それなりに忙しい毎日を送っている。授業は終わったのだが、入試監督や入試にかかわる業務、そして様々な会議のために大学に出ることが多い。
書く機会がなかったが、1月31日の夕方、浅草ビューホテルで行われた第1回野村胡堂賞受賞パーティに出席した。記念すべき大回の受賞者は小中陽太郎さんの「翔べよ源内」。平賀源内を主人公にした小説だ。現代の視点から自由で脱領域的な源内の生きざまを生き生きと描いている。現代の平賀源内というべき小中さんらしい傑作だ。私もこの本を読んですぐにこのブログに感想を書いた。
野村胡堂はいうまでもなく銭形平次の作者。しかも、私たちクラシック音楽ファンにとっては、最初のクラシック音楽評論家「あらえびす」でもある。そのためもあり、また小中さんの人脈の広さもあり、会場に来ていた人も、テレビで見かける有名人がたくさんおられた。有名文筆家も勢ぞろい。私は末席で小さくなっていた。小中さんのほか、何人かの文筆家と話をした。ただ、実はその日、朝からずっと仕事だったので、かなり疲労。しかも、立食パーティだったので、腰痛に悩む私としては途中でつらくなって退席した。
昨日(2月3日)は、多摩大学の一般入試Ⅰ期。現場責任者として大学で待機し、その間も会議を行っていた。
そうこうしながら、この数日、オペラのDVDを何枚か見た。感想を書きつけておく。

マスネ「サンドリヨン」 ベルトラン・ド・ビリー指揮 ロイヤルオペラハウス
マスネの作った「シンデレラ」のオペラ。見るのも聴くのも初めて。とてもおもしろかった。実にすばらしい映像。まず曲がおもしろい。オペラ・ブッファ的な作りで、ユーモアにあふれる。が、その中にマスネ特有の繊細で優雅な音楽がこぼれだす。
やはり何と言ってもサンドリヨン役のジョイス・ディドナートが溌剌としながらも女性的で最高にすばらしい。強い声でありながら繊細に歌うので、聴く者の心をとらえる。高い声も低めの声も美しい。王子役(といってもメゾの女性が歌う)のアリス・クートもまったく引けを取らない。強い声で男役にぴったり。2011年のバイエルン国立歌劇場の来日公演「ナクソス島のアリアドネ」で作曲家をうたった歌手のようだ。とても良い歌手だと思った記憶がある。ほかの歌手たちもそろっている。父親のジャン・フィリップ・ラフォン、エヴァ・ポドレスも最高の歌と演技。
そして、ローラン・ペリーの演出が最高にさえている。漫画仕立てといった雰囲気で、コミカルな踊りをたくさんとりいれて、実に楽しい。しかも、まったく音楽を邪魔しないし、しかも斬新。
第三幕のサンドリヨンと王子と魔女(魔法使いではなく魔女の魔法でサンドリヨンは助けられる)の女性三人の愛の三重唱は「ばらの騎士」を思わせる。この場面がこれまであまり取り上げられなかったのが不思議だ。
それにしても、このオペラ、登場人物のほとんどが女性。聞こえてくる声は女性の声ばかり。その意味でもとてもおもしろい。

シューベルト「フィエラブラス」 フランツ・指揮、チューリヒ歌劇場
シューベルトのオペラは実演も見たことがあり、CDも何枚か持っているが、実はあまりおもしろいと思ったことがない。とても奇麗なメロディが続くのだが、盛り上がりに欠け、人物の描きわけが曖昧でドラマとしての醍醐味に欠ける気がしていた。この「フィエラブラス」についても、そのようなこれまでの印象を覆すには至らなかった。
歌手はそろっている。フィエラブラスはヨナス・カウフマン。とはいえ、題名役なのに、それほど登場しない。カール王のラーズロ・ポルガール、エマのユリアーネ・バンゼ、ロランドのミヒャエル・フォレ、エギンハルトのクリストフ・シュトレール、ボラントのギュンター・グロイスベックともに最高の歌唱だが、なぜかドラマに引き込まれない。
演出はクラウス・グート。私の好きな演出家なのだが、今回についてはちょっとやりすぎではないか。シューベルトらしい人物が登場し、黒子のように舞台上で行動する。フィエラブラス、ロランド、エギンハルトの3人もシューベルト同じ服装をしている。舞台になっているのは、シューベルトの書斎らしく、ピアノや楽譜が見える。おずおずとして引っ込み思案のシューベルトが登場人物を分身にして自分の思いをオペラにしている様子が描かれるということだろう。
前衛的な演出家であるグートに依頼すれば、当然、このような演出になるだろうが、めったに上演されないシューベルトのオペラをこのようにいじくられても、見るほうとしては困ってしまう。私もこのオペラ初めてみる。ほとんどの人がそうだろう。だったら、もう少しオーソドックスにストーリーがきちんとわかるような演出であってほしい。黙役を続け、さまざまなパントマイムを行うシューベルトがかなり鬱陶しく感じられた。ウェルザー=メストの作りだす音楽は生き生きとしていてともて奇麗だが、感動的というほどではなかった。

「影のない女」 マルインスキー歌劇場 ヴァレリー・ゲルギエフ指揮
2011年のマルインスキー歌劇場来日公演で一度見たプロダクションだが、そのことはすっかり忘れており、「おや、こんなBDが発売されてるんだ!」と思って購入した。が、私がこれまでなじんできたシュトラウスと雰囲気の異なる演奏を聴きながら、この感覚はどこかで味わった記憶があると思い当たった。バラクの妻の登場に及んでやっとこの演出でこのオペラを見たことを思い出した。いやはや、忙しい日々を送っているとはいえ、こんなに物忘れがひどくなるなんて!
ゲルギエフのワーグナーやシュトラウスはかなり独特だ。ロシア人であるためかもしれないが、リズムや楽器のアクセントの置き方が私のなじんできたものと明らかに違う。もちろん、それなりにとても精妙で力感にあふれている。好きな人も多いだろう。が、やはり私はティーレマンのほうが好きだなと思った。
歌手たちはそろっている。エデム・ウメーロフのバラクとオリガ・セルゲーエワのバラクの妻に特にひかれた。皇后を歌うムラーダ・フドレイと乳母のオリガ・サヴォーワもなかなかいい。ジョナサン・ケントの演出もおもしろい。宮廷の世界を歌舞伎風の東洋世界にし(かつてのバイエルン国立歌劇場の市川猿之助演出の影響か?)、バラクの世界を現代に話を移しているのも、それほどの違和感はない。ただ、新しい解釈があるわけではなさそう。
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