多摩管弦楽団、そしてMETライブビューイングの「マクベス」
11月3日、パルテノン多摩、大ホールで多摩市に拠点を置くアマチュア・オーケストラ、多摩管弦楽団の第39回定期演奏会を聴いた。
曲目は、前半にヨハン・シュトラウスII 世の「ジプシー男爵」序曲、ワルツ「南国のバラ」、ポルカ「雷鳴と稲妻」、皇帝円舞曲、後半にブラームスの交響曲第2番 。指揮は高橋俊之。
なかなかの力演。もちろんアマチュアだから限界はある。音程が良くないし、金管楽器はしばしば音を外すので、どうしても音が濁る。が、弦はとても綺麗だし、木管楽器も数人とてもみごとな腕前の人がいる。指揮の高橋さんはメンバーの力量を知って、無理のない範囲で音楽を作る。制約の中で、じっくりと丁寧にスケールの大きな音楽を作る。縦の線はしっかりそろい、盛り上がるところは盛り上がる。しばしば感動的なところがあった。日本のアマチュア・オーケストラの実力を改めて実感。
都内で片付けたい用があったので、ブラームスが終わったところでホールを出た。
所要を済ませた後、東銀座に移動して、東劇でMETライブビューイング、「マクベス」を見た。今シーズン最初の演目だ。
メトロポリタン・オペラの実力はすさまじい。今回もまさしく世界最高の舞台。
歌手たちは現在これ以上は考えられないほどの豪華なメンバー。とりわけ、マクベス夫人を歌うアンナ・ネトレプコが言葉をなくすような凄さ。私の大好きな歌手だが、かつてのリリックな声ではなく、ドラマティックな声。悪女になりきり、激しい気性で歌いまくる。そして、その声が強靭で美しく、狂気がこもっている。すべてのアリア、すべての重唱が圧倒的。舞台の奥に向かって歌う場面が何度かあったが、かつてNHKホールでネトレプコの歌うヴィオレッタを聴いた経験からして、おそらくそれでも完璧に客席にまで声が届いているのだろう。
マクベスを歌うのはジェリコ・ルチッチ。歌については、歴代のマクベス歌いを凌駕するほどではないと思うが、その演技力と風貌はまさしくマクベス。素晴らしい。バンクォーを歌うルネ・パーペもネトレプコ並みにドラマティックで声の威力が圧倒的。マクダフを歌ジョセフカレーヤも実に美声。声の競演に酔った。
しかし、私がそれ以上に驚嘆したのが指揮のファビオ・ルイージだった。ヴェルディ初期の、親しみやすいアリアの少ないこのオペラを、まるで表現主義オペラのように緊迫感にあふれ、凝縮した、いわば狂気のオペラにしていた。冒頭の音からして、これまで演奏されてきたどの指揮者とも違って、悪魔性のこもった鋭利な音だった。常に押しっぱなしなので、はじめのうちは一本調子に感じたが、これで全体を通すと、それはそれで異様な世界が現出する。確かに「マクベス」は狂気のオペラだということを再認識。
エイドリアン・ノーブルの演出は20世紀に舞台を移して、現代に通じる権力者のあり方を描こうとしているが、まったく違和感はないし、大いに楽しむことができる。
ともあれ大満足。
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