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最近聴いたCD、見たDVD、BD ティーレマン「アリアドネ」など

 一昨日の夜中、やっと原稿を編集者にメールで送って、ひと段落。思えば、今年に入ってからずっと原稿にかかりっきりだ。手慣れた小論文の参考書がほとんどなので、10年くらい前だったら、1週間で1冊くらい書いていたような気がするが、大学の仕事でなかなかまとまった時間が取れないために、時間がかかる。しかも、腰痛、肩こりに悩み、集中力が続かない。

 ともあれ、やっと少し時間が取れたので、今日は自宅で体を休めた。

 これまで、ちょこちょこ聞いてきたCD、DVDをいくつか紹介する。

 

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新居由佳梨(ピアノ)「透明な風」 ラヴェル名曲集 CD

 新居さんと初めて会ったのは、2005年だったと思う。ラ・フォル・ジュルネのアンバサダーだった私は、イベントで新居さんに演奏してもらった。その後、何度か多摩大学樋口ゼミのコンサートや、私がナビゲートした帝国ホテルでのサロンコンサートなどで、ヴァイオリンの江島有紀子さん、チェロの山本裕康さん、ソプラノの飯田みち代さん、平井香織さん、三宅理恵さんとともに演奏していただいた。透明でノーブルで実に繊細な音で薫り高い演奏をしてくれた。私は何度も新居さんのピアノの実力を思い知らされた。

 その新居さんが得意とするラヴェルの曲集。これは、新居さんを以前から知っているといったことを超えて、本当に素晴らしい演奏だ。「前奏曲」の最初の一音からして、その鮮烈な美しさに圧倒される。しかも、抑制されながらも実にダイナミック。緊密に統一がとれたなかで精神の高揚してゆく。この高揚感はかつての新居さんの演奏にはなかったものだ。「クープランの墓の終曲と得意の「夜のガスパール」はとりわけ圧巻。大いに感動した。

 

 

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ヤナーチェク『イェヌーファ』 2011年マルメ劇場 DVD

 

 全体的にとてもいい。歌手は図抜けた人はいないが、粒ぞろい。スウェーデンの歌手たちなのだろうか。まず、イェヌーファのエリカ・ズンネガルドがとてもいい。しっかりした声で、前半ややヒステリックな演技だが、だんだんと落ち着いてしっかりと歌う。コステルニチカのイッタ=マリア・シェーベリは、欲を言えばもっと凄味がほしいところだが、しっかりと歌っている。ラツァを歌うダニエル・フランク、シュテヴァを歌うブリヤ・ヨアヒムともに、実に適役。

 面白いと思ったのは、マルコ・イワノヴィチの指揮。なぜか指揮者の姿が映像にほとんど映らない。若い人だと思う。第一幕は、かなり角のたった演奏。アクセントが強く、切れがいい。ただちょっと一本調子を感じる。第二幕は少し大人しくなった印象。が、第三幕の最後の場はかなり気合が入って、みごと。もう少し聞いてみたい指揮者だ。

 オーフラ・フェランの演出も、私はとても気に入った。簡素化されているが、ヨーロッパの片田舎の雰囲気を出している。むしろ、あれこれリアルにしないほうがヤナーチェクの音楽の力が伝わる。最後、建設中のビルという設定。これからに希望を持たせた終わり方がおもしろい。

 

 

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シュトラウス 「ナクソス島のアリアドネ」 バーデン・バーデン祝祭劇場
2012年 BD

 

 最高レベルの演奏。指揮はティーレマン。オケは、ドレスデン・シュターツ・カペレ。

 作曲家のソフィー・コッシュ(以前、このブログにコッホと書いた記憶がある)が実にいい。完全に当たり役になっている。音楽教師のアイケ・ヴィルム・シュルテもよい味。執事長はなんとルネ・コロ。

 アリアドネのルネ・フレミングとバッカスのロバート・ディーン・スミスは特にすばらしい。昨年のバイロイトで聴いたディーン・スミスのトリスタンはまったく声が出ていなかったので心配していたが、今回はしっかりした声。ただ、フレミングのアリアドネに関しては、もっとしみじみとした歌を聞かせてくれるのではないかと期待していたが、それほどではなかった。

 一番驚いたのは、ツェルビネッタをうたったジェーン・アーチボルド。これまで見てきたツェルビネッタと違って、大柄でたくましい。ちょっとツェルビネッタのイメージとは異なる。が、歌は見事。まあ、こんなツェルビネッタもいていいだろう。

 ティーレマンとドレスデン・シュターツ・カペレについては、すごいというしかない。目覚ましい音の世界を作り上げ、まさしく縦横無尽に音が構築される。ただ、ちょっとすごすぎるという印象。このオペラは皮肉なパロディで、軽やかな遊び心にあふれているはずなのに、むしろ真剣勝負になっている。もっと遊びがほしい。

 

 

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デュカス「アリアーヌと青ひげ」 リセウ劇場 DVD

 2008年のパリ国立オペラの日本公演でこのオペラを初めて見た。その時は、ポラスキのタイトルロールだった。今度のDVDは、ジャンヌ・ミシェル・シャルボネ。青ひげはジョゼ・ヴァン・ダム。乳母はパトリシア・バードン。ステファヌ・ドゥネーヴ指揮のリセウ劇場管弦楽団。

 歌手は粒ぞろい。ヴァン・ダムはさすがに声の衰えは隠せないが、この役なら、特に問題はない。ただ、オーケストラをこんなに大きくダイナミックにならす必要があるのか、少し疑問に思った。パリ国立オペラの時の印象、そして、CDを数枚聞いた印象では、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」にも似た静謐で神秘の音楽が続く。それをときどきワーグナーやシュトラウスのように分厚く激しく演奏するべきではないのではないかと思った。とはいえ、楽譜を見てきちんと分析しているわけではないので、何とも言えない。

 ストーリーというか、このオペラのテーマについては、実はよくわからない。演出はクラウス・グートなので、きっと歌手たちは台本に忠実な動きをしているわけではないだろう。もともと謎めいたオペラがますますわかりにくくなっている。自ら隷属を求め、外に踏み出そうとしない人間たちの姿を、それと対極にいるアリアドネを通して描こうとしているのか。しかし、そうであれば、ますますもっと抑制した音楽にするほうがよいように思うのだが。

 とはいえ、とても美しい音楽。もっと上演されるべきオペラだと思う。

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コメント

お久しぶりです。
ティーレマンの「アリアドネ」私も観ました。
R.フレミングはR.シュトラウスはお得意ですね。それにしてもティーレマンVSドレスデンのサウンドは圧倒的です!
昨年秋の来日でもそのパワーに驚きました。以前はドレスデン響は、どちらかといえば派手さは今ほどなかったように感じていましたから。「リエンチ」序曲など、実にパワフルでした。

投稿: 白ネコ | 2013年7月 3日 (水) 20時10分

白ネコ様
コメント、ありがとうございます。
そうですね。このところのティーレマンの音楽づくりに感じるのは、その洪水のような豊饒な音を快刀乱麻というか、縦横無尽というか、魔術のように鳴らしきるところです。
ただ、「アリアドネ」ばかりは、いくらなんでもこれほど「すごい」必要はないのでは? と思ってしまいましたが、それにしても、魅力的な音楽です。

投稿: 樋口裕一 | 2013年7月 5日 (金) 22時53分

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