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フランス映画名作集 感想

61kfj2zqr2l__sl500_aa300_  DVD10枚で1980円という超特価の映画名作集。だいぶ前に数セット購入しながら、なかなか見る時間が取れなかった。大学の春休み(とはいっても、入試委員長だったので、ほとんど休みはなかった)を利用して、「フランス映画 名作コレクション2」を見た。ただし、「天井桟敷の人々」(これはもう私の映画体験の中の間違いなくベスト5に入る大傑作!!)と「恐怖の報酬」(これも大変面白い)、「オルフェ」(あまり好きな映画ではない)は、これまで何度も見てストーリーもよく覚えているので、今回は見ないまま。残りの7本について感想を記す。それにしても、この素晴らしい内容がこの値段で見られるなんて、これでよいのだろうかと思ってしまう。

 

「大いなる幻影」

 ジャン・ルノワール監督。主演はジャン・ギャバン。30年以上前に、2度か3度見た記憶がある。あらためて見て、なかなかおもしろかった。一次大戦中のドイツ内にある捕虜収容所でのフランス軍人たちの人間模様を描く。二次大戦の捕虜収容所のかなり深刻な物語をたくさん聞かされてきた私たちには、一大戦はかなり牧歌的に映る。その中で、貴族同士のつながりを重視するドイツ人収容所長(監督として名高いショトルハイムが演じる)とフランス貴族(ピエール・フレネー)のエピソードが最も印象に残る。庶民やユダヤ人銀行家など、さまざまな階層の捕虜の人間模様が面白い。

 とはいえ、素晴らしい傑作かといわれると、そうも思わない。私としては、なかなかの佳作といったところ。

 

「ゲームの規則」

 ミュッセの戯曲「マリアンヌの気まぐれ」(昔読んだ記憶があるが、ほとんどの覚えがない)に基づくジャン・ルノワール監督の映画。貴族とその召使たちの恋の戯れを生き生きと描いている。人物が実にリアルで、複雑な人間心理や人間関係を魅力的に、しかもわかりやすくユーモラスに描いていくところはさすが。最後、ちょっとした偶然の重なりから大きな悲劇がおこるが、伏線の張り方も見事。昔、一度だけ見た覚えがあったが、ほとんど忘れていた。「もしかしたら、見ていなかったかも…」と考えているうち、貴族の館でのパーティの余興でサンサーンスの「死の舞踏」を鳴らしての骸骨のダンスが行われる場面になった。ここでやっと間違いなく見たという確信を持てた。この場面には大いに感動したのだった。あらためて見ても、この場面は実にすばらしい。この映画を象徴している。軽やかな戯れでありながら、そこに死の影があり、人間の哀歓がある。

 芸達者な役者が大勢出演。オクターヴを演じるのがジャン・ルノワール自身だというのでびっくり。実にうまいし、いい味を出している。ただ、私の眼にはヒロインのクリスティーヌはかなりの年齢に見えるのに、若い役を演じているようなのに違和感を覚えた。私の愛するソプラノ歌手シュヴァルツコップによく似ていると思った。ジュリアン・カレット、ガストン・モドなどの1930年代のフランス映画の常連が出ていて、実に懐かしい。

 ただ、この映画も、私には世評ほどには大傑作とは思えない。なかなか良い映画だとは思うが、少々退屈だった。私はこのような恋の人間模様というようなものにあまり関心がないためだろう。

 

 

「北ホテル」

 ウジェーヌ・ダビ原作の小説(かつて読んだ記憶はあるが、細かいところはほとんど覚えていない)をマルセル・カルネが監督した作品。2度以上見た記憶がある。最後に見たのは比較的最近(といっても10年くらい前?)のような気がする。北ホテルという場末のホテルで心中を図りながら命を取り留めた女性(アナベラ)が、同じ相手と生きなおそうとするまでを、北ホテルに暮らす人々の哀歓を交えて描く。たまたま女性を助けたために自分の人生を振り返り、自分もやりなおそうとしながら、果たせない謎の男(ルイ・ジュヴェ)の心の機微の描き方に説得力がある。その愛人(アルレッティ)や善良なホテルの主人夫婦たちも実にリアル。「天井桟敷の人々」は映画史の最高峰の一つだと思うし、「嘆きのテレーズ」も大傑作。マルセル・カルネの演出力に圧倒される。

 

「霧の波止場」

 マルセル・カルネ監督、ジャン・ギャバン主演。脚本は「天井桟敷の人々」と同じ、大詩人であるジャック・プレヴェール。かつて見たつもりでいたが、今回見ても、まったく記憶がなかった。もしかすると、今度初めて見たのかもしれない。

脱走兵(ジャン・ギャバン)が外国に逃げるために港町であるル・アーヴルにやってきて、娘(ミシェル・モルガン)と恋に落ち、すでに進行していた殺人事件に巻き込まれ、ついに自分も殺されてしまうまでの物語。港町に生きる人々が入り組み、愛憎が交錯し、悲劇的な結末へと一気に突き進んでいく。

犯罪社会とまったく無縁に生きてきた私にはこのような世界にあまりリアリティを感じない。だから、特に好きな映画だというわけではない。が、人間心理を交錯させ、それを展開させていく作劇法に、まるで交響曲を聴いている時のような知的感動を覚える。伏線があり、テーマとテーマが重なり合い、登場人物が重層化して緊密に展開していく。そこに愛について、人生についての含蓄のあるセリフが語られる。主人公が助けた野良犬がしばしば登場する。野良犬として生きていながら無償の愛を求める姿を象徴しているのだろう。犬の使い方もじつにいい。

ミシェル・モルガンの顔を久しぶりに見た。チンピラを演じているのはピエール・ブラッスール、娘の養父を演じているのはミシェル・シモンではないか。当時の映画にしばしば登場する名優たち! 心ならずも罪を犯してしまった男性が恋に落ちたために自分を変えようと考え、船に乗って遠方に行こうとしたが果たせずに殺されるという大まかなストーリーは「北ホテル」とよく似ている。

 

「陽は昇る」

「霧の波止場」や「天井桟敷の人々」と同じマルセル・カルネとジャック・プレヴェールのコンビの作品なのだが、信じられないほどつまらない。

主人公(ジャン・ギャバン)が、清純な女性(ジャクリーヌ・ローラン。たぶん当時の新人女優)を愛すようになり、その女性に言い寄るほら吹きの男性を殺してしまい、自分の部屋に立てこもって、最後には自殺をする。男を殺して部屋に閉じこもるところから始まって、回想によって話が進んでいくのだが、主人公の気持ちがよくわからない。なぜ男を殺すのか、なぜ主人公は怒り狂っているのか、なぜ自殺するのか。いや、そもそも、なぜこの主人公は別の女性(アルレッティ)にも手を出すのか、なぜ男にそれほどの敵意を持つのか、清純な女性は本当はどのように感じていたのか。それがわからない。一つ一つの行動が納得できない突飛なものに見える。作劇の都合に応じて、突然主人公の部屋に銃弾を撃ち込んだかと思うと、まったく放置しているかのような警察の対応もリアリティを欠く。キツネにつままれた気持ちのまま終わってしまった。ちょっとがっかり。

 

「海の牙」

 原題はLes Maudits なので、「呪われた人々」というような意味だろう。ルネ・クレマン監督作品。第二次大戦末期、ドイツ軍の特別任務を負った潜水艦がオスロから南米に向かって出発する。艦内で病人が出たために寄港地のフランスで医師(アンリ・ヴィダル)が拉致され、治療にあたらせられる。その医師を主人公にして、敗北を前にしたナチスの軍人や様々な協力者たち、つまりは「呪われた人々」の人間模様が描かれる。

医師自身、いつ用済みになって殺されるかわからないという恐怖で脱出の機会を窺っている。だれが信用できるかわからない。客の中には、自分の行動に疑問を持って自殺を考える人、裏切って逃げようという人、完ぺきなナチス信奉者、冷血漢などがいる。そんなサスペンスにあふれた中で物語が展開する。そして、ドイツの敗北が決定的になっている状況、しかも潜水艦の中という極限状態での人間模様が描かれる。言い換えれば、戦後のドイツの状況、そして対独協力者の状況を、潜水艦内に場面を設定して描き切ったということだ。クレマンは実に手際よく、リアルに描いていく。潜水艦内の描写もおもしろい。みんなが脱出した後、主人公が一人取り残されるところまで、見ているほうははらはらさせられる。

実はルネ・クレマンは特に好きな監督ではない。あの有名な「禁じられた遊び」に感動したという人が同年代には大勢いるが、私はそれほどの名作とは思えなかった。クレマン作品はかなり見ているが、おもしろかった記憶があるのは、「鉄路の闘い」と「太陽がいっぱい」くらい。それ以外のほとんどは「まずまず」という印象だった。が、この「海の牙」はこれまで私の見たクレマンの映画の中で最高の部類に属する。

 

「花咲ける騎士道」(原題は「ファンファン・ラ・チューリップ」)

 クリスチャン=ジャック監督。往年の大スター、ジェラール・フィリップ主演。相手役はジーナ・ロロブリジーダ。ルイ15世の時代のとても痛快な活劇。「三銃士」のダルタニャンのようなキャラクター。今の若者にわかるようにいえば、ジャッキー・チェンの活躍をフランスのブルボン王朝時代に移したようなもの。

ストーリーは、「嘘から出たまこと」とでもいうべきもので、多くの若者を王の兵に募りたいためになされたうその予言が事実になっていく。主人公は何度も窮地に陥るが、毎回そこから抜け出し、3人だけの力で戦争に勝利する。ジェラール・フィリップの身体能力にも驚く。単にイケメンであるだけでなく、演技力も素晴らしい。シリアスな役を演じるフィリップはこれまで何度も見てきたが、このような単純明快な役も見事に演じているのに驚嘆する。ロロブリジーダも実に美しい。中学生のころ、「わらの女」という映画でロロブリジーダを知って、しばらくその美しさにのぼせたほどだった。今見ても、実に美しい。

この映画を見るのはたぶん2度目だと思うが、とても楽しめた。名作とはいえないかもしれないが、楽しい映画ではあった。

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