パーヴォ・ヤルヴィ+N響 ショスタコーヴィチ5番に興奮
2015年2月14日、病院に行った母の状況次第では、コンサートに行けないはずだったが、ぎりぎりになって万事解決。都下にある病院からそのまま車でNHKホールに向かい、NHK交響楽団定期演奏会を聴いた。
パーヴォ・ヤルヴィ指揮。前半は庄司沙矢香のヴァイオリンが加わってシベリウスの協奏曲。後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。
庄司さんのヴァイオリンは、媚びるところのない美音できわめてスケールが大きい。この曲はしばしば白熱した演奏が行われるが、この日の庄司さんの演奏に関しては、表面的に華やかに盛り上げるのではなく、山場を後半に据えて、スケール大きく徐々に心を深い世界を築こうとしているように私には聞こえた。清潔で高貴で内に情熱を秘めた演奏。ヤルヴィの指揮するオーケストラはでしゃばることなく、それをしっかりと支えて筋肉質で腰が据わっている。
庄司さんのアンコールはシベリウスの「水滴」。ヴァイオリンのピチカートのみによる曲。おもしろかったが、私の席からは小さな音のニュアンスを味わうことができなかった(購入が遅れたため、かなり隅っこの音響のよくない席だった!)。
後半のショスタコーヴィチの第5番には、私はとても興奮した。
この曲には中学生のころから馴染んでいる。生真面目な革命賛歌の音楽だという認識でレコード(ケルテス指揮のものだった)を聴いていたが、1968年のソビエト国立管弦楽団の大分公演で、ドミートリーの息子であるマキシム・ショスタコーヴィチが指揮するこの曲を聴いて、真面目なイメージが吹き飛んだ。グロテスクでユーモラスでやりたい放題の演奏だった。高校生だった私は「いったい、もともとこの曲はどんな曲なんだ?」と疑問に思ったのを覚えている。その後、ショスタコーヴィチのしたたかなソビエト政府との関係が知られるようになって、ますますこの曲の意味するところが分からなくなっている。
ヤルヴィの演奏は、実に緊張感があふれ、筋肉質でメリハリのある音楽を作りだしている。グロテスクでユーモラスなところは、自分との分裂、自分の中の狂気のようなものの表現のように感じた。自我の分裂や抑圧に苦しんでいた作曲家個人が深刻な状況を経た後に自己解放を得る物語として、この曲を構成しているように聞こえた。自己卑下したり、投げやりになったり、狂気に駆られたりしながらも最後には自分を取り戻す一人の人間の曲折ある人生を描く音楽として実に説得力がある。
それにしても、第三楽章の緊張感は尋常ではなかった。NHK交響楽団もクリアで張りのある音をつくり出して、実に見事。音に切れがあり、リズムが生きており、音楽全体が生き物のように息をしている。
コンサートマスターの堀正文さんと第二ヴァイオリン主席の永峰高志さんが退団のようで、演奏後花束を受け取っていた。
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