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京都で映画「鉄くず拾いの物語」「フォンターナ広場」「光にふれる」

 16日(日曜日)の夜から京都に来ている。京都産業大学での集中講義のため。昼間、大学で教えるので、観光はほとんどできない。夜になるとくたくたになっている。それに、17日・18日・21日は学校関係者との会食や打ち合わせ。ホテルに戻って原稿を書く元気もないので、フリーの2日間は四条にある京都シネマで映画を見ることにした。合計3本の映画を見た。

ボスニア・ヘルツェゴビナ映画「鉄くず拾いの物語」。これは正真正銘の素晴らしい映画。

ロマ(昔でいうジプシー)族の一家を追いかける。父親は失業状態で、鉄屑を拾って小銭を稼いで暮らしている。ところが、妊娠していた妻が流産し、胎児が死んでいることがわかる。手術をしなければ母親の命が危ないために病院に行くが、手術料を支払えないので治療を拒否される。最後には妹の健康保険を使って命を取り留める。

それだけの話なのだが、映像が実にリアル。事実そのものとしか思えない。薪にするために木を切ったり、鉄屑を拾ったり、車を壊して鉄くずを取り出したりといった作業がずっと描き出されるが、映像に力があるために、見ていて少しも飽きない。貧しいながらも必死に生きる人間の姿がありありとした存在感で迫ってくる。

日常的な貧しさの中で生きる人たちの過酷な生活。ワイルドな面も持つ主人公、家庭的で優しく、そして肥満した妻。そして何より子どもたち。決して育ちがよいとも、気立てがよいとも言えない女の子二人が、両親が深刻な状況にいる時もわがままを言い、騒いでいる。それなりに可愛いのだが、「わあ可愛い」などと言いたくならないような子どもたちだ。それだけにリアリティがある。また、主人公について回る犬も実にリアル。本当の家族としか思えない。あまりに自然。

ロマ族の悲惨とか、不公平への怒りとか、貧しい人々への共感とか、そのようなテーマよりも何よりも、私は人間存在のリアリティを作り出す力に圧倒された。

台湾映画「光にふれる」。チャン・ロンジー監督。

盲目のピアニストであるホアン・ユィシアンが自ら出演するというので、日本でいえば梯さんや辻井さんのようなピアニストをモデルにした音楽映画であって、かつての「北京ヴァイオリン」のようなものかと思ってみた。かなり予想と違った。音楽よりも男女の触れ合いに重点を置いた青春ドラマだった。

子どもの頃ピアノコンクールに優勝しながらも、「目が見えないから優勝したんだ」という陰口がトラウマになってコンクールを恐れる盲目の音大生(ユィシアン自身がユィシアン役を演じる)、ダンサーを目指していたはずなのに失恋し、挫折している少女。その二人が出会い、影響を与えあう。ともにトラウマを乗り越え、ふたりの関係が恋愛へと発展していきそうになる。そこで映画は終わる。

梯さんや辻井さんも同じような思いをしているのだろうと初めて思いあたった。相手役のサンドリーナ・ピンナがあまりに美しい。ただ、どうみても中国系ではなく、ヨーロッパとのハーフ。そんな人が中国名で登場し、何の説明もなく一般の中国人の役を演じるのはかなり違和感がある。

悪い映画ではないが、私が見る必要はなかったなと思った。

もう一本は、イタリア映画「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」。

 マルコ・トゥリオ・ジョルダーノ監督。1969年に起こったミラノのフォンターナ広場にある全国農業銀行爆破に題材をとっている。捜査に当たった実在の警視を中心に描き、闇の深層にたどりつこうとするが最後には殺害されるまでを描く。アナキストやネオ・ナチや警察関係者など大勢の人物が次々と登場して、犯罪を行ったり、隠ぺい工作をしたり、脅したり、裁判がおこなわれたりするので、人間の顔の識別能力が人並みよりもかなり劣る私としてはしばしば途方に暮れた。が、それを除けば、大変よくできた面白い映画だった。

謎が謎を呼び、徐々に明らかにされるが、最後まで謎のまま残る。複雑な事件を実に手際よく、しかもそれぞれの人物を魅力的に描いている。感情移入をしないで、リアリズムに徹してテキパキと描きながら、おのずと主人公の真面目な生き方、深い悩みに共感できるように作られている。

映画を見ているうち、恩師であるイタリア文学者の今は亡き米川良夫先生を思い出した。

そういえば、この事件について、その昔、米川先生に聞いたことがあったような気がする。40年以上たった今となっては、よく覚えていないが、1970年代にミラノを訪れた時、「そういえば、ミラノのどこかで爆破事件があったと米川先生が言われていたけど、どこだっけ?」と思った記憶があるので、間違いなく、話をうかがっていたと思う。当時、一か月に一回ほど、米川先生のお宅にお邪魔して、何時間も長居して、いろいろなお話をうかがっていた。知識に飢えていた当時の私には、それが何よりも楽しみだった。翻って考えると、私のような、米川先生の勤める大学の学生でもない若者に長時間付き合ってくださる米川先生に、今更ながら頭が下がる。

・・・久しぶりにイタリア映画を見て、つい米川先生を思い出してしまった。

 

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