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松尾俊介の素晴らしいアランフェス協奏曲、中島良史の指揮による「カルミナ・ブラーナ」

 2014年11月16日、東京芸術劇場で東日本大震災被災地支援コンサート「カルミナ・ブラーナ」を聴いた。演奏は中島良史の指揮によるカルミナ祝祭管弦楽団・カルミナ祝祭合唱団。このオーケストラは、指揮者・中島の個人的なつながりによって各地のプロの演奏家が結集した臨時編成ということらしい。

 このコンサートには私が大のひいきにしている演奏家が二人出演している。一人は、ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」のギター・ソロを受け持つ松尾俊介さん。これまで二度、多摩大学樋口ゼミの無謀な要望を受け入れて私たちの企画するコンサートに出演してくださり、二度とも深い感銘を観客に皆さんに与えてくれた。

 もう一人は、「カルミナ・ブラーナ」のテノールを歌う高橋淳さん。私はこの人の歌うオペラをかなり聴いてきた。「ナクソス島のアリアドネ」のテセウスや「リング」のミーメなど日本で間違いなく最高の歌を聴かせてくれた。脇役を歌っても強い存在感を示す日本では珍しいタイプの歌手だ。

 まず、アランフェス協奏曲。松尾さんのギターが最高に美しい。一つ一つの音が実にきれいで繊細。細かいところまで神経が行き届いて、一つの音も無駄がない。第二楽章の美しさは言葉をなくすほど。松尾さんは、ふだん話をすると、ちょっとおっちょこちょいの関西の青年という感じの人なのだが、ひとたびギターを奏でると、一つの音も妥協しないで最高に美しい音を紡ぎだす。実に高貴。ただ、ホールが広すぎるため、繊細な音の響きをすべて聞き取ることができないのが残念。

 休憩後、「カルミナ・ブラーナ」。私の大好きな曲の一つだ。歌手たちが素晴らしい。バリトンの春日保人は柔らかくて美しい声。音程もいいし、音量も十分。私はこの人の名前をこれまで知らなかったが、すごい歌手がいるものだと思った。ソプラノのオクサーナ・ステパニュックもほれぼれするような美しい声。そして、高橋淳。これはもう独壇場というほかない。ほかのだれもまねできない世界。単に酔っ払っているというだけでなく、真っ黒に焼かれてしまう白鳥の悲哀を表現。しかも、単に悲哀というのではなく、激しい自己主張と自己卑下を織り交ぜる。ほかの人がすると浮いてしまって様にならないことも、この人は平気でやるところがすごい。合唱団も健闘。オーケストラもとても美しい。

 今回の「カルミナ・ブラーナ」は少年合唱団を加えて200名以上の大合唱団と大オーケストラによる大曲として演奏された。指揮も、運命に真正面から対決する曲としてとらえているようだ。それはそれで説得力のある解釈だと思うし、決まるところはびしりと決まって、実に壮大な演奏。だが、私は実は違和感を抱いた。

私はこの曲を、もっとこじんまりとし、もっと敏捷で、もっとユーモアがあり、もっと皮肉がきいて、もっと機動力のある曲だと思っている。中世の人の日常的な悲しみや喜びを等身大で伝える音楽だと思うのだ。大上段に運命について語るのではなく、酔っ払って羽目を外し、泣き上戸になり、春を喜び、運命を感じる。そんな曲だと思う。それを大掛かりで壮大な音楽にすると、どうしても敏捷性に欠け、各部のニュアンスが薄まる。もっと肩の力を抜いて演奏してこそ、私はこの曲本来の魅力が生まれると思うのだ。今回の演奏を聴きながら、そのような思いを禁じ得なかった。

 とはいえ、久しぶりに「カルミナ・ブラーナ」を聴けて実に良かった。この曲の素晴らしさを改めて感じた。

 なお、11月29日に私たち多摩大学樋口ゼミは、松尾俊介さんの出演するコンサートを企画している。今日は広いホールでしか聴けなかったが、11月29日には、狭い部屋ですぐ近くで松尾さんの素晴らしいギターが聴ける。

 多摩大学のコンサートの内容は以下の通りだ。関心のおありの方にはぜひおいでいただきたい。

 

 

多摩大学創立25周年記念ミニ・コンサート

出演 松尾俊介(ギター) 岸七美子(ソプラノ)

会場 多摩大学多摩キャンパス (25周年記念会館T-Studio(聖蹟桜ヶ丘、小田急・京王 永山よりバス)

日時 1129日(土) 

開場 1330分 開演14時 (約1時間)  

入場無料

 

曲目 (出演者の都合により変更されることがあります)

・ヴェルディ 歌劇「椿姫」より 「乾杯の歌」

・ダウランド come again

・平井康三郎 「びいでびいで」「親船小舟」「追分」

・アントニオ・カルロス・ジョビン 「ア・フェリシダージ」(ギターソロ)

・ヨハン・シュトラウス2世:オペレッタ「こうもり」より「侯爵様、あなたようなお方は」

・フェルナンド・ソル:「魔笛」の主題による変奏曲(ギターソロ)

・ヴェルディ 歌劇「海賊」より「あの人はまだ帰ってこない」

・ドニゼッティ 歌曲「ジプシーの女」

・武満徹 「小さな空」

 

 なお、席に限りがありますので、おいでくださる方は、以下の担当者に予約をいただけると助かります(もちろん、予約なしのご参加も歓迎です)。

 21211083rk@tama.ac.jp

 

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