ネマニャ・ラドゥロヴィチの無伴奏ヴァイオリン・リサイタル、最高の音楽!
10月26日、三鷹市芸術文化センターで、ネマニャ・ラドゥロヴィチの無伴奏ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。凄まじい演奏。最高の音楽。
曲目は、前半に.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番とイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番、後半に.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番とイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「バラード」。アンコールは、ミレティチの「ダンス」(だと思う)とマケドニアの歌。
昨年聞いたのと同じ演目。近年、ネマニャは来日のたびにこのプログラムでリサイタルを開いている。そして、成長した姿を聞かせてくれる。
今回はスケールが大きく、深く、そして落ち着いている。かつてのようながむしゃらな姿はない。最高に美しい音。しかも、音が生きている。そして完璧な音程で完璧なリズムで、しかも聴く者の心にぐさりと刺さるように演奏する。
バッハのソナタの第一楽章は異様にゆっくりと始まった。ファンイベントでは、この曲がアンコールに取り上げられたが、もっとずっと速かったように思う。今日はじっくりと、陰影をつけて深く描き出す。それぞれの楽章をくっきりと描き分ける。クリアだが、精神的な深みを感じる。28歳の若者の音楽とは思えない。無伴奏なので一人で世界を作り出すが、一分の隙もなく構成されている。だれるところは全くない。下手な小細工も、遊びもない。第4楽章の律動も素晴らしい。
パルティータがとりわけ圧巻。シャコンヌは言葉をなくす。凄まじい集中力。描き出される世界は大きく深い。私の魂はネマニャのヴァイオリンの音とともにゆれうごき、宇宙を飛翔する。研ぎ澄まされた感性。だが、怜悧ではなく暖かく寛容力がある。
イザイの曲も力感、深み、ともに素晴らしい。
まさしく本格派。異端のヴァイオリニストなどではない。まったく小細工はしていないのに、なぜか私の心に押し寄せ、ぐしゃぐしゃにしていく。
アンコールのマケドニアの歌の場面では、ステージ上は明りを消され、真っ暗になった。そこからネマニャ自身の歌う声が聞こえ、ヴァイオリンが始まった。きわめて民族的な歌。これがネマニャにとってどのような意味を持つのかよくわからないが、土俗的な雰囲気が強い。そして、その純粋さ、暖かさに心打たれる。
今日は久しぶりに、社会人になって2年目の娘をコンサートに伴った。クラシック音楽をほとんど聴かない娘だが、ネマニャには圧倒されたとのことで、帰りに何度か感動したと言ってくれた。クラシックになじみのない人までも感動させる力をネマニャの音楽は持っている。きっと、ネマニャの音楽こそが音楽そのものの本来の姿だからだろう。
これで、ネマニャの東京での今年の公演は終わった。先週末、やっと原稿が一息つけて、少し楽になると思ったが、とんでもない。ネマニャのコンサートやイベントが今週4回あったので、これまでにないくらいに忙しかった。来週もまたかなりハードになりそう。が、ともあれ今年もネマニャを聴けて、大変幸せだった。
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