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河瀨直美「二つ目の窓」は大傑作だ

 7月28日、JR東日本の研修で文章についての指導を行った後、買い物を済ませてから、テアトロ新宿で河瀨直美監督作品「二つ目の窓」を見た。

 テアトロ新宿に足を運んだのは、おそらく40年ぶりくらい。20代のころ、よく通っていた。当時、3本立て270円だったような気がする。階段を下りて地下の映画館に向かったら、当時のことをありありと思い出した。もちろん改装されているが、40年前のままの構造。ひょいと、テアトロ新宿で映画を見た帰りに、ちょっと奮発して三平食堂で夕食を食べていたのも思い出した。安くておいしい定食の外見も、そしてその味までも思い出した。今では途上国でしか見られないような、打ちっぱなしのコンクリートの床の上にガタガタするテーブルを置いただけの店だったが、私は大いに気に入っていた。

 映画については、とてもおもしろかった。「萌の朱雀」や「殯の森」に匹敵する傑作だと思う。河瀨監督が自分で「最高傑作だ」と語っていたことに深く納得する。

 今回の舞台は奄美大島。

 ストーリーの中心になるのは高校生男女の恋の物語。離婚した母と二人で暮らす界人(かいと)。何人もの男と関係を持つ母にいら立っている。その界人に思いを寄せる高校の同級生の杏子は、「ユタ神様」と呼ばれる半分神のような母を病気で亡くす。杏子は母の死の後、界人にセックスを求めるが、界人は母とのわだかまりがあってセックスできない。だが、嵐の日、家に帰らない母を心配するうち、母への愛を思い出す。そして、界人と杏子は愛をかわす。言い換えれば、界人は一皮むけ、それまで嫌っていた海(すなわち、汚いもの、怖いもの、異界のものをひっくるめて存在する生そのもの)を受け入れる。

 そうした愛の物語に、海の大自然、生、死、聖なるものが重なる。人の営みがあり、人が死に、愛をかわし、聖なるものが取り巻いている。残酷でありながら、けなげに生きていく生物たち。生と死が重なり合う世界。

 河瀬監督のこれまでの映画では、生命を具現するのは常に森だったが、今回は海。海も森と同じように、生があり、死があり、セックスがあり、聖なるものが宿り、長い歴史がある。とりわけ奄美大島には、神と一体化する習俗があり、生と死が密着して暮らしている。その中で自分の生を求めて懸命に生きていく人たちが描かれる。それぞれの人物に存在感があり、生きている歴史、その苦悩が伝わってくる。演出力に感服。とりわけ、松田美由紀の演技に圧倒された。

 冒頭と映画の広範に描かれる山羊を殺す場面、松田美由紀演じる母親がガジュマルの木(いかにも生命、そして聖なるものを感じさせる)を見上げる場面、そして、その死の直前、枕元で奄美の歌と踊りが披露される場面、そしてマングローブの林の中での若い二人のセックス、最後の全裸での海での泳ぎ。これらの場面に私は心を奪われた。

 海が舞台なったため、これまでの森が舞台の時と違ったテーマが現れたことが興味深かった。海と一体化し、自分が海とセックスをかわすような気分になる、というテーマ。これは森が舞台の場合には語られなかったことだ。私は「トリスタンとイゾルデ」を思い出していた。その「愛の死」の部分は、まさしくイゾルデ自らの血潮と海の潮が一体化し、自分が大宇宙と合体し、それが聖なるもの、そして性なるものと融合する様子が歌われる。

 河瀬監督はますます深化している。海の場面も、これまでの森の場面と同じように美しい。

 映画が終わった後、主演の村上虹郎と真利子哲也監督、三宅唱監督によるトークショーがあった。途中から杏子役の吉永淳も加わった。面白い情報もあり、それはそれで楽しめたが、「二つ目の窓」に深く感動した後のトークショーとしては、その深いテーマとあまりにかけ離れていることに違和感を覚えた。

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