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新国立劇場「パルジファル」は世界最高レベルだった!!

飯守泰次郎が新国立劇場芸術監督に就任しての第一作「パルジファル」をみた。バイロイトの上演に引けを取らないレベル。素晴らしいの一言。これまで、新国立劇場の上演を見て、私はたびたび「世界の一流歌劇場に引けを取らない」という表現をしてきたが、今回はそのレベルではない。世界の最高峰といって間違いない。これまでの新国立劇場の上演の歴史の中でも最高ランクの一つではないかと思う。

 まず歌手が素晴らしい。とりわけ、グルネマンツのジョン・トムリンソンとクンドリーのエヴェリン・ヘルリツィウスが圧倒的。トムリンソンはかつてのバイロイトの常連。私は彼の演じるヴォータンやハインリヒを何度か聴いた。絶頂期ほどではないのかもしれないが、声の威力はさすが。場内に響き渡る声で、しかも音程もよいし、表現力も素晴らしい。ヘルリツィウスはいわずとしれた大歌手で、最近もバイロイトに出演している。最高に美しい強靭な声。ぞくぞくする素晴らしさ。

そのほか、クリングゾルのロバート・ボーク、パルジファルのクリスティアン・フランツ(私はこの人の歌うジークフリートをバイロイトで聴いた)、アムフォルタスのエギルス・シリンスも世界の最高レベル。世界のワーグナー指揮者であるマエストロ飯守の実力のおかげでこのような大歌手たちを結集できたのだろう。

ティトゥレルの長谷川顯をはじめ、三宅理恵、鵜木絵里、九嶋香奈枝、國光ともこ、池田香織らの日本を代表する歌手たちも出演して、立派な歌唱を聴かせてくれるが、やはり世界の大歌手たちに比べると声の力が弱いのはいかんともしがたい。

歌手も素晴らしかったが、私がそれ以上に圧倒されたのは、マエストロ飯守。世界最高の堂々たるワーグナー。東京フィルハーモニー交響楽団も素晴らしい。ゆったりとしたテンポでうねりながら、まったくごまかしなしのワーグナーの音を聴かせてくれる。細部にいたるまで完璧にコントロールされており、いい加減な音が一つもない。一つ一つの音が確固として安定しており、深みがあり、甘美でもあり宗教的でもある。「パルジファル」の理想の音だと思った。それほどのワーグナーを日本人が演奏していることに改めて驚く。「パルジファル」をこれほどまでに演奏できる人は、日本にはほかにいないだろうし、世界にもほとんどいないのではなかろうか。

演出はハリー・クプファー。その昔、「パルジファル」を宇宙船の中に設定にしたのはクプファーの演出だったと思う(いくら何でも、宇宙船の中で白鳥が弓で撃たれるのはおかしい!と思ったのを覚えている)が、かつて最前衛だったクプファーもかなりおとなしくなったといえるのかもしれない。地理的時間的な流れを象徴するようなジグザグのブリッジ風のものを多用して、色彩豊かにおもしろく見せてくれる。

特に大きな読み替えはないが、第一幕と第三幕に袈裟を着た三人の僧侶が出てくる。ワーグナーが仏教の影響を受けていたことはよく知られている。そして、確かにクンドリーに体現される輪廻転生や「パルジファル」の中に色濃く表れる「苦しみを共にする」「慈悲」という思想はきわめて仏教的。そして、敵と味方を峻別するのでなく、ともに苦しむ存在として一元化しようとするのも仏教的な考え方だといえるだろう。最後、パルジファルは仏教に帰依したようで、クンドリーにもグルネマンツにも袈裟を着せる。モンサルヴァットの住人たちは僧侶のほうへ歩み寄っていく。

ワーグナーが仏教に救いを求めたことを示すと同時に、現在のキリスト教社会の閉塞状況から逃れて、仏教的な慈悲の心を求めようというクプファーの意思の表れでもあるのだろう。

ブロムシュテット+N響、メッツマッハー+新日フィル、戸田弥生の無伴奏バッハ、風の丘ホールの「道化師」、そして今日の「パルジファル」。このところ素晴らしい演奏が続いている。実に幸せ。

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コメント

私は最終日に行きました。それまでが長かったこと! できるだけまっさらな状態で観たかったので、御ブログを読むのもじっと我慢でした。おっしゃるとおり素晴らしかったですね。余計なものを削ぎ落とした、研ぎ澄まされたドラマだったと思います。

投稿: Eno | 2014年10月17日 (金) 11時14分

Eno様
コメント、ありがとうございます。
そうですね、私の感じたことも、言葉を変えれば「余計なものがない」ということだったかもしれません。よけいな作為を入れず、ゆっくりとしっかりとワーグナーの音を出してくれたために、それこそ深くあらゆるものを抱合した音楽が聞こえてきたように思います。これこそが巨匠の味わいだったと思います。これからの新国立が本当に楽しみになりました。

投稿: 樋口裕一 | 2014年10月18日 (土) 09時20分

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