には、彼女の激しい強い音にはあまり感動しませんでしたが、今回はその音楽だけをじっくり楽しめました。
また聞いてみたいものです。
ピアニストも音が美しく、かつヴァイオリンの音と音楽にぶつかることなく、好ましいもののように感じました。
投稿: Claudio.von.Karajan | 2013年7月 4日 (木) 01時04分
Claudio.von Karajan様
コメント、ありがとうございます。
そうですか。私が聞いたときには、あまり素晴らしいと思えなかったのですが、皆様の評判をききますに、もっと後のコンサートは素晴らしかったようです。次の機会、またチョン・キョンファを聞期待と思います。
投稿: 樋口裕一 | 2013年7月 6日 (土) 16時25分
樋口様へ
遅ればせながら、つい最近KBSの放送を見て悪魔に魂を抜き取られたかの様なチョンキョンファの演奏に接し愕然とし崇高な演奏を信条として来た彼女の演奏とは掛け離れた演奏に唖然としました事を察しますと、あながち樋口様の昨年のコンサート評は妥当では無いかと思われます! あの2001年の自身に満ちた輝く様な演奏はもう無理では無いかと思うこの頃であります。
投稿: | 2014年1月22日 (水) 20時52分
コメント、ありがとうございます。私が当日、東京文化会館で聴いた演奏は、そのKBSでの放送のようなものでした。後半はだんだんと盛り上がってきましたが、前半に関しては、私もこれがあのチョン・キョンファだろうかと驚いたのでした。ともあれ、次の機会にもう一度、彼女の演奏を聴いてみたいと思っています。
投稿: 樋口裕一 | 2014年1月24日 (金) 09時07分
チョン・キョンファなら、まずサン・サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番が収録されたアルバムから聴いてみて下さい。曲、演奏、録音、どれも素晴らしいです。
投稿: ぽむ | 2014年3月23日 (日) 03時07分
ぽむ 様
コメント、ありがとうございます。
サン・サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番は好きな曲ですが、チョン・キョンファのCDは聴いたことがありませんでした。さっそく聴いてみます。
投稿: 樋口裕一 | 2014年3月24日 (月) 09時38分