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METライブビューイング「イオランタ」の演奏に圧倒された

東銀座の東劇でMETライブビューイング、チャイコフスキーの最後のオペラ「イオランタ」とバルトーク「青ひげ公の城」をみた。演奏はまさに最高!!

「イオランタ」を何より楽しみにしていた。私は今回の映像と同じ三人の主役による2013年でのザルツブルク音楽祭でのコンサート形式上演を聴いて興奮した。同じメンバーでの舞台を見たいと思っていたが、それがかなったわけだ。

イオランタを歌うアンナ・ネトレプコがやはり圧倒的。声に艶があり、声の演技力も抜群。容姿もすばらしい。ヴォデモンを歌うピョートル・ベチャワもこの役に実にぴったり。二人のソロもデュエットもぞくぞくするほど素晴らしい。そして、もうひとり、ロベルトを歌うアレクセイ・マルコフが主演二人にまったく引けを取らない。医師エブン=ハキヤ役のイルヒン・アズィゾフなど、そのほかの歌手たちもよかった。ワレリー・ゲルギエフの指揮もドラマティックに、そして色彩豊かに盛り上げていた。

ただマリウシュ・トレリンスキの演出は、メトロポリタン・オペラでは珍しい「読み替え」風。私としては少々残念な気持ちだった。

通常の上演では、イオランタは自分が盲目の不憫な娘だということを知らせまいとする父レネ王の配慮により、お付きの者たちの愛情に囲まれて暮らしている。そして、外から来た伯爵によって自分が盲目であるという真実を知らされ、光を見たいという意欲を持つようになって医師の手術を受けて目を開かれる。イオランタは光と愛に包まれ、花の色、愛する人の顔を知って幸せになる。

ところが、今回の演出は、イオランタのお付きの者たちはつっけんどんに仕事をこなすだけで、イオランタへの愛を示さない。壁に動物の骨格が飾られており、まさしく死の世界。イオランタが視力を得て光を浴びる場面でも、すべての色彩は排除され、白と黒の世界のまま。しかも、幕切れで音楽が終わった後、怒り顔のレネ王の姿が強調される。

演出のトレリンスキは、「イオランタ」と「青ひげ公の城」をともに「監禁」の物語であるととらえているようだ。イオランタは父親に監禁され、自分が盲目だという真実を知らされずに生きている。しかも、その状況に満足し、少しも疑っていない。何かの不足を感じて涙を流しているが、自分から真実を知ろうとはしない。だから、お付きの者たちからも軽んじられている。愛する男性が現れてやっと監禁から逃れられるが、それも受動的な選択でしかない。それは、「青ひげ公の城」のユディットとは対照的だ。ユディットは青ひげ公の怪しさに気付くと、青ひげ公が止めようとするのに自ら真実を知ろうとして、次々と部屋を開いていく。そして最後、自ら青ひげ公の四人目の妻になることを選択し、監禁される。だが、イオランタのように受動的な選択ではない。イオランタは結局最後まで、父親による監禁から脱し切れていない。

トレリンスキは二つの短いオペラを同時に上演することによって現代社会に閉塞状況、監禁的な状況を提示したのかもしれない。「イオランタ」をハッピーエンドで終わらせてしまうことに警告を与えているのだろう。それはそれでおもしろい試みだと思う。が、そうされると、「青ひげ公の城」のほうはともかく「イオランタ」では、音楽と矛盾してくる。

「イオランタ」の最後、明らかに音楽はハッピーであり色彩感にあふれている。光、生命、愛情への賛歌としての音楽になる。それなのに目の前の情景が白黒の死の世界では、どんなに素晴らしい演奏でも感動できなくなってしまう。音楽と舞台の不一致に、観客は居心地の悪い思いになってしまう。

「青ひげ公の城」は久しぶりに聴いた。LP時代にケルテス指揮の演奏をよく聴いており、ショルティ指揮のLDを見ていたが、その後、20年ほど、一度も音楽を耳にしなかったような気がする。久しぶりに聴くとなかなかよいオペラだと思った。青ひげのミハイル・ペトレンコ、ユディットのナディア・ミカエルがやはりすさまじい。歌唱も演技も、そしてそれぞれの肉体が持つ存在感もほかの歌手では絶対に表せない味わい。スリリングで夢幻的な舞台になっている。こちらのほうは音楽と演出理念がぴったり合致して素晴らしかった。

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