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ロッシーニのオペラ映像「バビロニアのチロ」「マオメット2世」「エジプトのモーゼ」「結婚手形」「ギヨーム・テル」「マティルデ・ディ・シャプラン」「ブルスキーノ氏」

今回の年末年始は久しぶりに急ぎの原稿がない。ここ10年くらい、毎年、原稿を抱えていた。1月末までに3冊仕上げなければならない年もあった。それに比べれば、かなり楽。まあ、逆に言えば、あまり本が売れなくなったということではある。私の本が売れなくなっただけならまあいいが(それでも個人的には少々痛手だが!)、社会全体の傾向だとすると、深刻な問題だ。

そんなわけで、ロッシーニのオペラ映像をいくつか見た。今風の言い方をすると、このところロッシーニにはまっている。見れば見るほど、聴けば聴くほど、ロッシーニのオペラが好きになる。そんなこんなで、先日、日本ロッシーニ協会に入会した。最初にロッシーニが大好きになってから53年ほどたっているが、オペラは「セヴィリアの理髪師」だけしか聴いていなかった時期が長いので、ロッシーニ初心者に近い。が、遅ればせながらこれほどのすごい作曲家だと気付いたからには、とことん付き合おうと思った。

そんなわけで最近見たロッシーニの数本の映像について感想を書きつける。

 

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「バビロニアのチロ」 ペーザロ、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル
2012

 ロッシーニ20歳のころの作品だという。チロというのはペルシャの王キュロス2世のことで、チロがバビロニアの王ダルダッサーレ(世界史に出てくるベルシャザル)戦いに敗れながら、最後には奪還するまでの物語。それに、妻との愛の物語が重なる。

台本は、わかりやすいとはいえるが、あまりにご都合主義的で、メリハリがない。音楽に関しては、ロッシーニの魅力満載。オペラ・セリアの部類に属すると思うが、音楽的にはロッシーニらしく、生き生きとして楽天的ですでに技巧的。とても楽しい。

 チロを歌うのはコントラルトのエヴァ・ポドレシ。強い声でヒロイックに歌う。技巧も申し分ない。が、映像で見ると、どうしてもかなりお年を召した女性にしか見えないのがつらい。チロの妻、アミーラを歌うのはジェシカ・プラット。ちょっと音程が怪しいところを感じたが、美しい声でしっかりと歌う。バルダッサーレを歌うマイケル・スパイレスは大喝采を受けていたが、映像で見る限りでは少し不安定な気がした。が、すべての歌手たちはまったく文句なし。

 指揮はウィル・クラッチフィールド。もちろんまったく知らない曲なので、指揮の良しあしなどは何も言えないが、生き生きとしていて、私にまったく不満はない。

 演出はダヴィデ・リヴァーモア。おそらく台本通りに上演するとあまりに陳腐になると判断したのだろう。この物語を無声時代の歴史映画のスタイルにして、それを見ている観客を舞台上に上げる形にしている。確かに、この物語は、往年の映画の雰囲気がある。登場人物はみんな往年の映画の登場人物のようなメイクと動き。そして、どのような技術なのかはわからないが、フィルムの傷による線までも再現。こうしてみると、台本の欠陥も目立たず、おもしろく見ることができる。これはこれで、うまい工夫だと思う。

 繰り返すが、ロッシーニは本当におもしろい!!

 

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「マオメット
2世」 フェニーチェ劇場 2005

 ロッシーニが何度も改訂をしたことで知られるオペラ。一般的にはアンナが自害して終わる悲劇ヴァージョンのはずだが、これはハッピーエンド・ヴァージョン。

 一言で言って、私はこの演奏はあまりおもしろいと思わなかった。初めて見るオペラなので、オペラそのもののおもしろさについては何ともいえない。

 歌手に関しては、マオメット2世を歌うロレンツォ・レガッツォはとてもいい。深い声で自在に歌う。ただ、ちょっと歌いっぷりが喜劇的で、悪役のマオメットがお茶目に見えてしまう。カルボを歌うのは、ズボン役のアンア・リタ・ジェンマベッラ。この人も悪くない。強い声で堂々と歌う。だが、それ以外の歌手にはやや歌唱的には弱さを感じた。アンナを歌うカルメン・ジャンナッタージョは、きれいな声なのだが、ときどき音程が怪しくなる。エリッソを歌うのは、マキシム・ミロノフ。かなり売りだしている人らしいが、少なくとも、このオペラに関してはあまりに不安定。声が出ていないし、音程も狂いっぱなし。ほとんど聴くに堪えない。私は何度も耳をふさぎたくなった。

 演出はピエール・ルイージ・ピッツィ。特に大胆な試みがあるわけではないが、色彩的にはとても美しい。話もわかりやすく描いている。指揮はクラウディオ・シモーネ。もちろん悪かろうはずはないのだが、イタリアオペラで歌手が不安定では、どうしようもない。私は音楽に乗れなかった。別のメンバーによるこのオペラの上演を見てみたい。

 

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「エジプトのモーゼ」
2011年 ペーザロ、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル

 モーゼの「出エジプト記」を題材にとったオペラ。音楽としてもとてもおもしろい。ロベルト・アバド(いわずと知れたクラウディオの甥)の指揮のせいかもしれないが、実にドラマティック。ロッシーニ作曲なので、もちろんそれほど宗教的ではなく、ドラマとして楽しめる。

 歌手はそろっている。モーゼのリッカルド・ザネッラート、ファラオーネ(要するにエジプトのファラオのことのようだ)のアレックス・エスポージト、エルチアのソニア・ガナッシが素晴らしい。アロンネを歌う中国人テノール、シー・イージェ(石倚)も実に美しい声。オジリデのディミトリー・コルチャックも、まだ少々若さを感じるが、見事な技巧。アマルテアを歌うオリガ・センデルスカヤは歌はあまり印象に残らなかったが、あまりに美しい容姿。ともかく歌手にはまったく不満はない。

 驚くのは、グレアム・ヴィックの演出だ。大変刺激的。エジプトが舞台だということで、登場人物のほとんどがアラブ風の、つまりはイスラム教徒風の格好をしている。そして、ユダヤ・キリスト教の元祖のようなモーゼがビンラディンを彷彿とさせる服装。しかも、エジプトにとらわれたユダヤ人たちは、いわばテロ集団として描かれる。ユダヤ人とエジプトの人々との戦いを現代の文明の衝突と重ね合わせている。最後、イスラエルの国旗を掲げた戦車や軍人たち(要するに、現代のユダヤ人たち)が現れ、逃げ遅れたモーゼ派の少年を助けようと近づくが、少年は自爆テロを行おうとするところで暗転してオペラが終わる。

 

 

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「結婚手形」 ペーザロ、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル

 ず抜けた歌手はいないし、音楽的に全員が素晴らしいわけではない。だが、全員が実に良い味を出しており、それぞれに魅力的。みんなが芸達者で、容姿を含めて、まるで登場人物そのもの。等身大の登場人物になり切っている。ロッシーニのブッファはこれでまったく不満なく見ることができる。

 トビア・ミルを歌うパオロ・ボルドーニャ、ファニーのデジレ・ランカトーレ、エドアルト・ミルフォートのサイミール・ピルグが魅力的。

指揮はウンベルト・ベネデッティ・ミケランジェリ。曲をよく知らないので何とも言えないが、実を言うと、それほど好きな演奏ではないが、十分に楽しめるので、これもまったく文句なし。演出はルイージ・スカルツィーナ。今時珍しく、昔風の服装だが、色遣いが洒落ていて、とても楽しめる。

 

 そのほか、クラシカジャパンで放送されたロッシーニのオペラも録画していたものを数本見た。

・「ギヨーム・テル」2013年 ロッシーニフェスティバル

 ずっと日本では「ウィリアム・テル」と呼ばれてきたオペラ。イタリア語版で上演されることが多いが、この映像はオリジナルのフランス語版。ギヨーム・テルのニコラ・アライモやテルの息子役のアマンダ・フォーサイス、妻のヴェロニカ・シメオーニ、悪役のルカ・ティットートもとてもいいが、やはりアルノルドのフアン・ディエゴ・フローレスとマティルデ役のマリーナ・レベカが圧倒的。私はフローレスの音程が不確かだと思うし、その甲高い声も好きではないのだが、これだけ輝かしく歌われると、感服するしかない。グレアム・ヴィックの演出は時代を近代に移してのもので、圧政に対して立ち向かう民衆の姿を描いて、まるで一時期のソ連映画のような雰囲気だが、違和感はない。ミケーレ・マリオッティの指揮は素晴らしい。躍動感がある。

 

・「マティルデ・ドィ・シャプラン」

 マティルデを歌うオルガ・ペレチャツコとコッラディーノを歌うフアン・ディエゴ・フローレスとが圧倒的。そのほか、ズボン役のエドアルドを歌うアンナ・ゴリャチョヴァ、ジナルドのシモン・オルフィラなど適役。「セヴィリアの理髪師」のフィガロと「魔笛」のパパゲーノを合わせたような役であるイジドーロを歌うパオロ・ボルドーニャの歌が不安定なのが残念なだけで、ほかは理想的といっていいだろう。マリオ・マルトーネの演出は、初めてこのオペラを見る人間にもわかりやすく魅力的。指揮はパスクヮーレ・マーリ。初めて聴くのでよくわからないが、躍動感、スケール感、ともに素晴らしいと思う。オペラ自体、とても素晴らしいと思う。あまり有名でないのが不思議だ。

 

・「ブルスキーノ氏」 、2012年ロッシーニ・オペラ・フェスティバル

芸達者な歌手たちによるロッシーニの一幕もの喜劇オペラ。実に楽しく、おもしろい。

ガウデンツィオを歌うカルロ・レポーレとブルスキーノ氏を歌うロベルト・デ・カンディアのふたりのベテランがやはりうまい。ソフィア役のマリア・アレイダの超高音もちょっとびっくり。フロルヴィッレ役のダヴィド・アレグレトもいい。テアトロ・ソッテラーネオという集団による演出も洒落ている。現代のロッシーニランドで観光客を前に歌うという趣向。現代とロッシーニの時代をうまく結びつけている。指揮は若手のダニエーレ・ルスティオーニ。勢いがあって実にいい。

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