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ザルツブルク音楽祭、「ドン・ジョヴァンニ」 これまた素晴らしい

 8月12日、ザルツブルク音楽祭2014、モーツァルト劇場で「ドン・ジョヴァンニ」を見た。これもまた素晴らしかった。

 指揮はクリストフ・エッシェンバッハ。演出はスヴェン・エリック・ベヒトルフ。この演出家は、一昨年、私がザルツブルクで見た「ナクソス島のアリアドネ」(NHKでも放送された。ホフマンスタールが登場人物の一人になるヴァージョン)の演出家。ウィーンの「リング」の演出でも話題になっている。

 まず歌手たちが圧倒的。とりわけ、ドン・ジョヴァンニを歌うイルデブランド・ダルカンジェロが言葉をなくす凄さ。実はこの人をなまで聴くのはたぶん初めて(もしかすると、有名になる前に聴いたことがあるかもしれないが)。もちろん、CDやDVDでは何度も聴いていたが、予想以上のすごさ。このレベルの高い歌手たちの中で抜きんでている。美しくも深い声、しかも演技力があり、凄みを聞かせることができる。

 そのほか、ドンナ・エルヴィラを歌ったアネット・フリッチュが素晴らしかった。1986年生まれというから、まだ20代。ドンナ・エルヴィラにふさわしいドラマティックな声で、表現力もある。容姿も素晴らしい。ドンナ・アンアのレネケ・ルイテンも美しい張りのある声で、しかもこの人も演技力がある。ツェリーナのヴァレンティーナ・ナフォルニータも清純な声で、とても魅力的。レポレッロのルカ・ピサローニも軽妙な役を美声で歌い、騎士長のトマス・コニエチュニーも最後のドン・ジョヴァンニとの対決の場面は聴きごたえがあった。

 演出もとてもおもしろかった。第一幕、第二幕ともに場所は変わらず。恋人たちの密会に使われているホテルという設定。騎士長、そして騎士たちは風紀を守ろうとする集団であって、このいかがわしいホテルを摘発しようとしている。どうやら、騎士長は、摘発するつもりでいたら、娘のドンナ・アンナがそこにいて、ドン・ジョヴァンニに襲われそうになり、それを助けようとして、つい殺されてしまったということらしい。

 第二幕の終盤でドン・ジョヴァンニは地獄に落ちるが、最後の場面で、「ティル・オイレンシュピーゲル」のように生き返り、性懲りもなく女を追いかける。それがきわめて肯定的に描かれる。「人間って、こんなもんなんだよ。風紀を取り締まって厳しくしたって無意味だよ。それは単に抑圧だよ。ドン・ジョヴァンニでいいじゃないの。男はこうやっていつまでも女を追いかけるものなんだよ」というメッセージだろう。

 最後の場面でドンナ・エルヴィラは十字架をつけた尼僧の姿になって、神父の前に従っている。よみがえったドン・ジョヴァンニはそれを茶化す。ここに演出の精神が現れている。プログラムの中の演出者のインタビュー(中身は読んでいない)のタイトルにある通り「自由万歳」ということだろう。

 般若の面をかぶった人間たちがたびたび現れる。角があるので、悪魔ということだろう(どうやら、コキュという意味ではなさそう)。ドン・ジョヴァンニの側にも、騎士長の側にもこの面が現れるようなので、きっとこれは人間の心の中の悪を意味するだろう。「ドン・ジョヴァンニは確かに悪を持っている。しかし、正義の顔をしていたって、その人たちも悪を持っているんだよ」ということか。

 エッシェンバッハの指揮については、かなり濃厚に、しかも音楽の流れをとぎらせずに演奏しているのだが、地獄落ちの場面など、もう少しドラマティックでよいのではないかと思った。ただし、今回の演出では本当には地獄に落ちるわけではないので、まあ、これでよいのかもしれない。

 ウィーン・フィルについてはいうまでもなく、あまりに素晴らしい。今日もまた堪能した。

 最後に、昨日に続いて、観客のマナーについて触れておく。今日、私は前から2列目のほぼ真ん中の席だったのだが、私の前の高齢の男女が序曲の間、おしゃべりをしていた。私の前ということは、エッシェンバッハの真後ろ。モーツァルト劇場なので、指揮者との距離は2メートル以下。音楽家というのはとりわけ耳がいいのだから、エッシェンバッハにも聞こえているのではないか。ある意味、すごい人たちだと感心した。

 そういえば、7日のドホナーニ+フィルハーモニア管のコンサートのとき、一昨年のヤンソンス+ウィーン・フィルのコンサートの時と同じように、最前列の中年女性がハンドバッグをステージの上においていた。もしかしたら、同じ女性かもしれない。

 日本人であれば怖くてできないことを、こちらの人たちは堂々とやる。ほめられたことではないが、こんな人たちだからこそ、こんなすごい芸術を作り出すことができたんだろうな・・・と改めて思った。

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