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ラトル+ベルリンフィルの「春の祭典」の凄まじさ

 11月20日、川崎ミューザ・シンフォニーホールで、サイモン・ラトル指揮、ベルリンフィルのコンサートを聴いた。前半はシューマンの交響曲第1番「春」、後半は、樫本大進のヴィオリンが加わって、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番と「春の祭典」。

 もうひとつのプログラムはブルックナーの7番だったが、そちらは敬遠して、「春の祭典」のほうだけ聴くことにした。ラトルのブルックナーを聴いたら、きっと私は「これはブルックナーではない」と言いたくなるだろう、「春の祭典」なら、間違いなく素晴らしいの違いないと思ったのだった。

チケットを購入した時、どう注文したのだったか忘れたが、私の席は最前列中央だった。ラトルの「春の祭典」を前のほうの席で聴きたいとは思っていたが、最前列を希望した記憶がなかったので、着いてみてびっくり。が、少なくとも今日に限っては最前列というのは最高の席だった。

 なにはともあれ、ベルリンフィルの凄まじさにびっくり。何という音!! シューマンの最初の音を聴いただけで、あっと驚く。とりわけ最前列で聴くと、これはもう一つ一つの楽器のとてつもなく美しい音が重なり合って得も言われぬ音の世界を作り出す。遠くで聴いているとあまり聞こえてこないヴィオラの美しさを特に感じた。

 ラトルの音の出し方が実にいい。それぞれの楽器の音がリズミカルにはずみ、あれこれの音が生き物のように動いていく。整理しすぎずに、自由にばらばらにひかせているように思えるのだが、全体的に力動感にあふれているので、少しも乱れない。人工的でないメリハリがつき、勢いにあふれている。

 樫本大進の演奏を目の前で聴いた。汗がぽたぽた垂れてヴァイオリンに落ちかかり、床にも垂れる。まさしく力演。きわめて正当的な演奏。少しも崩さず、ロシア性やモダニズム的な点を強調しすぎることもなく、しかしきわめてダイナミックに演奏。目の前で聴くと、ヴァイオリンの細かい音にニュアンスも聴きとれて、実にすばらしい。

 後半の「春の祭典」は、とりわけ名演だと思った。ともかく、音そのものが素晴らしい。濁りのない鮮明で生き生きとした音。フルオーケストラの大音響が鳴り響いても、少しも濁らず、くっきりと音像を結ぶ。力感にあふれ、弛緩するところがない。最前列で聴くこのオーケストラはまた格別。いやはや、こんなにすごい音を出せる演奏家が世の中にはいるんだ・・・というきわめてプリミティブな感想を抱いた。

「春の祭典」の初演から100年。パリで「春の祭典」の初演を聴いた評論家のジャック・リヴィエールは、そこに象徴主義的な「もやもや」を打ち砕く東方からのバルバリズムを聴きとった。19世紀のヨーロッパ的な内にこもる精神主義をこの音響は打ち砕いたのだった。同時にそれは、それまでヨーロッパ文明の中心をなしていたキリスト教文明が相対化されたことを意味したのだと、私は考えている。

実は、そのようなことを書いたのが、「1913年のフランス文学」を分析した私の修士論文だったのだが、40年近く前に書いた事柄をここで持ち出しても仕方がない。ともあれ、今日の演奏は、西洋文明が受けた衝撃が伝わるような力を持っていた。

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コメント

19日のサントリーでお見かけし
聴きにいらしているんだなと思いましたが
人違いでしたでしょうか。。。

投稿: 音楽好き | 2013年11月23日 (土) 09時32分

音楽好き様
コメント、ありがとうございます。
19日は、このブログにも書きましたように、銀座の東劇で「鼻」をみておりましたので、サントリーホールには出かけませんでした。人違いなさったのだと思います。
ラトルは好きな指揮者の一人なのですが、ラトルのよさをブルックナーで発揮すると、間違いなく私にとっては我慢のならないブルックナーになってしまうと予想されますので、敬遠したのでした。「春の祭典」が驚異の演奏でしたので、自分の選択には満足しています。二日続けていくというのは、経済的にかなり大変ですから・・・。

投稿: 樋口裕一 | 2013年11月24日 (日) 08時32分

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