二期会「ホフマン物語」に大満足
8月3日、新国立劇場で二期会による「ホフマン物語」を見た。とてもよかった。
オッフェンバックは大好きな作曲家の一人だ。「地獄のオルフェウス」「美しきエレーヌ」「パリの生活」「ラ・ペリコール」などのオペレッタは実に爽快。「ホフマン物語」についても、クリュイタンスが指揮し、シュヴァルツコップがジュリエッタを歌ったLPの時代から楽しんできた。ただ、オッフェンバックがこのオペラをどの程度まじめに書いているのかいつも疑問に思ってきた。生真面目に作曲しているとは思えない個所がいくつもあるが、かといっておふざけとも思えない。どの程度、まじめなのか、つかみどころがない。このオペラを見るとき、いつもその点に迷ってしまう。逆にいえば、それがこのオペラの魅力だともいえるかもしれない。
歌手については、ホフマンの福井敬、ニクラウスの加納悦子、ジュリエッタの佐々木典子がとりわけ素晴らしかった。福井については、最後の最後で少し声が裏返ったが、出ずっぱりのこの役でそのくらいの事故はやむを得ないだろう。舞台全体を圧する声。日本人離れしている。
そのほか、オランピアの安井陽子、アントニアの木下美穂子もとてもよかった。二人とも歌いだしでちょっと音程の不安定さを感じたが、だんだんと安定してきて、最後はとても感動的だった。スパランツァーニの吉田伸昭、クレスペルの斉木健詞、フランツの大川信之などのわき役もしっかりしていた。日本のオペラ界のレベルの高さを改めて痛感。合唱も見事。
ただ、日本人の歌うフランスもののオペラを見ていつも思うのだが、どうも全体的にフランス語の発音があまりフランス語っぽくない。だから、フランスの雰囲気が出ない。今回もそれを感じた。日本人にとってフランス語というのはとても難しいのだと思う。とはいえ、今の日本人でできる最高レベルの歌唱であることは間違いない。
指揮はミシェル・プラッソン、オケは東京フィル。プラッソンは好きな指揮者の一人でかなりの数のCDを持っている。とりわけ、フランス・オペラに関しては、第一人者だと思っている。が、今回は第1幕でちょっと弛緩している部分を感じた。フランスっぽくない歌とフランス的に鳴ろうとするオケとの間の齟齬とでもいおうか。
演出は粟國淳。本格的な舞台装置で、色づかいも美しく、 実にすばらしい。見ただけで、ホフマンとリンドルフ(コッペリウス、ミラクル博士など)の対立がわかり、不思議な雰囲気が伝わる。オランピアのエピソードも程よく滑稽で程よく奇怪。オペラ演出はこうであってほしい。
世界最高の舞台とはいえないかもしれないが、十分に世界に通用する舞台だと思う。これからももっとオッフェンバックのオペラやオペレッタを上演してほしいと思った。
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コメント
樋口様
二期会「ホフマン物語」に私も大変満足しました。独唱陣の充実した詠唱、合唱団の統制のとれた迫力ある合唱(特に男性陣が素晴らしいと感じました)、大掛かりな舞台装置、そしてオケの良く鳴り響いた演奏、どれも素晴らしいの一言です。
私は短いですがジュリエッタの第3幕が特に好きです。ダペルトゥットのアリア、ホフマンとジュリエッタとの2重唱、そして独唱陣6人と合唱による聴き映えのする7重唱、勿論冒頭の「ホフマンの舟歌」も含めこの幕にはオッフェンバックの素晴らしい音楽が凝縮されていて聴いてて心が震えます。昨日の公演でもこの場が圧巻でした。
外題役の福井敬氏はおそらく今が最も良い状態のテノールでしょう。あまり忙しすぎて声を酷使しないよう願ってます。
ただ、全体的に舞台が暗いのには少し不満でした。オランピアの第2幕やアントーニアの第4幕はもっと舞台を明るくした方が効果的ではないかと感じました。
プラッソンさんの指揮振りにはプログラムにも岩下眞好氏が書いてるように人柄の良さが滲み出て聴く側に伝わってきました。
このように安易に時代考証を現代に置き換えない演出のオペラなら度々聴いてみたいと感じた次第です。
投稿: ksato | 2013年8月 4日 (日) 10時03分