ザルツブルク音楽祭 大満足の「ばらの騎士」
8月8日、ザルツブルク音楽祭2014、祝祭大劇場で「ばらの騎士」を見た。指揮はヴェルザー・メスト、演出はハリー・クプファー。とても素晴らしい上演。
前評判通り、マルシャリン役のクラッシミラ・ストヤノヴァが圧倒的な存在感。声も美しく、声量もあり、声のコントロールも完璧で、何よりも表現力がある。第一幕のアリアもよかったし、やはり第三幕の三重唱をずっとリードしているように聞こえた。容姿もマルシャリンにぴったり。
オクタヴィアンを歌うゾフィー・コッホもストヤノヴァに一歩も引けを取らない。この人の歌は、これまで実演やDVDを合わせてかなり見てきたが、成長著しい。生き生きとしていて、声に張りがある。男性的な動きも、まったく違和感がない。ゾフィーを歌ったモイツァ・エルトマンも素晴らしかった。容姿も細見な分だけ、声の威力には乏しいが、それにもまして可憐さがあり、声の美しさがある。ともかく、ゾフィーにはこれ以上ないほどのはまり役。アドリアン・エレートのファニナルも実にいい。
オックス男爵を歌うのは、ギュンター・グロイスベック。この人もあれよあれよという間に大歌手になってきた。これまで私は何度かワーグナーの王様系の役を聴いて、毎回、素晴らしさに驚嘆したが、ついにオックスを歌うようになったとは。若々しく、しかもハンサムなオックスなので、これまでの多くの歌手が演じてきたオックス男爵像とはかなり異なる。むしろ、マッチョでハンサムであるだけに傲慢でナルシストの嫌味な精力絶倫男といったところ。そのようなオックスをおもしろく演じていた。第二幕のカーテンコールの際、最後に少し声がかすれたことを気にしているそぶりを見せていたが、あれくらいは仕方がない。グロイスベックだからこそ完璧を目指すのだろうが、ほかの人なら信じられないほどの声の力。
クプファーの演出は、かつてのクプファーにしてはおとなしめといえるのではなかろうか。時代は作曲された当時に設定されている。蓄音器がある。第一幕の朝食のテーマを蓄音機にかけるレコードの音楽という設定にしていた。確かに、あのテーマははやり歌風の雰囲気がある。
どうやら、クプファーはこの物語をリアルにすることに腐心したようだ。第三幕も、原作には少し現実的には無理のあるところがあるが、それを緩和させるために、お化け屋敷らしいもののある遊園地の中の居酒屋ということにしている。こうすれば、扮装した人々がオックスを脅かす場面の違和感が減るだろう。
最も驚いたのは、ムーア人の小姓が小さな子どもではないこと。10代後半、あるいは20歳くらいに見える。マルシャリンにひそかに思いを寄せていることが、最後のハンカチを披露場面ではっきりする。まあ、わからないでもないが、そこまでする必要があるのかとは疑問に思った。私は、やはりこれは小さな子どものほうがずっと感動的だと思う。
好みの問題ではあるが、ちょっと問題を感じたのはヴェルザー・メストの指揮。昨日のドホナーニと同じように、実に完璧。バランスが良く、精妙で知的でいうことなし。が、もう少し官能性を強調してもよいのではないかと思う。ちょっと上品になりすぎている気がした。
とはいえ、やはり本当に素晴らしい。第三幕の三重唱は、マルシャリンの気持ちになって、自分の年齢を感じて恋を諦める気分になったり、若い二人と同じように恋にときめく気分になったり。・・・残念ながら、ほかの歌手が演じる、不細工で老人なのに色好みのオックスにはしばしば自己投影をするのだが、ハンサムで精力絶倫の今日のオックスの気持ちにはなれなかった。
それにしても、ウィーンフィルがすごい。昨日のフィルハーモニア管とは、やはり格が違うと思った。指揮のおかげもあるのだろうが、実に精妙で、しかもダイナミック。管楽器の美しさときたら、言葉では言い表せない。この音を聴くだけで、ザルツブルクまでやってきた幸せを感じる。ああ、生きていてよかった!!と心の底から思う。
満足して眠りにつくことにする。
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