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METライブビューイングの「鼻」、アヴァンギャルドな精神を満喫

 11月19日、銀座の東劇で、METライブビューイング、ショスタコーヴィチ「鼻」を見てきた。とても面白く、刺激的。

 私が最初にこのオペラを見たのは、1970年代か80年代の初め。ポクロフスキー演出のモスクワ室内歌劇場の来日公演だった。指揮は誰だったかよく覚えていない。あまり有名な歌手はいなかった。モスクワでこのオペラのすごい演出が話題になっているというニュースが伝わってきて、しばらくしてからの来日公演だった。胸を高鳴らせていって、期待以上の感動をしたのを覚えている。その後、何度かこのオペラのCDや実演や映像に触れてきた。

そして、今回のメトロポリタン歌劇場の映像。

ウィリアム・ケントリッジ演出がなかなかおもしろい。CG映像を駆使したもので、オペラの雰囲気をうまく伝えている。鼻の形の人間の姿が映し出される。舞台上もコラージュ風で、いくつかの舞台が漫画のコマのように配置されている。

そして、音楽はまさに若きショスタコーヴィチのモダニズム精神にあふれるもので、ロシア革命直後のマールイ劇場でのメイエルホリドの時代のアヴァンギャルドな精神を体現している。このドタバタ感がたまらない。私は「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の警察署の場面が大好きなのだが、それと似た雰囲気が全体を覆っている。コラージュ風にあれこれの場面が無秩序につなぎ合わされ、奇想天外で奇怪なゴーゴリ特有の物語が展開していく。

私は一時期、ロシア・アヴァンギャルドの時代の芸術にかなり関心を持って、この時代の精神を表現している舞台を見たいと長らく思っていたが、かなりアメリカナイズされた形ではあるが、ともあれ見られたという思いを抱いた。

歌手たちはみんなが最高レベルにそろっている。さすが、MET。コワリョフを歌うのはパウロ・ジョット。ロシア人ではないというが、まったく違和感はない。登場する人物みんなが、まさにアヴァンギャルドで面白い。

ただちょっと不満を言うと、指揮のパヴェル・スメルコフがもっとはじけてもいいのではないかと思った。もっともっと猥雑感がほしい。猥雑であればあるほど、奇怪でつじつまの合わない面白さが引き立つと思う。また、かつて見たポクロフスキーの演出と違って、大劇場での上演なので、観客との一体感が薄い。もともとマールイ劇場(小劇場の意)で初演されたオペラであって、小規模で観客との一体感を前提にしている。そのあたりが、不満といえば不満だが、メトロポリタンという巨大劇場で上演する以上、これはやむを得ないことだ。

 ともあれ、大変満足。このライブビューイングで多くの人にこのオペラの面白さを知ってもらいたい。そして、もっともっとあちこちの劇場でショスタコーヴィチやプロコフィエフのあまり知られていないオペラを上演してほしい。

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