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ザルツブルク音楽祭 「フィエラブラス」 演奏は素晴らしかった

 ザルツブルク音楽祭2014、モーツァルト劇場でシューベルト作曲のオペラ「フィエラブラス」を見た。

 今日のザルツブルクの昼間の気温は16度くらい。雨が一日中ぶって、むしろ寒い。ともあれ、今日の「フィエラブラス」が私の今年最後のザルツブルク音楽祭。指揮はインゴ・メッツマッハー、演奏はウィーン・フィル。

  イスラム社会のムーアの国の王子フィエラブラスがフランク王国の捕虜にされながらも、キリスト社会の信頼を得て、両世界を和解させる話。

 演奏については文句なし。フィエラブラスはミヒャエル・シャーデ。きれいな芯のある声で、情感もたっぷり。カール王(というか、フランス文学を学んだ者には、シャルルマーニュというほうが通りがいい)がゲオルク・ツェッペンフェルト。これも王様らしい美声で素晴らしい。そして、目立っていたのが、エンマ役のユリア・クライター。一昨年、ザルツブルクで見たアーノンクール指揮の「魔笛」でパミーナを歌った歌手だ。その時もきわだっていたが、今回も目と耳を奪う。容姿も素晴らしい。よくもまあこれほど次々と美貌の歌手が出てくるものだ。フロリンダのドロテア・レーシュマンも素晴らしいし、ローラントの マルクス・ヴェルバもよかった。

 合唱も素晴らしい。ア・カペラの男声合唱の部分は心が震えた。

 指揮のメッツマッハーも切れがよく、音の重なりも美しく、しかもとても情感にあふれている。いつだったか、新日フィルを振った「未完成」を思い出した。情緒に流れず、しかもしっかりとロマンティックで、大いに感動した。

 ただ、肝心のオペラそのものがやはり弱いのを感じざるを得ない。めったに上演されないのには、それなりの理由がある。まず、台本があまりに陳腐。ストーリーがあまりに非現実的でご都合主義的。偶然の出会いが多いのはまあ大目に見るとしても、登場人物の行動に必然性がなく、とってつけたように行動する。もっと葛藤があってしかるべきなのに、どの人物もいともやすやすと信じられない行動をとる。これでは、感情移入のしようがない。見ているほうとしては、なんだかわけがわからずにいるうちに、どんどんと話が進んでいく。

 音楽も、シューベルトらしいきれいなメロディにあふれているが、歌をつなぎ合わせた感じがする。音楽によるドラマの盛り上がりがない。葛藤そのものが音楽にされずに、行動の結果が歌によってあらわされるとでもいうか。だから、あらすじを歌で表現しているのを聴いているような気分にさせられる。やはり、シューベルトはオペラ作曲ではないというべきだろう。

 演出はペーター・シュタイン。とてもきれいな舞台で、基本的には読み替えをしないでオーソドックスな舞台。しかし、そうであるだけに、台本の弱さが表に出てしまう。

 最後になって種明かしされるが、このオペラを今、ザルツブルク音楽祭で上演するのは、キリスト教徒イスラム教の和解を訴えたかったからだろう。最後、輝かしい舞台になって、明らかにイスラム世界とわかる扮装の人々が登場し、フィエラブラスの仲介でカール王とイスラムの支配者ボーラントの和解がなされる。

 ただし、演出ではあまり強調されていなかったが、台本ではムーア人は敗北するわけだし、フィエラブラスはキリスト教に改宗するわけだから、きわめてキリスト教にとって好都合な和解ではある。イスラム社会の人が見たら、むしろ怒りだすのではないと思わないでもない。

 ただ、キリスト教世界とイスラム教世界が裏表の関係で表現されるところはとても興味深く思えた。それぞれの世界に王がいて、その娘がいて、その娘が恋をしている。仲介するものとしてフィエラブラスがいる。この裏表の世界は、「魔笛」にも通じるものだ。演出のせいかもしれないが、何かしら「魔笛」との類似性を感じた。が、それについてはそのうち、もしその気になったら考えてみよう。今日はちょっと疲れた。

 日本を離れてほぼ10日。一人旅なので、レストランに入りにくい。ろくなものを食べていない。朝はホテルでしっかり食べるが、昼は果物のみ、夕方は屋台のウィンナー。音楽を聴いた後、ホテルでおやつを食べる。悪くない味だが、毎日同じでは飽きる。

 明日はシュトゥットガルトに一泊して、明後日にパリに移動。久しぶりにパリで数日過ごす予定。

 

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コメント

ブログを楽しく拝見させていただいております。実は、フィエラブラスの開演前15分ほど前に1.RANGからPARTERREへ階段を下りて行かれる樋口先生(ブログの写真の方にそっくりの方!?でした・・・)をお見かけしたのですが、開演直前でもあり、ご迷惑かと躊躇するうち、お声掛けできませんでした。
珍品扱いされていてちょっとかわいそうなシューベルトのオペラですが、私にとっては、すべてが素晴らしかったです。クライター、ヴェルバ、ツェッペンフェルト、それにシャーデ、レッシュマン、大好きな歌手達(なんだかアーノンクール・ファミリーという感じですが)が、最高の歌唱を聴かせてくれて、大満足でした。
メッツマッハーは、すごい指揮者ですね。舞台との呼吸、バランスが絶妙で、普段、コンサート、オペラにほとんど足を運べていない私ですが、新日本フィルのコンサートに行きたくなりました。
きょうは、シャルロッテ・サロモンを観ます。(貧乏旅行につき最後列立見です・・)語学力ほとんどゼロの私にとって、先生のブログは頼みの綱という感じで、助かりました。
では、どうか素敵な旅をお続けください!

投稿: 高橋 幹雄 | 2014年8月15日 (金) 00時41分

高橋幹雄 様
コメントありがとうございます。
そうですか、あの場を見られてしましましたか。立ちっぱなしになりそうでしたので、2階に椅子を見つけて座っておりました。そろそろ時間ですので、降りていたところでした。
高橋さんは、文学部系の出身ではおられないのかもしれません。文学を学んだ人間からすると、あの台本は、あれこれ文句を言いたくなるものだと思います。ただ、きれいな歌がたくさんあって、もったいないという気持ちになりました。
メッツマッハーはすごい指揮者だと思います。現代曲を演奏するときもまた、凄まじいですあい。私も新日フィルにもっと通おうかと思っているところです。
「シャルロッテ・サロモン」を楽しまれたことを祈ります。

投稿: 樋口裕一 | 2014年8月16日 (土) 07時54分

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