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ネマニャによるフランクのソナタとツィガーヌに興奮

 10月24日、かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホールでネマニャ・ラドゥロヴィチ ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。ピアノ伴奏はスーザン・マノフ。素晴らしかった。まだ興奮している。

 曲目は前半にチャイコフスキーの「スペードの女王」より「ポリーナのロマンス」、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第18番、バッハのシャコンヌ(シューマン編曲によるピアノ伴奏版)。

 モーツァルトのソナタは幸せな気持ちを歌いあげるような演奏。うきうきし、幸福感がみなぎる。こんなに幸福感が湧き上がる演奏初めて聴いた。しかも、おめでたく楽天的というよりも、不幸をかみしめたうえでの幸福感とでもいうか。幸福感の中に深みを感じさせる。素晴らしい演奏だと思った。

シャコンヌはドラマティックでロマンティック。プログラムをよく読まずにいたところ、無伴奏のはずのシャコンヌの演奏なのにマノフが登場してきたので驚いた。現代の編曲によるピアノ伴奏だとばかり思って聞いていた。それにしてもよくできたピアノパートだと思って、あとでプログラムを見たら、シューマンの編曲だという。よくできているはず。そういえば、後半、バッハにしてはあまりにロマンティックなピアノ・パートが現れる。波乱万丈の曲になっており、とてもおもしろかった。何度か心が震えた。

後半はフランクのヴァイオリン・ソナタとラヴェルの「ツィガーヌ」。すさまじい演奏だった。フランクのソナタは言葉をなくすすごさ。

スーザン・マノフのピアノはかなりロマンティック。揺れ動き、感情がこもる。それはそれで素晴らしい。そして、ネマニャとの相性は最高。文字通りに息がぴったり合って、まさしく二人で一つになって音楽を作っていく。が、ネマニャのヴァイオリンはあまりロマンティックではない。もっと現代的で、もっと突き抜けている。情熱によって音楽が揺れることはない。メリハリがあり、緩急があり、時に激情的になり、時に甘美になり、時にすすり泣くようになるが、感情的なところはない。透明で冷静で知的。マノフのロマンティックなピアノと、透明で怜悧な音でありながら魂がこもってほとばしるヴァイオリンが絡み合う。第二楽章と第四楽章では魂の高揚が頂点に達する。

ツィガーヌもそれにもまして素晴らしかった。私は2007年だったか、フランスのナントでネマニャのツィガーヌを聞いた記憶がある。が、その時よりも今回のほうに強い感銘を受けた。

ラヴェルらしい諧謔の心はあまり感じない。フランス的なエスプリもあまり感じない。ヴァイオリニストによっては、もっとフランス的に演奏されるが、むしろ、ネマニャの演奏にはジプシー的な要素を感じる。ジプシーの精神を歌いあげるかのよう。時に卑俗になり、俗謡的になる。が、それをひっくるめて人間賛歌とでもいうべき音楽になっていく。哀しみも苦しみも怒りも喜びも祈りも、すべてがこれらの音楽の中にあるのを感じる。卑俗なものが高貴な世界に統合されていく。

ネマニャはすでに前もって存在している音楽を奏でているのではない。今で来たばかりの音楽を私たちとの対話の中で築き上げていく。ネマニャは私たちと交感し、共演者と交感し、作曲者と交感して音楽を作り上げる。だから、私たちの心の中にぐさりと突き刺さる。

アンコールはモンティの「チャルダーシュ」と最後はジャズの曲。これらも素晴らしかった。

ネマニャは特別の音楽を作る。人の心を揺り動かす。ネマニャは稀有のヴァイオリニストだと改めて思った。今回のような本格的なソナタのリサイタルをこれからももっと聴きたい。

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コメント

はじめまして
彼の演奏を聴くのは3回目なんですが
やはりこういうリサイタルが最高でした

>これからももっと聴きたい

本当にそう思います
今でも感動の余韻があり幸せです
是非関西でも彼の魅力を最大に活かせる演奏会を聴きたいですね
何度でも

投稿: イム チェミョン | 2014年10月27日 (月) 23時46分

イム チェミョン 様
コメント、ありがとうございます。
私としては、ぜひともベートーヴェンやブラームスのソナタを聴きたいですね。そして、バッハの無伴奏の全曲も。私が最初にネマニャをを聴いたラヴェルのソナタもそれはそれは圧倒的なものでした。フランスもののソナタも聴きたいものです。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月29日 (水) 23時52分

樋口先生が強力に推されるなら、ネマニャは要チェックですね。昔はラ・フォル・ジュルネでも弾いていたというのは先生の著書で知りました。また出てきて、ケフェレックとかエル=バシャとかとデュオをしないかなと期待したいです。
それはともかく、Facebookでは普段オペラのお話をする関西在住の主婦がネマニャを聞き、というよりは見に行くと書いていました。とっかかりはルックスでも、樋口先生が絶賛される程の人ですから、きっと音楽そのものにも惹かれる様になるでしょう。

投稿: 崎田幸一 | 2014年11月13日 (木) 21時52分

崎田幸一 様
コメントありがとうございます。。
崎田さんもぜひ機会がありましたら、ネマニャをお聴きになってください。来年の秋の来日が決定しています。私は現代最高のヴァイオリニストの一人だと確信しています。ご自身の耳で確かめていただけたらと思います。

投稿: 樋口裕一 | 2014年11月18日 (火) 09時57分

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