2015年ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 5月2日
2015年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンが東京国際フォーラムで始まった。私は2005年の第一回からこの音楽祭にかかわりを持ち、これまで本場ナントやびわ湖、鳥栖にまで足を運んで、ラ・フォル・ジュルネの有料なものだけで413のコンサートを聴いてきた。今年も3日間、朝から夜まで聴くつもり。
今年のテーマは「パシオン」。英語で言えばもちろん「パッション」。受難曲などの宗教曲のほか、情熱的な曲がプログラムに並んでいる(ただし、ほとんどすべての音楽が情熱を表していると思うので、私自身はこのテーマのとり方には少々疑問を感じるのだが・・・)。
初日5月2日には7つのコンサートを聴いた。簡単に感想を書く。
・カルロス・メナ(カウンター・テナー)、リチェルカール・コンソート。フィリップ・ピエルロ(指揮)
ヴィヴァルディ「あなた方の聖なる君主のために」「スターバト・マーテル」「ニシ・ドミヌス」
午前中のコンサートなので、メナは初めのうちは調子が出ない様子。音程が安定しないで、地声の男の声が混じる雰囲気。が、だんだんと尻上がりに良くなってきた。信仰深い世界が描き出される。リチェルカール・コンソートの響きの美しさを堪能できた。
・イレーヌ・ドゥヴァル(ヴァイオリン)、フュロップ・ラーンキ(ピアノ)
メシアン「主題と変奏」、フランクのヴァイオリン・ソナタ、サラサーテ「カルメン幻想曲」
ドゥヴァルは1992年生まれの若い女性ヴァイオリニスト。ピアノ伴奏のラーンキは、あのデジュー・ラーンキの息子(デジューとその奥様、つまりフュロップの両親が中央の席で見ていた!)で、1995年生まれという。良くも悪くも、演奏に若さが出ていた。が、鮮烈なところがあり、ドゥヴァルの演奏にはあっと驚くような優雅でしなやかなところがある。最高の演奏というわけではなかったが、将来を頼もしく思う楽しい演奏だった。
・マリア・ケオハネ(ソプラノ)、カルロス・メナ(アルト)、ハンス・イェルク・マンメル(テノール)、マティアス・フィーヴェク(バス) フィリップ・ピエルロ指揮、リチェルカール・コンソート
バッハ カンタータ「汝ら泣き叫ばん」と「候妃よ、さらに一条の光を」
リチェルカール・コンソートはナントのラ・フォル・ジュルネで真価を知って以来、ラ・フォル・ジュルネのたびに追いかけている。そして、ケオハネもその美しいソプラノに惹かれてきた。予想通りの見事な演奏。信仰にあふれ、しみじみと美しい。
・イド・バル=シャイ、ルイス=フェルナンド・ペレス、児玉桃のピアノ、ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮、オーヴェルニュ室内管弦楽団
バッハの2台のチェンバロのための協奏曲第1・2・3番をピアノで演奏。第1番は児玉とバル=シャイ、第2番はペレスと児玉、第3番はバル=シャイとペレス。ピアノが交代するたびに少しずつ趣が変わるのがおもしろい。第1番が終わった時点で、「指揮者は何もしていないではないか」という印象を抱いたが、間違いだった。外見上何もしていないように見せる演奏だった。ロマンティックなところがまったくなく、颯爽と演奏していく。が、そこに人間の哀しみや喜びや信仰がにじみ出る。私は第2番のペレスと児玉の演奏がおもしろかった。二人ともきわめて知的で明晰。そのなかに人間性を感じた。
・セルゲ・ツィンマーマン(ヴァイオリン)
バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番
フランク・ペーター・ツィンマーマンの息子。昨年ベートーヴェンのソナタを聴いて少しがっかりした記憶がある。が、偉大なヴァイオリニストの息子なので、そのうち一皮むけて飛躍するのではないかと期待して聴いてみた。そして、期待以上によかった。生真面目な演奏。真正面からバッハの精神に挑んでいる。技巧で聴かせるタイプではない(もしかしたら、あまり技術はないのかもしれない)。が、私は真摯な音楽性に強く共感する。とりわけ、シャコンヌには私は魂を揺り動かされた。スケールが大きく、グイと人の心をつかむ。真摯に人生に挑む姿が見える。
・クラウディオ・カヴィーナの指揮とチェンバロによるラ・ヴェネクシアーナ
モンテヴェルディのマドリガーレ集
とてもおもしろかった。ルネサンスの生活が見えてくるような音楽。ソプラノとアルトの女性、バスの男性がとてもいい。ただ男性が三人で歌っているとき、私には不協和な音を何度か感じたのが、気のせいだったのか。モンテヴェルディはとてもおもしろい。もっと聴きたくなった。なお、曲目は予告とかなり変更になっていた。
・佐藤俊介とイレーヌ・ドゥヴァルのヴァイオリン、ロベルト・フォレス・ヴェセス指揮、オーヴェルニュ室内管弦楽団
バッハのヴァイオリン協奏曲第1番、第2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲
素晴らしかった。本日最高の演奏。第1番はドゥヴァル、第2番は佐藤が演奏。二人とも一気呵成という雰囲気。余計なことはしないですっきりと弾き切る。が、そこにおのずとバッハの世界が現れ、演奏者の世界観が現れる。曲のためからも知れないが、ドゥヴァルの演奏には音楽の楽しさ、演奏する喜びがみなぎっている。そして、時に実に優雅。あっという間に曲が終わってしまった。佐藤も一気呵成に演奏するが、そこにおのずと深い世界感がにじみ出る。やはりドゥヴァルよりも男性的で思い切りが良く、鋭く切り込んでいく。二人で演奏する二重協奏曲は圧巻。指揮もオーケストラも素晴らしい。
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コメント
こんばんは。LFJ東京が開幕してから、明日で早くも一週間経ちます。今年は去年の様にアルゲリッチやクレーメルの様な超大物が来るという大サプライズにこそ遭遇しませんでしたけど、毎年の様に参加する方、随分久しぶりに参加した方が名演を聞かせてくれて、野外でのおいしくて気持ちの良い食事やサイン会等、コンサート以外でもたっぷり楽しめました。
初日は、樋口先生と同じコンサートはバッハの2ピアノコンチェルトのコンサートでした。アンサンブルですからソリスト一人ずつの個性が光る訳ではありませんけど、二人で織り成す音の綾と全く初めて聴くオーヴェルニュ室内管の美しい響きが味わえましたね。尚ソリストの一人ペレスはLFJ終了後の現在もしばらく滞日しており、5/6にはTwitterのフォロワーさんの音大生がレッスンを受けたそうです。今までお話した限りではとてもやさしい方ですので、その人柄はペレスにも伝わったと思います。
樋口先生がいらっしゃらなかったコンサートでは、エル=バシャとデュッセルドルフ響によるブラームスのピアノコンチェルト1が、深みのある名演でした。エル=バシャもまだしばらく滞日しているらしく、来週土曜には戸田弥生とのデュオ・リサイタルに行くのを楽しみにしています。
投稿: 崎田幸一 | 2015年5月 8日 (金) 21時18分
すみません(^^;。読み返してみて稚拙な表現を見つけましたので修正しようとしていたら、間違えて投稿ボタンを押してしまいました(^^;。
投稿: 崎田幸一 | 2015年5月 8日 (金) 21時20分
崎田幸一 様
コメント、ありがとうございます。
エル=バシャさんのピアノもぜひ聴きたいと思っていたのですが、これまで何度か聞いたことがありましたので、今回はラ・ヴェネクシアーナを聴くことにしたのでした。昨年の戸田さんとのシューマンは圧倒的な名演でした。書き忘れておりましたが、オーベルニュ室内管弦楽団はとてもきれいな音だと私も思いました。
投稿: 樋口裕一 | 2015年5月10日 (日) 16時34分