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クロエ・ハンスリップ 無伴奏ヴァイオリン・リサイタルの超絶技巧

 117日、武蔵野市民文化会館で、クロエ・ハンスリップ無伴奏ヴァイオリン・リサイタルを聴いた。とてもよかった。

 ハンスリップは25歳の、どちらかというと小柄な女性。ナクソス・レーベルからすでに多くのCDをリリースしているとのこと。私は名前も知らなかった。

ものすごい技巧でバリバリと弾く。曲目は、前半にバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第一番と、タヴナーという20世紀のイギリスの作曲家「ヴァイオリンとテープのための『私はいつでもあなたを見つめている』」。元気なバッハだった。素晴らしいとはいえるが、ちょっと元気すぎる。タヴナーの曲は、録音したヴァイオリンとの二重奏曲といったところ。ただ、現代曲を特に好んで聞くわけではない私としては、なんだかわからない曲だった。

後半は、プロコフィエフとバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ。これもバリバリと弾きこなす。とりわけ、バルトークの曲では超絶技巧が強調されて演奏された。現代曲を得意とする人らしく、実に小気味いい。曲の中に思想をこめようとするよりも、バリバリと弾いて、音響世界を構築しようとするタイプだと思う。そこに爽快感があり、音の構築そのものの楽しさがある。

が、私としては、少し物足りない気がしないでもない。バルトークの無伴奏ソナタは、かつて戸田弥生さんの演奏で聴いた。戸田さんは、ハンスリップのようにバリバリと弾きこなすわけではない。だが、そこにバルトークの思いがこもる。あまりに重くて、聴いていて辛くなるような思いだが、そこに凄みがある。が、ハンスリップの音楽にはそのような魂の奥底を揺り動かすような凄みがない。もちろん、好みの問題ではあるが。

アンコールは、ツイッターによれば、プラキディス「ツー・グラスホッパーズ・ダンス」とパガニーニのカプリース第24番。カプリースは、この難曲をいともたやすく弾きこなし、音そのものの世界と作り上げる。それはそれで素晴らしい。

 ともあれ、満足。様々なタイプの音楽を聴くことができて、こんな幸せなことはない。

 

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音楽」カテゴリの記事

コメント

武蔵野は最近カルテットのラインナップが多かったので、久々のソリスト登場に期待していましたが、私も少々物足りない気持ちでした。
「アスリート」のようにバリバリと弾く方で、若くて勢いに満ちた方でしたが、情念といったものは皆無でした。
それでも拍手喝采だったのは、皆さん技巧Plus若さ、そのような意味合いかと思いました。
震えるほどの感動…そのようなソリストに武蔵野も

投稿: swawn | 2014年11月 9日 (日) 06時09分

武蔵野は最近カルテットのラインナップが多かったので、久々のソリスト登場に期待していましたが、私も少々物足りない気持ちがありました。

ヴァイオリンではギル・シャハムクラスのソリストが最近登場してませんね。

「アスリート」のようにバリバリと弾く方で、若くて勢いに満ちた方でしたが、情念といったものは感じられず、若さの持つ勢いを楽しんだひと時という感じでしょうか。

会場は結構拍手喝采で、武蔵野の常連客の皆さんは暖かい目線で聴いておられるんだな、と。

改装前に震えるほどの感動を覚える…そのようなソリストに出会えるといいなあと、個人的には願ってしまいますね。

武蔵野の公演では、先生の感想と自分の感想が近くて、ほっとする事が多いんです。
先生、いつも有難うございます。


投稿: swawn | 2014年11月 9日 (日) 06時34分

樋口 様、swawn 様
ヴァイオリンの超絶技巧家 ハンスリップについてのコメント、拝見いたしました。まず、
>>様々なタイプの音楽を聴くことができて幸せ。
ーーこれは実感そのものですね。もし演奏が単調一色のものだとしたら、如何に超絶技巧であろと聞く気にはなれないででしょう。まずクライスラーがいて、その対極にハイフェッツ、その間にも存在感を主張するのが、テイボー、オイストラフ、そして最近の若手たちです。
 実は私はヴァイオリン(とチェロ)をいじります。「超絶技巧」はどこから来るのか、不思議な感じがします。勿論、厳しい修行あってのものでしょうが、(ヴァイオリンを抱えて生まれてくるような)天賦の才能というものは確かにあるような気がします。名手アッカルドは、天才というものは前世から約束されたものだ、と高言して、我々素人を残念がらせます。日本でも、父親だけの教育で、12歳くらいで難曲をいとも簡単にステージで披露し、当時のハイフェッツやオイストラフを感嘆させた天才少年がいました(CDが残されています)。
 天才の頭のなかはどうなっているのでしょうか。興味ありますが、解明されたところで、素人に参考になる筈もありません。
 ところで、少し気になるのですが、名手たちは、難曲を演奏している最中に、その曲の「思想」を表現しようとしているものなのでしょうか。あるいは、評論する方が「予期」しているようなナニモノかがあるのでしょうか。「思想」とはなんでしょう。私にはよく分りません。
 下手なりに演奏している時は、音符を追うのが精一杯、仮に余裕をもって演奏出来たとしても、頭にあるのは、良く歌わせたいという気持が先立ち、それが作曲家の意図と大きくはずれないことを祈るのみです。そうです、強いて言えば作曲家の作曲意図みたいなものでしょうか。その意味では、演奏家は作曲家の投影であり影法師です。そこから一歩出たい、と心ある演奏家なら願うものなのでしょうが、それがどういうものなのか、演奏家でも分らないこともあるでしょう。だからこそ、いろいろな演奏家が出現する意味もあるのでしょう。
 バルトークとなると「思想」表現よりも「音響世界」を再現する方向へ向かうというのも本当かもしれません。それは超絶技巧家にしか許されていない世界です。さらに「音の構築そのものの楽しさ」も味わえるようになれば、これはもう一流の演奏家です。
 そこに、更に魂の叫びまでも見出すのは、評論される方々なのでしょうか。(但し、ここで「好み」という言葉が出てくると、それ以上の論議は明日にでも、という雰囲気になってきて、これは一寸困ったことになります)。
 ヘボ演奏者は、下手なりにいろいろと考えているものなのです。しかし、それが実って成案に至ることはありません。下手の限界、あるいは文責無し論議の楽しみと言えましょうか。
 バッハに「シャコンヌ」という無伴奏の名曲があります。難曲です。私は冒頭の和音をかろうじて試み、そして最後の締めくくりの長い和音を、これがバッハの魂の叫びだと(可愛いくも信じながら)弾いて満足しています。
 取留めのないコメントで申し訳ありません。

投稿: 権兵衛 | 2014年11月10日 (月) 15時08分

swawn 様
コメント、ありがとうございます。そして、私の感想に共感してくださることが多いことをお知らせくださいまして、ありがとうございます。
私は。もちろんプロの演奏家でもなく評論家でもなく、単なる素人の聴き手として、できるだけ素直に思った通りのことをこのブログに書くように心がけています。
しばしば自分の感想がほかの方とかなり違うことに驚くこともありますし、不満を正直に書いて不評を買うこともあります。ですから、私もまた、同じような感想を抱いてくださる方がおられると、とても心強く思います。ありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2014年11月11日 (火) 16時54分

権兵衛様
コメント、ありがとうございます。
ただ、どのようにご返事してよいのかわからずにおります。難しい問題を含んでおりますので、書こうとしますとかなり長文になってしまいますし、私自身まだ十分に考えていない問題も含んでいます。近いうちにブログ本文で、少し考えをまとめてから書こうかと考えています。大変申し訳ありませんが、この場でのご返事につきましては、ご容赦ください。

投稿: 樋口裕一 | 2014年11月18日 (火) 10時08分

樋口先生
 コメント 有難うございました。
 私の書き込みが「難しい問題を含んで」いるような印象を齎したかもしれませんが、それは一つには、楽器演奏につての記述に偏しているため、ではないかという気がしております。私が、例えば、歌舞伎や能の演者からコメントを貰えば、多分理解は困難でしょう。
 しかし、音楽批評に関しては、ピアノに通じた評論家は少なくないようですが、弦については「皆無」といたたような感を受けます。
 先生は弦楽器をたしなまれるそうなので、ネマニヤや無伴奏弦楽演奏にも多くの関心を払われておられますが、一般の評論家にそえを期待することは難しく、かねて残念に思っているところです。
 ある時は、高名な評論家が、弓にマツヤニを塗るのは「滑りを良くするためだ」と失言されたのには驚きました。
 ほかにも驚かされる例があります。ある音楽専門誌の編集者ですが、なんと弦のことは耳学問だけで編集をしているのです。この方は、原稿を発注する際には何も注文を付けることが出来ず、従って貰って原稿は(誤りがあろうとも)フリーパスです。筆禍事件が起こったときはどうされるのでしょうか。責任は免れまいと思われるのですが。
 しかし、私には笑うことは出来ません。私も歌舞伎や能については一言もないからです。
 でもそれで済ませるにはあまりに残念なことですね。
 先生が仰った「難しい問題」とは、(一部分は)案外そのような問題かもしれないのです。
 機会がありましたら、またブログでお考えをお洩らし下さい。権兵衛

投稿: 権兵衛 | 2014年11月18日 (火) 15時28分

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