ロベルト・ホルの厳粛な歌に涙を流す
2015年5月14日、武蔵野市民文化会館小ホールでロベルト・ホルによるバリトン・リサイタルを聴いた。ピアノ伴奏はみどり・オルトナー。
曲目は、シューベルトの「人間の限界」「魔王」「プロメテウス」、シューマン『竪琴弾きの歌』から3曲、そして「夜の歌」、ステファンという第一次大戦で戦死した作曲家の「二つの厳粛な歌」。後半にヴォルフの「ミケランジェロの詩による三つの歌曲」とブラームスの「四つの厳粛な歌」。いずれも人間の死や苦悩を歌った厳粛で深刻なもの。
ホルは大好きな歌手だ。バイロイトやベルリンで、これまで彼の歌うダーラント、マルケ王、ハンス・ザックスを聴いてきた。日本でもこれまで二度ほどリサイタルを聴いた記憶がある。いずれも素晴らしかった。私の知る限り、現代最高のリート歌手の一人だ。
そして本日。私は「四つの厳粛な歌」に心の底から打ちのめされた。涙が出てきた。
ほとんどの人は賛同してくれなかったが、私は20代から30代にかけて、歌曲作曲家として、シューベルトよりもシューマンよりもヴォルフよりもブラームスが好きだった。特に「マゲローネのロマンス」と「四つの厳粛な歌」が大好きで、フィッシャー=ディスカウの録音を繰り返し聴いていた(フィシャー=ディスカウはむしろ嫌いだったが、なぜかブラームスの歌曲についてはフィッシャー=ディスカウを好んでいた)。今日、久しぶりに「四つの厳粛な歌」を聴いて、これが大好きな曲だったことを思いだした。
ホルが歌うと、フィッシャー=ディスカウ以上に深く沈潜する。しみじみと人間の苦しみが伝わり、苦しみと死の向こうにある神へ希望が静かに聞こえてくる。わざとらしさがなく、真摯で人間臭い。ホルの歌を聴きながら、ともに苦しみ、ともに死を恐れ、死を受け入れ、人生を共にしている気持ちになった。みどり・オルトなーのピアノ伴奏も、あまり深刻になりすぎず、しかし、しっかりとホルの深い足取りを支えて実にいい。
アンコールはシューベルトの「夕映えの中で」と「楽に寄す」。人はやがて夕映えを迎え、死を受け入れなければならない。死という厳粛で苦しい終末が待っている。しかし、人間には音楽があるではないか。ともあれ、私の人生には音楽があるではないか。・・・そんなメッセージが込められているように思えた。
ホルの歌を聴くと、一つの人生を味わった気持ちになる。同時に、私の思いを、ホルが代わって歌ってくれている気持ちになる。
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