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岸七美子の楽しくて、しかも深い歌声

 昨日(221日)の夜中に京都から東京に戻った。京都も寒かったが、東京も寒い。

222日、羽村市生涯学習センターゆとろぎ大ホールで、東京フィルハーモニー交響楽団のフレッシュ名曲コンサートを聴いた。若手演奏家を集めてのコンサートだ。指揮は現田茂夫。

 羽村市には初めて行った。もちろん、ゆとろぎ大ホールも初めて。「ゆとろぎ」とは「ゆとり」と「くつろぎ」を足して「りくつ」をとったものだという。おもしろい命名だが、私としては、「ゆとり」や「くつろぎ」と同じくらい「理屈」も大事だよと言いたい!

音響的にはあまり理想的ではないと思ったが、地方にこのようなホールがあるのは実にいい。各地でこのようなコンサートが開かれ、地域の子供からお年寄りまでがクラシックを聴く環境ができるというのは、なんと素晴らしいことだろう。

 前半は弦楽合奏によるチャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」に始まった。客の多くが高齢者であるが故の選曲なのだろうか。次に羽村市出身の若いヴァイオリニスト福嶋慶大によるヴァイオリン曲。序奏とロンド・カプリチオーソ、レゲンデ、ツィゴイネルワイゼン。なんだかよくわからない選曲。もう少し統一感がほしい。福嶋のヴァイオリンも、一生懸命弾いていることに共感は持つが、それだけで終わっていると思った。オケに関しても、こころなしか生気のなさを感じた。

 後半になって俄然生き生きとしてきた。「こうもり」序曲が実に楽しくチャーミング。岸七美子のアデーレの歌が始まって、ますます生き生きとしてきた。次に羽村市出身のバリトン大井哲也が加わって、「セヴィリアの理髪師」から、有名なフィガロとロジーナのそれぞれのアリア、次に「魔笛」の「おいらは鳥さし」と「パパパの二重唱」。アンコールは「メリー・ウィドウ」の愛の二重唱。大井の歌も生き生きとして声もしっかり出ていてとても楽しかった。

 実は私の目当ては岸七美子。以前、ワーグナー協会の例会のコンサートで聴いた「ブリュンヒルデの自己犠牲」が見事だった。ちょっと暗めの太くて迫力のある声。小柄なのに、バイタリティに溢れるブリュンヒルデだった。

 今回、最初の歌がアデーレのアリアだったので、ちょっと意外に思った。しかも、最初に聞こえてきたのがアデーレらしからぬ深々とした声。だが、その深い声でまぎれもなくアデーレのチャーミングな歌を聞かせてくれた。高音もびしっときまって、実に美しい。すべての声が完璧にコントロールされていて、音程もしっかりしているし、なによりも表現の幅が広い。ロジーナもパパゲーナもハンナも実に説得力がある。

 はじめて聞いたのがブリュンヒルデだったので、太くて重いドラマティックソプラノだとばかり思っていたら、そうではない。スーブレットと呼ばれる軽い役も素晴らしい。ちょっと驚いた。どちらもできる歌手なんてめったにいないのではないか。かわいらしい役を歌っていても、太くて深い声であるだけに、楽しいだけで終わらずにずしっとした感動を覚える。人生の深みのようなものを感じさせる。とてもおもしろい個性だと思う。これからいろいろな役を歌ってほしい。きっと、すぐにあちこちで主役を張るようになると思う。岸さんの歌を聞けて、とても幸せだった。

 

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