新国立劇場「さまよえるオランダ人」 第三幕で魂が震えた
2015年1月25日、新国立劇場で「さまよえるオランダ人」を見た。第三幕では魂が震えた。
とはいえ、実は第一幕はちょっと退屈だった。オランダ人(トーマス・ヨハネス・マイヤー)とダーラント(ラファウ・シヴェク)の場面。もう少し声の迫力がほしいと思った。マイヤーは堂にいった歌いっぷりだが、シヴェクの声がやや不安定。演出的にも、あまりにオーソドックスで、何事も起こらない。
第二幕になってドラマが増してきた。ゼンタを歌ったカルダ・メルベートが圧倒的。バラードの部分は少し抑え気味だったが、第三幕は美しく強靭な声で激情に響き渡った。もしかしたら、イゾルデもジークリンデも、いやことによるとブリュンヒルデだって歌えるのではなかろうか。期待したい。エリックのダニエル・キルヒはとても抒情的できれいな声。ただ、ちょっとオーケストラと合わない個所があるのを感じた。
日本人歌手で参加しているのは、マリーの竹本節子と舵手の望月哲也。いずれも、主役陣にまったく引けを取らない。
演出に関しては、かなりオーソドックス。おもしろかったのは、幽霊船の舵の円形と第二幕の糸車が相似形にされて強調されること。ぐるぐると回転する「永遠」を象徴しているのだろう。なるほど、このオペラの中心的なテーマは「永遠」だということを改めて考えさせられた。終演後、このことについて少し考えたが、今回は面倒なので書かない。
飯守泰次郎の指揮は、まさしくワーグナーの本道を行くもの。小細工をするのではなく、じっくりとうねり、じわりじわりと巨大な世界を作っていく。ただ、正直言って、まだこのオペラはワーグナーの世界を築くに至っていないので、もう少し小細工をしてもよいのではないかと思った。しかし、それをしないのが、マエストロもマエストロたるゆえんだろうと思う。東京交響楽団については荒さを感じた。とりわけ、金管楽器で音がゆがむことが何度かあった。三澤さんの指揮する合唱は素晴らしいの一言。オーケストラの弱さを十分に補っていた。
第一幕の後に休憩が入った。休憩なしだろうと覚悟していたのだが、張り紙を見て安堵。新国立劇場の椅子は尻が痛くなる。2時間半以上ぶっ続けでここに座るのはかなり辛い。とはいえ、来季の「ラインの黄金」(大変楽しみにしている!)はさすがに休憩入りというわけにはいかないので、我慢するしかない。
ワーグナーの実演に接するごとに思う。やはりワーグナーは別格だ。最後には必ず魂が震える。このごろ、オペラといえばロッシーニばかりを聴いていたが、やはり私は「ワグネリアン」なんだと改めて思った。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- バーエワ&ヤノフスキ&N響 苦手な曲に感動!(2022.05.14)
- Youtube出演のこと、そしてオペラ映像「パルジファル」「シベリア」(2022.05.10)
- ヤノフスキ&N響 「運命」 感動で身体が震えた(2022.05.08)
- オペラ映像「イェヌーファ」「炎の天使」「魔弾の射手」(2022.05.01)
- METライブビューイング「ナクソス島のアリアドネ」(2022.04.24)
コメント
樋口様、こんにちは
私は21日にこの公演を見ました。
この日は始めの部分でダーラントの方が声が出ていて、オランダ人に物足りなさを感じました。先生のブログを読んで歌手も人間だから日によってコンディションに差異があるのかなと思いました。
幕間に一杯やりながらたまたま同じテーブルで一緒になった方と、飯森さんもやっと適所に就かれたなどと話しました。
バイロイトのクプファー演出を映像で見ましたが、私はこちらの演出の方をクプファーよりプリファーです。映像でしか知らないのですが、どうもバイロイトの演出が好きになれません。
豊島
投稿: 豊島健次 | 2015年1月28日 (水) 11時29分
豊島健次 様
コメント、ありがとうございます。
そうでしたか。確かに、オランダ人も第一幕はすこし声が出ない様子でしたが、だんだん本調子になってきたように思いました。やはりその日の調子というのは大きいでしょうね。
クプファーはむしろ好きな演出家ですが、最近のバイロイトはクプファーの時代をはるかに超えて、もはや台本と異なるというより、音楽と異なる演出だと思います。バイロイトをまた訪れたいと思いながら、演出に腹が立つことを考えると、二の足を踏んでしまいます。その点、新国立劇場の演出はほとんどの場合、一線は超えずにいるので、安心できます。
投稿: | 2015年1月30日 (金) 17時07分
私も25日の公演を観劇しました。全体的には満足でしたが、先生がおっしゃるようにオケ、特に金管にほころびが有ったのが残念です。あと、序曲の途中で飯守監督がタクトを落としましたね(笑)!先生は公演後の来シーズン演目の説明会には参加されましたか?ラインの黄金も楽しみですが、個人的にはヤナーチェクの「イェヌーファ」が楽しみです。あと、東京春音楽祭のワルキューレも楽しみですね!来年のバイロイトのリングはヤノフスキが指揮すると云う噂もありますし、、、
投稿: がんばれ!公共放送NHK | 2015年2月10日 (火) 21時32分
がんばれ!公共放送NHK 様
コメント、ありがとうございます。
そうでしたか、マエストロが指揮棒を落としたのには気づきませんでした!
説明会は聞きませんでしたが、私も個人的に最も楽しみにしているのは「イェヌーファ」です。大好きなオペラです。ヤナーチェクのオペラをたくさん取り上げてほしいものです。
バイロイトにヤノフスキ登場という情報、うれしいことです。・・・ただ、私はどうもランス・ライアンという歌手が好きになれずにいます。ヤノフスキ指揮のリングのジークフリート役はずっとにライアンだったと思います。ライアン以外の歌手が起用されれば、そんなうれしいことはないのですが。
投稿: 樋口裕一 | 2015年2月12日 (木) 21時38分