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最近見た映画ソフト 「小さいおうち」「「私」の人生(みち)」「ハンナ・アーレント」など

 実はとても忙しい。3つの仕事の締め切りが今週から来週に重なってしまった。一つをやっとの思いで仕上げると、次の仕事が締め切り間際という状態。とはいえ、もはや年齢のせいかぶっ続けで仕事をする体力を失って、ちょくちょく休憩している。そうやって、休憩中にいくつか映画を見たので感想を書いておく。

 

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「小さいおうち」

 山田洋次監督らしくしみじみとよい映画。日本が先の戦争へと向かう時代、女中奉公することになったタキ(黒木華)の視点から、その家の主人の妻、時子(松たか子)と、その家に出入りするようになった芸術家肌の青年、板倉(吉岡秀隆)の許されぬ恋の行方が語られる。タキ自身も板倉に好意を抱いているが、それを抑えて、二人の不倫を見守る。板倉に召集令状が出た翌日、時子は何が何でも板倉に会いに行こうとするが、周囲の目が厳しくなっている状況を察したタキは時子をとどめて手紙を書くように促し、その手紙を板倉に届ける約束をするが、その手紙を板倉に渡さない。板倉はそのまま戦地に向かうが、タキはその後、そのことに罪の意識を抱き続ける。そのようなストーリーが、老いたタキ(倍賞千恵子)の書いた自叙伝という形で進められる。

 不倫の関係になる時子と板倉は、ともに時局に迎合できず、西洋文化を好む人間として描かれる。舞台となった赤い屋根の小さな家も、とても西洋的な家。ストコフスキーの指揮するチャイコフスキーの交響曲第5番や、チェロのリサイタル(演奏されている曲は何だろう? 聞き覚えのない曲だった)が、二人の恋のきっかけになる。

西洋への憧れが軍国主義の時代に抑圧され、その発露として不倫があったとも読みとれる。いわば、一つの家庭に舞台を設定して、近代における西洋的なものと日本主義との葛藤を恋愛という形で描いたともいえるだろう。女中のタキは、そのような都市の近代化の道を、前近代生まれの視点で憧れを持って見ることになる。

 原作を読んでいないので何とも言えないが、映画を見る限りでは、現代を舞台にしての後日譚はなくてもいいのではないかと思った。西洋化が一層強まり、西洋の論理で物事を考えようとする現代(現代の青年を演じる妻夫木聡は、まさに西洋の論理を用いる)との比較によって、戦争前の時代を描きたかったのかもしれないが、あまりに因縁めいていて、リアリティを感じない。時子の不倫を書いたタキの自叙伝を読んだ青年が、時子の息子(先ごろ亡くなった米倉斉加年が演じている)に読ませようとし、だれが考えても時子が板倉にあてたとわかる手紙を息子の前で開封するのも不自然。

 しかし、松たか子と黒木華の演技がとてもいい。黒木華の目の表情がとりわけ素晴らしいと思った。

 

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「「私」の人生(みち)」 

 精神科医としても受験指導者としても名高い和田秀樹の「受験のシンデレラ」に続く第二作。前作はモナコ国際映画祭グランプリをとったが、今回は同じモナコ国際映画祭で主演女優賞や主演男優賞、人道的作品賞を獲得している。和田さんは本当に何をやっても天才的。和田さんとお会いした時、このDVDをねだるようなことを言ってしまって、送っていただいた。

 シェークスピア研究家である名誉教授(橋爪功)が、認知症を患い、徐々に自分の感情をコントロールできなくなっていく。そして、長女(秋吉久美子)に感情をぶつけるようになる。が、次女(冴木杏奈)が老人ホームで教えるタンゴを通して、家族の心が通い合うようになる。

 今回、和田監督が最も苦心し、最も工夫したのが、痴呆老人という重くて悲劇的なテーマを娯楽作品としていかにおもしろく、そして美しく描くかということだっただろう。名優橋爪功も、女性の痴呆患者を演じる松原智恵子(今も大変お美しい!)も、実際の痴呆老人とはかけ離れている。苦しむ家族も、みんな美しく、しかも服装もおしゃれで、悲惨な現場に見えない。だが、もちろんそれは和田監督も計算のうちだろう。あえてそのように描いて、希望のある娯楽映画にし、痴呆老人の問題に未来を与えている。そして、それに成功している。見事。ただ、私としては、やはりもう少しリアルな場面がある方が、一層感動したのではないかとも思った。

 

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「ハンナ・アーレント」

 岩波ホールで上映されているころから見たいと思っていたが、行こうと思い立った時には大人気で、満員で座れないかもしれないとのことで、時機を逸してしまった。先ごろ、やっとBDを購入して見た。監督はマルガレーテ・フォン・トロッタ。主演はバルバラ・スコヴァ。

 アーレントについては、きちんと著作を読んだことはない。「全体主義の起源」のおおまかな内容やアイヒマン裁判についての事件をぼんやりと知っているが、それ以上の知識はない。映画を見るともっと深く彼女の思想を知ることができるかと期待していたが、それについては特に収穫はなかった。まあ、映画を見るくらいで哲学者の思想がわかるはずがないのは当たり前といえば当たり前だが。

 が、映画としてはかなりおもしろかった。アイヒマンの罪を「考えることを拒んだ凡庸な人間の罪」とみなし、むしろそこに危機感を持つアーレントと、それを理解しない人々の対立の描き方は実にリアル。アーレントを特に美化することもなく、まさにアーレントの精神そのもののように、事実だけ冷静に描いている。いたずらに情緒的にせず、メロドラマにしないで、しっかりとアイヒマン論争を描いている。そして、そこにアーレントの姿を浮かび上がらせている。

 

 ところで、8月にヨーロッパの行きと帰りに機内で見た映画の感想も加えておく。

・「相棒 劇場版Ⅲ 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」

 実は私はテレビドラマ「相棒」はかなり好きで、欠かさず見ている。だから、期待していたのだが、期待外れだった。右京さんの推理もそれほど冴えていないし、「再軍備化」というテーマも少々安易に扱われすぎている印象を抱いた。絶海の孤島で訓練をする人々にあまりリアリティを感じなかった。テーマ自体はとてもアクチュアルで訴える力が強いと思う。もう少し説得力のある思想の持ち主にしていれば、もっと面白かったのではないか。

・「美しい絵の崩壊」

 アンヌ・フォンテーネ監督のオーストラリア・フランス合作映画。主演はナオミ・ワッツ。海辺で仲良く暮らす二つの家族。母親同士も親友、息子同士も親友。美男美女で、まさに美しい絵をなしている。ところが、ひとりの息子が親友の母親(母親の親友でもある)を愛すようになる。別の息子も親友の母親と関係を持つ。歳の離れた二組のカップルが誕生した時から状況が変わり、破局を迎える。・・・うーん。男としては立場がない。美しい映像であり、とても魅力的な人物たちなのだが、私は残念ながら人物の中のだれにも感情移入できないし、客観的になって、ここに何らかのメッセージを読み取ることもできない。まあ、一言で言えば、私のような年配の男がみるべき映画ではなかったのだろう。

・「トランセンデンス」

 人工知能を研究する天才科学者(ジョニー・デップ)が反人工知能の組織のテロにあって重い病にかかり、ついに死に至る。残された恋人は、その天才科学者の頭脳を、世界中に張り巡らされている人工知能の中枢の意識として用いようとする。ところが、天才科学者の意識を持った人工知能は世界を支配する絶対的な権力者として行動するように見える。が、最後には、もっと自然にあふれ、人間的な心が取り戻される。そんなストーリー。途中までとても面白く思えたが、天才が世界に張り巡らされた情報網の中枢の意識になったとすれば、もっと万能だろうし、もっと別のことができるだろうという疑問を持った。そのころからストーリーにリアリティを感じられなくなってしまった。

・「THE OHER WOMAN

 女性弁護士(キャメロン・ディアス)が未婚と偽っていた熱愛の相手が既婚者だと知り、その男の妻や別の愛人と親しくなって、男を痛めつける話。それなりには面白いし、痛快だが、これまた男の立場としては、そう楽しんでばかりもいられない。いや、そもそも三人の女性が意気投合する場面にかなり無理を感じた。ま、深く考えずに飛行機の中で時間つぶしに見るには、特に不満はない。

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