« 石田泰尚のヴァイオリン・リサイタルと黒田官兵衛のこと | トップページ | メッツマッハー+新日フィルのベートーヴェンに興奮 »

ブロムシュテット+N響の圧倒的な「悲愴」

 927日、NHKホールで、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、NHK交響楽団による、モーツァルトの「ジュピター」と、チャイコフスキーの「悲愴」のコンサートを聴いた。素晴らしい演奏。「悲愴」の後半については圧倒的な演奏。

 ブロムシュテットは1927年生まれというから、845歳。まったくそうは見えない。しっかりと歩き、ふつうに立って指揮する。そして、音楽もまったく老いを感じさせない。きびきびと引き締まり、リズム感にあふれ、誇張は少しもないのにドラマティックで美しい。N響も最高に美しかった。よい指揮者に当たったとき、素晴らしいオーケストラだとつくづく思う。指揮にぴったりついて、地味ながらもしっかりと美しい管楽器の音。弦はいつも見事。

「ジュピター」に関しては、私はとりわけ第二楽章の物悲しい音色に打たれた。「ジュピター」はむしろ祝祭的で雄大な音楽だが、第二楽章には晩年のモーツァルト特有の哀しみがかすかに聞こえてくる。その微妙な音色の変化が素晴らしいと思った。第四楽章の音の重なりも、まったく音が濁らず、しかも実にダイナミック。ぐいぐいと音楽を推進する。

「悲愴」は一層素晴らしかった。初めは少し抑制が強い気がした。正攻法のチャイコフスキー。情緒に流れず、号泣することもなく、しかし、正攻法に音楽を進めていく。そして、第三楽章で大きく盛り上がる。しかし、相変わらず、まったく形が崩れることなく、格調高く、クリアに引き締まっている。しかも、盛り上がりすぎることなく、第四楽章にしっかりと引き継がれていく。よく第三楽章の終わりで拍手が起こることがあるのでひやひやしていたが、そんなこともなく、第四楽章に続いた。しっかりと第四楽章につながることを分からせるような終わり方。

とりわけ第四楽章の沈痛な音楽がとりわけすごかった。弦の音に魂の痛ましさを感じる。チャイコフスキーが自らの人生を振り返り、第三楽章で運命を切り開いて人生に勝利したかに見えたが、第四楽章で悲痛な結末を迎える。そのようなメッセージが聞こえる気がした。

チャイコフスキーにしては、かなりドイツ的で気品にあふれる演奏。しかし、抑制しながらも、そこに激しい情念がこもっている。改めてすごい指揮者だと思った。

|

« 石田泰尚のヴァイオリン・リサイタルと黒田官兵衛のこと | トップページ | メッツマッハー+新日フィルのベートーヴェンに興奮 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

今しがたNHK Eテレで同じく9月のサントリー定期で行われたブロムシュテットのチャイコの4番を聴きましたが樋口先生の悲壮評にあるとおりのまことに見事な演奏でした。私は長らくもっともチャイコフスキーらしいムラビンスキー/レニングラード・フィルとそうでない
小澤・パリ管のCDを愛聴してきましたが、今夜のブロムシュテットの演奏はまさに格調高いものでN響も堂々と同氏の指揮に渡り合っていました。それにしても今夜のN響といい昨夜の定期で聴いた東響といい日本のオケも本当に大したものです。

投稿: 明田重樹 | 2014年10月 5日 (日) 22時45分

明田重樹 様
コメントありがとうございます。ブロムシュテットのチャイコフスキーの4番と5番のN響のコンサートにも行きたいと思いながら、時間が合わずにいけませんでした。放送も録画をセットしただけで、まだ見る時間が取れずにいます。おそらく、4番も、私の聴いた6番と同じ雰囲気でしょうね。ブロムシュテットもさることながら、指揮者の意図をこれほどまでにしっかりと、美しく反映できるN響も素晴らしいと思います。おっしゃる通り、本当に、日本のオケのレベル国情には目を見張るものがありますね。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月 6日 (月) 07時35分

次回はチャイコの5番を放映するようです。
ブロムシュテット・N響では5年位前に聴いた
バッハのロ短調ミサも印象に残っています。
やはりこの方現代の名指揮者ですね。

投稿: 明田重樹 | 2014年10月 8日 (水) 22時10分

明田重樹 様
コメント、ありがとうございます。
次回の放送、私も楽しみにしています。5番をぜひなまで聞きたかったのですが、時間が合わず残念でした。ロ短調ミサは聴いておりません。きっと素晴らしかったでしょうね。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月11日 (土) 22時47分

昨日のNHK Eテレクラッシック音楽館のブロムシュテット・N響きはチャイコの5番もさることながら、モーツアルトの40番のリハーサル風景が印象的でした。あれほどの巨匠でも随分細かい音作りをするのだなあと関心しました。本日は台風接近の中横須賀までケント・ナガノ、モントリオールSOのオールラヴェルプログラムを聴いてきましたが、やはり世界屈指のフランスの音色は健在でした。
この指揮者は何を聴いても地味な印象で、今日もモントリオールSOの音色を楽しんできた感じです。台風のせいか聴衆が半分程度しかいませんでしたが大いにラヴェルを堪能できました。

投稿: 明田重樹 | 2014年10月13日 (月) 20時51分

明田重樹 様
コメント、ありがとうございます。
実は、時間に追われて、まだブロムシュテットの録画を見られずにいます。10月中だけで12枚のコンサートチケットを購入していますし、仕事もありますので、それをこなすだけで精いっぱいです。
モントリオールのラヴェル、私も心が動きました。きっと素晴らしかったでしょうね。明田さんは、確かラヴェルが大好きだということだったと思います。私もラヴェルは好きなのですが、やはりコンサートが重なるとどうしてもドイツ音楽を選んでしまいます。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月15日 (水) 08時13分

私もブロムシュテット&N響の「ジュピター」「悲壮」を聴きました。
終演後所謂『一般参賀』が起こりましたね!ブロムシュテット先生にはいつまでも元気であってほしいですね!

投稿: がんばれ!公共放送NHK | 2014年10月17日 (金) 21時12分

がんばれ!公共放送NHK 様
コメント、ありがとうございます。
明日、テレビ放映されますね。その日は外出していますので見られませんが、録画でもう一度あの時の感動を味わおうと思っています。本当にいつまでも元気であってほしいです。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月18日 (土) 09時24分

昨晩、テレビでこの演奏の録画を視聴し、あまりに感動したので、その余韻に少しでも浸ろうと検索したところ、このサイトに行き着きました(といっても、ときどき拝読させていただいてはいますが)。
ブロムシュテットさんには、チャイコフスキーのような情緒的な曲はあまり向かないのではないかなどと思い込んでいたのですが、大きな誤解でした! ジュピターに期待してテレビをつけたのですが、それ以上に深く揺り動かされた悲愴でした。情緒に流れず格調高いのに、なんてドラマチックで美しく、沈痛さの伝わってくる演奏でしょう。オーケストラもすばらしい。
残念なことに録画はしておかなかったのですが、樋口さんのブログを読むことで、昨晩の感動の余韻を味わわせていだきました。

投稿: にいく | 2014年10月20日 (月) 13時47分

にいく様
コメント、ありがとうございます。
私は録画を見直して、あの時の感動をもう一度味わいたいと思っているのですが、実は忙しくて、そしてコンサートに追われて、録画を見る時間をとれずにいます。来週になれば、いくらか時間が取れると思うのですが。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月24日 (金) 16時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/60385378

この記事へのトラックバック一覧です: ブロムシュテット+N響の圧倒的な「悲愴」:

« 石田泰尚のヴァイオリン・リサイタルと黒田官兵衛のこと | トップページ | メッツマッハー+新日フィルのベートーヴェンに興奮 »