METライブビューイング「ラ・ボエーム」に心ならずも感動
銀座の東劇でMETライブビューイング「ラ・ボエーム」を見た。
実は私は30年来のプッチーニ嫌い。しかし、何とかプッチーニを理解しようと、最近、機会があるごとにプッチーニに触れることにしている。その一つとしてみることにした。
ゼフィレッリ演出の古典的な舞台。何人もの歌手で見た記憶がある。しかし、定番だけあって、やはり実にこなれている。ミミのクリスティーヌ・オプライスは、出演予定だったハーディグが風邪のため、当日の朝、連絡を受けて、前日「蝶々夫人」を歌ったばかりなのにこの役を引き受けたという。第一幕はセーブ気味だったが、第二幕以降、本領発揮。第3幕、第4幕は圧巻。細身の美しい声で、まさにミミにぴったり。いかにもかよわげ。しかし、リリックでしかもドラマティック。容姿も美しく、言うことなし。
ロドルフォのヴィットーリオ・グリゴーロももちろん素晴らしい声。ムゼッタのスザンナ・フィリップスも輝かしい声と可憐な容姿がすばらしい。まさにロドルフォとムゼッタにぴったり。マルチェッロのマッシモ・カヴァレッティも実にいい味を出している。第3幕の四重唱は実に美しかった。そのほか、ショナールのパトリック・カルフィッツィ、コルリーネのオレン・グラドゥスもはまり役。
指揮はステファーノ・ランザーニ。手堅くオケをまとめ、勢いのある音楽を作り出している。私は大いに気に入った。プッチーニ嫌いの私が、なんと第4幕は不覚にも感動の涙を流しそうになった。プッチーニのお涙ちょうだいの甘ったるいメロディや、歌をそのままなぞるオケには抵抗を感じるのだが、そんなことは忘れて、歌手たちの声の力と演技に酔った。それにしても、メトロポリタン・オペラ恐るべし。すべてが最高レベル。
4人の若者(実際に歌うのは、もちろんかなりの年配の歌手たちだが)のおふざけを上手に使って悲劇を引き立たせ、しかも、これがあるためにお涙ちょうだいのメロドラマが、しつこくて甘たっるすぎるメロドラマにならずに済んでいる。そのプッチーニの手腕には改めて感服。
本場メトロポリタン・オペラを見たい気持ちが高まった。これまでバイロイト、ザルツブルクにばかり目が向いていたが、ニューヨークにも足を運びたいと強く思った。
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コメント
突然ですが、現在私はNHKの「お願い!編集長」と云うサイトで1978年のポリーニ、サヴァリッシュ&N響による
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番(http://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/33020.html#main_section)と
「サヴァリッシュ ワーグナーを語る ワーグナー没後100年を記念して」(http://www.nhk.or.jp/e-tele/onegai/detail/33021.html#main_section)
と云う番組の再放送を要請しております。
2014/5/23までに100人の賛同が集まれば再放送されます。是非ご協力ください。
投稿: 若きワグネリアン | 2014年5月15日 (木) 14時51分
ランツァーニ指揮の「ボエーム」は、今回のMLVは見送りますが、一度藤原歌劇団公演で聴きました。確かに良かったですね。プッチーニ色を抑えたクライバー指揮ではなく、プッチーニが嫌いな方には受けそうにないオーソドックスな指揮をするランツァーニで感動されたとは意外でした。もしかしたら、ドビュッシーが「あの時代(1830代)のパリをよく表現している」と評価したのと同じものを、無意識の内に感じられたのかも知れませんね。
投稿: 崎田幸一 | 2014年5月15日 (木) 23時45分
若きワグネリアン 様
情報ありがとうございました。
さっそく、再放送希望のクリックをしておきました。
投稿: 樋口裕一 | 2014年5月17日 (土) 07時23分
崎田幸一 様
コメント、ありがとうございます。
ライブビューイングは「映画」の要素が強いため、歌手の容姿がかなり大きな意味をもつと思います。どんなに声が素晴らしくても、映像で大写しにされると、あまり感情移入できなくなってしまうことがあります。その点、オプライスのミミは本当にミミらしくて、泣けてきました。この経験で、新しく「ラ・ボエーム」の魅力を知ることができたとは言えそうです。
投稿: 樋口裕一 | 2014年5月17日 (土) 07時28分
樋口先生こんにちは。実は初めてライブビユーイングを観ました。そして、大当たりの公演に当たったと思います。ただ、指揮者は脇役に徹したように思いました。全体の感想としては、東条クラシックコンサート日記の東条さんの感想に近いです。自分はゲオルギュウのメトライブのDVDを愛聴していますが、ミミについては今回の舞台裏の物語もあり、凄く琴線にふれるものがありました。
投稿: 小島健 | 2014年5月17日 (土) 16時25分
小島健 様
コメント、ありがとうございます。
東条さんは、第4幕をご覧になっていないようですね。最後までごらんになっていれば、もう少し違う感想も書いてくれたのではないかと思います。確かに、雪の場面は、これまで見たゼフィレッリ演出よりもちょっと地味だったように思います。
いずれにしましても、METライブビューイングはほとんど常にこのレベルです。毎回楽しめると思います。
投稿: 樋口裕一 | 2014年5月19日 (月) 00時30分