METライブビューイング 「トスカ」 アラーニャとギャグニッザのすごさ
このブログを読んでいただいている方はご存じだろう。私はプッチーニがどうも苦手だ。これまで一度も感動したことがない。歌手の声にゆすぶられることはたびたびあるが、音楽やドラマ性には、ついていけない。ただ、多少なりとプッチーニ嫌いを直さなければ、わざわざ音楽祭に行って、すばらしい歌手たちで聞いているのに、一人楽しめないことになってしまって、実に残念だ。昨年のザルツブルク音楽祭の「ラ・ボエーム」はまさにそうだった。そう思って、METライブビューイング「トスカ」を見に出かけた。
さすがメトロポリタン。現在考えられる最高のキャストだろう。カヴァラドッシを歌うロベルト・アラーニャが圧倒的。伸びのある声、なりきった演技力、それより何より自在な歌い回し。ほれぼれした。スカルピアを歌ったジョージ・ギャグニッザも負けていない。ナポレオンを悪者にしたような風貌で、凄まじい迫力の悪を演じる。声の威力が素晴らしい。この人の名前は初めて知ったが、これからが楽しみ。ドン・ピツァロやハーゲンなどのドイツオペラの悪漢もどしどし歌ってほしいものだ。
二人に比べると、トスカを歌ったパトリシア・ラセットはちょっと弱い。誇り高くもけなげなトスカにしては少し地味な感が否めない。だが、十分に声は伸びドラマティックに歌っていた。ほかの歌手たちも最高にその役になりきっている。
指揮のリッカルド・フリッツァについては、プッチーニにそれほどの馴染みのない私が語る資格はない。ただ、破綻するところはなく、しっかりと音楽を鳴らしていた。リュック・ボンディの演出はメトロポリタン・オペラらしい豪華で堅実で原作に寄り添ったもの。安心して見ていられる。
で、プッチーニ嫌いが治ったかというと、それについては何とも言えない。まだまだ違和感を覚える。ほかの作曲家のように中に入り込めない。ただ、スカルピアという悪漢が登場するだけに、悪漢好き(「リング」の登場人物の中で最も愛するのは、ブリュンヒルデとハーゲンであり、モーツァルトのオペラの中で最も好きな人物はドン・ジョヴァンニ。ほかに夜の女王、ドン・ピツァロも大好きだ)の私として、「ラ・ボエーム」や「蝶々夫人」よりも、ずっとなじみやすい。十分に楽しんだ。
幕の途中、元気を回復したレヴァインが車椅子に乗って「ファルスタッフ」のリハーサルをしている場面やテレビでのインタビューが流された。元気そうなレヴァインの姿がみられて実にうれしい。
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