松尾俊介のディアンスに深く感動
2014年12月20日、現代ギター社GGサロンコンサート「ディアンス・ナイト」に行った。松尾俊介によるオール・ディアンス・プログラム。ディアンスというのは1955年生まれのギタリストであり作曲家。
私はバッハからリヒャルト・シュトラウスにいたる「正統派」のドイツ系の音楽ばかりを聴いてきた人間なので、ギター曲をほとんど聴いたことがない。荘村清志さんと村治香織さんの演奏に接して、ギター曲の魅力に目を開かれたことはあるが、それ以上ではない。だから、専門的なことはまったくわからない。が、今回も松尾さんの演奏には圧倒されるばかりだった。
最初の曲は、「ヴァルス・アン・スカイ」。実は松尾さんの座る椅子がギシギシ音を立てるので気になって仕方がなかった。しかも、ギターのぶつ切れの音に慣れない私はこの時点ではまだ少々違和感を抱いていた。
2曲目は「三つのサウダージ」。椅子を変えて雑音が出なくなり、私自身もギターの音に慣れて、音楽に没入できるようになった。ギターの曲を聴き慣れない人間なので、どう表現するのかわからないのだが、松尾さんの神経の行きとどいた一つ一つの音の美しさに聴きほれる。「サウダージ第3番」には心をうばれた。技巧的で情熱的でダイナミック。ギターという楽器は心の奥底にある思いを表現するのに適しているのだとつくづく思う。それにしても、松尾さんの技巧の凄さに改めて驚いた。
「リブラ・ソナチネ」も素晴らしかった。とりわけ3曲目の「フォーコ」には心が躍った。松尾さんの演奏によるのだろうが、この上なく情熱的なのだが、きわめて内省的で繊細で、しかも知的。本当に素晴らしい。
休憩後は、モノー作曲ディアンス編曲「愛の賛歌」、アンヘル・ビジョルド作曲、ディアンス編曲の「エル・チョクロ」、アリエル・ラミレス作曲、ディアンス編曲「アルフォンシーナと海」、そして、多摩大学で演奏してもらったアントニオ・カルロス・ジョビン作曲、ディアンス編曲「フェリシダージ」(映画「黒いオルフェ」のテーマ曲)。いずれもポピュラーな曲なのだが、美しく、しかもしみじみと人生を感じる。
最後の曲が「トリアエラ」。これもまた最後の「サーカスのジスモンチ」に圧倒された。なんだかよくわからないが、あまりの凄さに涙が出そうになった。演奏も素晴らしい、曲も素晴らしい。ギターという楽器の魅力もよくわかった。
アンコールは「赤い鼻 Nez rouge」という短くてチャーミングな曲。そして最後は「タンゴ・アン・スカイ」。うーん、ディアンスというのはすごい作曲家だ・・・!と思った。
調弦の都合もあるらしいが、曲と曲の間に松尾さんのトークが入った。気さくでユーモアにあふれる。とても楽しいトーク。松尾さんの魅力が伝わる。とはいえ、実は私は松尾さんのトークに正直言うと違和感を覚える。私は、気さくでユーモアにあふれる松尾さんのトークと、繊細で内省的で、完璧な技巧でありながら抑制的で知的な松尾さんの音楽の距離を感じる。「黙って演奏だけしていたら、客はもっともっと松尾さんの音楽の美しさ、深さを感じられるのに・・・」と思ってしまう。が、気さくに話をするのがまた松尾さんの魅力でもあるのだ。
松尾さんにはこれまで多摩大が樋口ゼミ主催のコンサートに3度出演していただき、そのたびに圧倒的な名演を演奏してくれた。そして、今日もまた目を見張る演奏。私がギターの曲にこれほど感動するとは予想していなかった。改めて、これほどの名手が私たちのような大学の主催するコンサートに気軽に出演してくれたことに感謝した。
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