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映画「クスクス粒の秘密」「アデル、ブルーは熱い色」そして、フレンチの店シェ・シミズのこと

 春休み中だが、先週はほとんど毎日、会議や入試関係の仕事のために大学に出ていた。大学の行きか帰りに両親の入っている施設に寄るのが日課になっている(母の健康状態はかなりよくなった。少しだけなら独力で歩けるほどに回復!)ためもあって、家に帰ると疲れ切っていて、ほかの仕事はできない。録画しておいたテレビドラマを見たり、DVDを見たりするだけ。

 チュニジア出身のアブデラティフ・ケシシュ監督の映画「クスクス粒の秘密」と「アデル、ブルーは熱い色」をみた。両方ともなかなかの傑作だと思った。

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「クスクス粒の秘密」は映像も美しいし、登場人物の一人一人が実にリアルで、作り物とは思えない。物静かな主人公、魅力的な愛人の娘、ヒステリックにがなりたてる息子の嫁など、まるで現実そのものを見ているかのよう。寡黙で表情を変えない主人公の心の動きが周囲の人々の状況によって手に取るようにわかる。

 南仏の港町セット(ポール・ヴァレリーの生まれた町!)で暮らすチュニジア移民の60代の港湾労働者スルマーヌ。妻や子どもたちと別れて愛人と暮らしている。リストラされたのを機会に廃船を買ってクスクス料理のレストランにしようとし、前妻や子どもたちの協力を得てオープン前に盛大なパーティを開いて、客にクスクスを振舞おうとする。ところが、息子の一人のミスのためにクスクスの粒の入った鍋が行方不明になる。愛人の娘であるリムは義父のために時間稼ぎをしようと、意を決してレストランの客を前にエロティックなダンスを披露する。

 初めのうち、あまりに丁寧な描写のために少し退屈に思った。普通の映画だったら短くまとめる場面を長々と描く。が、最後の場面になって、監督の意図がわかった。クスクス粒が見つからずにみんながあわてて時間稼ぎをする様子をリアルタイムに感じさせるようにじっくり描いていたわけだ。

 反目していた愛人たちと前妻の子どもたちが、心を合わせてスルマーヌのために時間を稼ごうとする。が、その間、スルマーヌはバイクでクスクスを探しに行き、バイクを盗まれ、それを追いかけるうちに路上に倒れる。そのまま息絶えることを暗示している。

 移民の悲哀を描くだけでなく、もっと普遍的に人間の愛憎、初老の人間の思いを描いている。周囲の人はだれもが自分なりに愛情を生きるが、それがすれ違う。そのような人間模様が移民世界の中で描かれる。

考えてみると、主人公は私と同年代。身につまされる。これまでの人生の様々なしがらみをどうすることもできない。人生を諦めようとしても諦めきれず、もう一花咲かせたいと思う。そんな男の気持ちが私には痛いほどわかる。

 

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 同じケシシュ監督の「アデル、ブルーは熱い色」は、2013年カンヌ映画祭パルムドール受賞作。フランスのリセに通う美少女アデル(アデル・エグザルコプロス)と髪をブルーに染めた女性美大生エマ(レア・デドゥ)の同性愛の物語。チュニジア出身の監督作品だが、登場人物の多くが白人で、チュニジアらしさはほとんどない。初々しくも切なくも激しい恋を大胆に官能的に描く。演出があまりにリアル。「クスクス粒の秘密」と同じように、端折ったりしないでじっくりとリアルタイムに近い感覚で現実を描く。少女の燃え上がる恋を前にしているとしか思えない。アデルの心の動き、ためらい、哀しみ、絶望がひしひしと伝わる。本当に少女のリアルな姿を目の当たりにしているかのような気持ちになる。二人の女優もとても可憐で魅力的。

 物語そのものは、日本に暮らす初老の男性である私には縁もゆかりもないものだが、そんな私をも引きこむ力を持っている。DVDの歌いも文句にもあるが、同性愛のラブシーンの官能性は言葉をなくすほど。3時間近い映画だが、うっとりしながら見てしまった。

 

 ところで、最近、素晴らしいフランス料理の店を見つけた。

町田市野津田といえば、明治のころ、自由民権運動の中心地として知られた土地。その閑静な住宅地の一角にあるのが、シェ・シミズというフランス料理の店。隠れた名レストランだという噂を聞いて、一昨日、大学の同僚とともに夕食に訪れた。多摩大学から車で20分くらいのところにある。民家の中の一つで、これがお店だとは気付かないほど。それもまたフランスのレストランの雰囲気を出している。

 小さいが、内装も実にセンスが良い。確かにフランス的。そして、肝心の料理についても最高においしかった。コース料理を注文したが、まず野菜の前菜、ハーフスパゲティ、魚、肉、デザートのすべてに満足。不自然な味付けをしないで素材味そのものをいかし、しかし、そこにフランス料理のエスプリを注ぎ込む・・とでもいうか。洗練された本格的な味。とりわけ、タンドリー味の鶏肉は最高においしかった。多摩市にあるエル・ダンジュが閉店して、勤め先近くにひいきの店をなくして困っていたが、素晴らしい店を見つけることができて満足。

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