長尾洋史のベートーヴェンに魂が震えた
1月30日、東京文化会館小ホールで長尾洋史のピアノリサイタルを聴いた。長尾さんは数年前に、ピアノ不感症だった私をピアノに導いてくれたピアニストだ。最近、少しずつピアノを聴くようになったのは、長尾さんのピアノの力を知ったからだった。その長尾さんがベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」を演奏するとあっては聴かないわけにはいかない。
曲目は前半にロンド ト長調作品51-2、幻想曲ト短調、エロイカ変奏曲。後半に「ハンマークラヴィーア」。期待通りの素晴らしい演奏。何度か魂が震えた。
最初の曲、ロンドの途中からぐんぐんと調子に乗ってきた。幻想曲は絶品。一つ一つの音が透明で強靭。しかも、即興的な自由な曲想でありながら、完璧に統一がとれている。きわめて知的に音楽をコントロールしているのがよくわかる。だが、知性のコントロールの先に、言葉にならない強い精神がしばしばあらわれる。私はそこに感動する。これが長尾さんの音楽だと私は思う。「エロイカ変奏曲」も、15の変奏のすべてがいぶし銀のような生命にあふれ、抑制された中での魂の爆発が起こる。そこに精神の気高さのようなものが表れる。
後半のハンマークラヴィーアも本当に素晴らしかった。長尾さんはがっしりと構築し、このとてつもない音楽を完璧に自分のものにしている。ただ、私は第二楽章で長尾さんが何をしたいのかよくわからなかった。とりわけ、最後の音は謎だった。この楽章を諧謔ととらえたのだろうか。これについては機会があったらご本人に聞いてみたい。
第3楽章は、虚飾や大袈裟な表現をなくしたところから出発している。表面的なロマンティズムやリリシズムは拒否している。厳しい音楽を厳しいままに描く。すると、魂の奥底に沈潜し、そこに本当に人生を味わったもののみの表現できるリリシズムが表れる。そして第4楽章の音の洪水のようなフーガ。この醍醐味も素晴らしい。ただ、残念ながら、ピアノを聴き始めて間もない私は、このすごさを表現するすべを知らない。
こんな凄まじい演奏だったのに、客は満員というわけにはいかなかった。もっと多くの人に聴いてほしかった。
本日、大学の期末試験監督が終わって、晴れて春休みに入った。まだまだ入学試験業務や来年度に向けての学務はあるが、ともあれ、少し楽になる。
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