« ヤノフスキ+ベルリン放送交響楽団のブラームス3番4番 圧倒的名演! | トップページ | METライブビューイング「イオランタ」の演奏に圧倒された »

オペラ「袈裟と盛遠」を堪能した

 2015328日、新国立劇場中劇場でオペラ「袈裟と盛遠」をみた。とてもおもしろかった。石井歓の作曲、 山内泰雄の台本。もちろんこのオペラの存在は昔からよく知っていたが、みるのはこれが初めて。1968年の初演だというから、もはや現代の古典というべきだろう。

 芥川龍之介作の「袈裟と盛遠」に基づくとばかり思っていたら、そうではなかった。そもそもの原典である「平家物語」や「源平盛衰記」に基づくとのこと。盛遠が親友・渡辺ノ渡の妻である袈裟に横恋慕し、渡辺ノ渡を殺そうとして袈裟に手引させるが、袈裟はだまして自ら殺される物語。芥川の小説はそこで終わるのだが、このオペラはそのあと第三幕で盛遠が苦しみの中から仏の道に目覚めるさまが描かれる。この物語は日本の古典に明るい人にとってはよく知られているものらしいが、私のような日本の古典の素養のない人間にはあまりなじみがない。

 作品として、音楽もストーリーもとても魅力的。こんな作品が日本にあったことに驚いた。ただ、第三幕はちょっと観念的すぎる気がした。オペラとしては第二幕に山場を置くほうが盛り上がるだろう。もちろん、台本の山内泰雄はあえて第三幕に力点を置きたかったのだろうが。

 演奏もとてもよかった。歌手たちは全員が見事。字幕が出たが、字幕がなくてもほとんど聴きとれる。とりわけ、袈裟の沢崎恵美は澄んだよく通る声で、日本語も美しかった。容姿的にも、着物姿がとても美しい。白菊の長島由佳も嫉妬する女を演じて見事。この人も着物が良く似あっていた。盛遠の泉良平、渡辺ノ渡の中鉢聡もそれぞれの役柄を的確に演じ、観客を引きこむ力を持っている。平清盛の清水良一、佐藤義清の鳴海優一、勢至菩薩の鈴木美也子、鬼子母神のきのしたひろこもしっかりと役どころを歌って見事。呪師の中村靖は第一幕では声が出ていなかったが、第三幕は素晴らしかった。柴田真郁の指揮によるフィルハーモニア東京の演奏も文句なし。

 いつも刺激的な三浦安浩の演出については、実は今回、作品自体をよく知らないために、私としては何ともいえない。

 現代的理性を持つ渡と前近代的な精神を持つ盛遠を対比的に描いているのは、三浦さんの演出によるものだろう。渡は髷を結っておらず、第二幕の渡と袈裟の二重唱はきわめて現代的。一方の盛遠は魑魅魍魎の棲む荒々しい世界のなかにいる。袈裟が盛遠の世界に否応なく惹かれる様を見せてくれる。そして、鬼子母神の二面性と袈裟の二面性が重ねあわされ、それが荒々しい森遠と仏の道に入る盛遠(=文覚上人)につながっていくことが暗示されている。

 最後、初めの場面に戻る。呪いを発した乞食坊主が実はのちの盛遠その人であることを暗示し、同時に仏教的な輪廻を語っているように思える。これも三浦さんの発案なのか?

 日本の古典をオペラにすると違和感が残るのではないかと心配していたが、初めからそのようなことはなかった。むしろ、第一幕が開いた途端、その彩りや呪いや宴の様によって、実は日本の古代から中世にかけてこそオペラにふさわしい世界なのではないかと思った。

 ともあれ満足。これから日本のオペラをもっと見たいと思った。

|

« ヤノフスキ+ベルリン放送交響楽団のブラームス3番4番 圧倒的名演! | トップページ | METライブビューイング「イオランタ」の演奏に圧倒された »

音楽」カテゴリの記事

コメント

先生 ご来場ありがとうございました またご挨拶できず失礼しました 楽しんでいただけたようで少しホッとしています 輪廻転生のプランは僕のオリジナルです ただ、脚本家は一幕の乞食に文覚のイメージがあったらしく、それなら、とあのようなプランになりました 言葉がわかるというのは難しいな、と日頃か自分の母国語以外での作品に取り組むことが多い故、皮肉に思います しかし、では言葉とは何でしょうか テキストが言葉として聞こえることが、即ち作品を理解することでは必ずしもない、そんな思いもしました 今回唯一の外国語、最後の般若心経を聞きながら不思議な心地にいました

投稿: 三浦安浩 | 2015年4月 1日 (水) 17時56分

三浦安浩様
コメントありがとうございます。そして、刺激的で、しかも楽しい演出をいつもありがとうございます。今回もとても楽しませていただき、、あれこれと考えさせていただきました。
こちらこそご挨拶できずに大変失礼いたしました。お姿をお見かけしたのですが、ほかの方とお話しておられましたので、遠慮しておりました。
日本語という観客のほとんどが理解できる言語のオペラの演出については、まったく意識しておりませんでしたが、確かにおっしゃる通り、演出に制限を受けるでしょうね。今回は特に一般にはなじみのないオペラでしたので、台詞通りの演出が必要だったのかもしれません。が、やはり、演出には、台詞には直接的には表れない、しかし台詞の背後に、そして音楽の中に明らかに存在する世界を視覚化してほしいと思います。私が三浦さんの演出が大好きなのは、まさしくそれを実現なさっているところです。
次回作を楽しみにしております。今回は本当にありがとうございました。

投稿: 樋口裕一 | 2015年4月 2日 (木) 09時01分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/61353155

この記事へのトラックバック一覧です: オペラ「袈裟と盛遠」を堪能した:

« ヤノフスキ+ベルリン放送交響楽団のブラームス3番4番 圧倒的名演! | トップページ | METライブビューイング「イオランタ」の演奏に圧倒された »