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オペラ映像「ミレイユ」「シェリュバン」「ポーギーとベス」

 しばらく前から、時間を見つけて何本かのめったに上演されないオペラの映像を見ていた。感想を書く。

 

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グノー 歌劇「ミレイユ」 パリ・オペラ座公演

 

 今年の2月に行われた東京オペラ・プロデュース公演の予習のためにBDを注文していたのだが、いつまでも到着せず、公演には間に合わないどころか、公演後数か月たっても、届かなかった。いったんBDをキャンセルして、DVDを注文しなおしたら、比較的早く届いた。初めからDVDにしておけばよかった。

 実に素晴らしい映像。大スターは出演していない。突出した歌手はいない。だが、よくまとまっており、実に良い雰囲気。歌手たちもそろっているし、容姿を含めてまるで登場人物そのまま。演出(ニコラ・ジョエル)も無理がなくわかりやすい。南フランスの雰囲気を表に出している。麦畑が実に美しい。

 グノーらしい美しいメロディがふんだんに現れる。確かに、ワーグナーやヴェルディやシュトラウスのような傑作ではないかもしれないし、感動に震えるということもないが、楽しく心地よい雰囲気を味わい、じっくりと音楽を楽しむことができる。

指揮はマルク・ミンコフスキ。いつもおとおりに歯切れのよい演奏だが、意外に抒情的。南フランスの豊かな自然、明るくてさわやかな雰囲気が味わえて実に気持ちがいい。インヴァ・ムーラのミレイユが特にいい。チャールズ・カストロノヴォのヴァンサンはちょっと声が弱いが、この役はこれで十分だと思う。そして、当たり前のことだが、登場人物たちのフランス語がとても美しい。これは、フランス以外の国での上演ではなかなかないことだ。逆に言えば、フランス・オペラ上演において、フランス語の響きがかなり重要だということだ。これは私がたまたまほかの言語よりもフランス語が多少は理解できるということによるのではあるまい。

ただ、東京オペラ・プロデュースの上演でも思ったが、かなりストーリーに無理がある気がする。無理やりミレイユを死なせているようで、あまり納得できない。昔、杉富士夫先生の翻訳で原作を読んだ時にはそうは思わなかった記憶があるので、台本に難があるのだろう。

 ともあれ、多くの人にぜひとも見てほしい映像ではある。

 

 

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マスネ 歌劇「シェリュバン」 カリアーリ歌劇場 

 カリアーリというのは、カリャリなどとも表記されるサルデーニャ島の都市。調べてみたら、人口50万人ほどらしい。そのようなところで上演されたマスネのあまり有名ではないフランス語によるオペラのDVDなので、あまり期待しないで見てみた。ところが、どうしてどうして、見事なレベル。

「シェリュバン」というのは、ケルビーノのフランス語表記。「フィガロの結婚」のケルビーノの後日譚ということになっている。恋に恋するシェリュバンが伯爵夫人、男爵夫人などの何人もの女性、そして夫などを巻き込んで繰り広げられる恋の騒動が描かれる。

 シェルバンを歌うミシェル・ブリート(2012年のバイロイトで、ブランゲーネやヴェヌスを歌うのを聴いた)、アンソレイヤードを歌うパトリツィア・チョーフィをはじめ、歌手たちが素晴らしい。ただ、女性歌手たちはみんなかなりきれいな雰囲気の人で、しかもみんな顔の雰囲気なので人物の識別に困った。エマニュエル・ヴィヨームの指揮も、いかにもマスネらしい柔らかくてしなやかな演奏。演出はポール・カラン。みんなが貴族らしい大げさな服装をして、まさに革命前の享楽的で豪華な貴族の世界を見事な色遣いで、しかもかなり戯画化して描いている。色のセンスが抜群。ケルビーノというのは、キューピッドの役割をする天使ケルビムのこと。だから、シェリュバンは羽をつけ、恋をかきたてる。

演奏、演出ともに、いかにもフランス・オペラらしい、小ぶりながら繊細で美しい舞台を作り出す。

 きれいなメロディがしばしば聞こえるが、とはいえ、やはりあまり人気のないオペラだけあって、口ずさみたくなるような親しみやすいメロディというわけではない。とても楽しめるが、やはり名曲ではないな、と納得するのも事実だ。

 

 

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ガーシュウィン 歌劇「ポーギーとベス」 サンフランシスコ・オペラ公演

「ポーギーとベス」は紛れもなく古今東西のオペラの大傑作の一つだと思う。このBDを見ても、音楽の完成度、台本のおもしろさに改めて驚く。よくもまあこれほど革新的なオペラが作れたものだと思う。台本を書いたのはジョージ・ガーシュウィンの兄アイラだが、古今東西のすべてのオペラの中でも出色の出来栄えではないかと思う。アメリカの黒人の文化をヨーロッパ伝統のオペラに完全にしてしまって、しかも、従来のオペラをはみ出している。社会の底辺に生きる人々の生活感がにじみ出ている。演出はフランチェスカ・ザンベロ、指揮はジョン・デメイン。

 とりわけ、この映像は、まず歌手が揃っている。ポーギーを歌うエリック・オウェンズが圧倒的。現代のバリトンを代表する歌手だが、ポーギーこそが最高の持ち役なのではないかと思えてくる。彼が存在したからこそ、この企画があったのだろう。

ベスを歌うラキタ・ミッチェルも、声、そして肉感的な容姿ともにとても魅力的。悪役のチョンシー・パッカー(スポーティング・ライフ)、レスター・リンチ(クラウン)はともに憎たらしく、しかもきわめて魅力的。映画の名優のように演じて、しかも声も伸びている。あの「サマータイム」を歌う清純なエンジェル・ブルー(クララ)も哀れを誘う。登場人物全員がじつにいい。そして、黒人たちの合唱が泥にまみれた宗教性を醸し出していて、とても感動的。神への祈りと欲望、犯罪がまじりあって、これまでのオペラにはない世界を作っている。大いに感動して見た。

 

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