エル・ダンジュでの夕食、そしてロッシーニ・オペラの映像
2015年6月5日、多摩市の本格的フランス料理の店エル・ダンジュで家族と夕食。私の大のひいきの店だったのだが、しばらく休店していた。再開したと聞いて、やっと時間を見つけて家族で出かけたのだった。久しぶりのシェフの味に家族全員が大満足。実の洗練された味。野菜もおいしいし、肉も魚もおいしい。料理に関しての知識がまったくないので、説明できないのがもどかしい。
しばらく前から、時間を見つけてはロッシーニの映像を見ていた。その感想を書く。いやあ、ロッシーニのオペラはどれも実におもしろい!!
とてもおもしろかった。ただ、ほかのオペラで聞き覚えのあるメロディが続く。まず、序曲が「チェネレントラ」とほとんど同じ。
ダリオ・フォーの演出は現代に舞台をとり、ダンスあり、パントマイムありのおしゃれで動きにあふれ、愉快なもの。色遣いが最高に楽しい。演奏も見事。
リゼッタを歌うチンツィア・フォルテは容姿も美しく、声もきれいで役柄にぴったり。フィリッポ役のピエトロ・スパニョーリも演技もいいし、歌唱も素晴らしい。そして、なんといっても、ドン・ポンポーニオを歌うブルーノ・プラティコが芸達者で、舞台の楽しさを作りだしていた。ただ私には、アルベルトを歌うチャールズ・ワークマンが、音程が不安定に聞こえる。指揮はマウリツィオ・バルバチーニも快活でロッシーニ音楽を存分に楽しめた。
「絹のはしご」 シュヴェツィンゲン宮殿内ロココ劇場 シュトゥットガルト放送交響楽団 1990年
1990年というから少し古い映像。演奏も、現在のロッシーニ演奏からすると、ちょっと古臭い。ミヒャエル・ハンペの演出はかなりオーソドックス。しかし、それはそれでとても楽しめた。ジュリアを歌うルチアーナ・セッラとジェルマーノを歌うアレッサンドロ・コルベッリ、そしてドルヴィルを歌うデーヴィッド・キューブラーがとてもよかった。ジャンルイージ・ジェルメッティの指揮も今となっては手堅い感じ。
「絹のはしご」2009年 ペーザロ音楽祭 ボルツァーノ=トレント・ハイドン管弦楽団
きわめて現代的な上演。現代の服装をした登場人物が早口でまくしたてる。ダミアーノ・ミキエレットの演出は現代のマンションを舞台にして、きわめて現代的な色遣いで鏡を使って斬新。オーケストラも歯切れがよく溌剌としている。シュヴェツィンゲン宮殿の上演とは別のオペラのように雰囲気が異なる。近年のロッシーニ上演の変化を強く感じる。もちろん、私は現代風のもののほうが好みだ。
歌唱に関しては、ジュリアを歌うオリガ・ペレチャトコが圧倒的。容姿も魅力的で言うことなし。ブランザックを歌うカルロ・レポーレも愉快な歌いっぷりで憎めない女好きの雰囲気を出して実にいい。ルチッラのアンナ・マラファーシも女の二重性を上手に出している。ただ、ドルモンのダニエレ・ザンファルディーノは少し不安定。ジェルマーノのパオロ・ボルドーニャは音程をかなり外して苦しい。
クラウディオ・シモーネの指揮は勢いがあって実にいい。歌手陣がもっと安定していれば、もっとずっと楽しめただろう。
「タンクレディ」 フィレンツェ五月祭、テアトロ・コムナーレ2005年
「タンクレディ」には、悲劇的な結末のフェラーラ版と、ハッピーエンドのヴェネツィア版があるが、これはフェラーラ版。
タンクレディ役のダニエラ・バルチェッローナがやはり圧倒的。現在ではこの役はこの人ではないと考えられないほど。アルジーリオを歌うラウル・ヒメネスも安定しているし、悪役のオルバッツァーノを歌うマルコ・スポッティも堂にいっている。ダリナ・タコヴァのアメナイーデ役も可憐でいい。
ただ、どうしても台本の不自然さが気になる。イタリアオペラではしばしば起こることだが、登場人物のだれもが何の証拠もなしに安易にものごとを信じて誤解が拡大し、ひとこと釈明すれば誤解がとけるのに、それをなぜか口にしないために悲劇へと突き進んでいく。作劇のパターンではあるだろうが、さすがにここまでひどいとリアリティを感じなくなってしまう。
リッカルド・フリッツァの指揮はとてもいい。ドラマティックで生き生きしている。ピエール・ルイージ・ピッツィの演出も奇をてらったところがなく、わかりやすい。
さすがメトロポリタン。演奏も演出も素晴らしい。このオペラに初めて触れたが、とてもおもしろい。アルミーダは「タンホイザー」のヴェヌスを思わせる。音楽も躍動的。ロッシーニにしては珍しく官能的であったり悪魔的であったり。とはいえ、そこはロッシーニ。ワーグナーのようにねちっこくなく、実にあっさりしている。そこがまたいい。
何といってもアルミーダを歌うルネ・フレミングが圧倒的。愛に耽溺し、裏切られて復讐の鬼と化す魔女を見事に歌っている。実に蠱惑的。ゴフレードのジョン・オズボーンも切れの良い歌。ただ、リナルドを歌うローレンス・ブラウンリーは、私には音程が不安定にしか聞こえない。今年の1月にメトロポリタンのライブビューイングの「セヴィリアの理髪師」のアルマヴィーヴァでも感じたが、どうもこの人が主役を張るのは私には納得がいかない。
指揮はリッカルド・フリッツァ。初めて聴くので何ともいえないが、歯切れがよく、ドラマティックな演奏であることは間違いない。メアリー・ジマーマンの演出はわかりやすくて、美しくてドラマティック。色遣いもいいし、実にセンスの良さを感じる。
「ゼルミーラ」全曲(1826年パリ稿)ペーザロ 音楽祭2009ボローニャ市立歌劇場管弦楽団&合唱団
これは凄い! まず、オペラとして大変おもしろい。ロッシーニの傑作の一つだと思う。ドラマティックで躍動的な音楽、波乱万丈のドラマ。もちろん、ストーリー的にはあまりに不自然なところがあり、主人公たちのあまりの単純な行動に呆れるが、それを気にしなければ心から楽しめる。
そして、この上演は演奏が素晴らしい。ゼルミーラ役のケイト・オールドリッチが、張りのある声で技巧的な歌を歌いまくる。容姿的にもとても魅力的。イーロのフアン・ディエゴ・フローレスも輝かしい声が素晴らしい。アンテノーレを歌うグレゴリー・クンデもフローレスに負けていない。しっかりとした美声で見事に歌う。エンマのマリアーナ・ピッツォラートも素晴らしい。
ロベルト・アバドの指揮も溌剌としてドラマティックでスケールが大きい。ジョルジオ・B・コルセッティの演出については、 ともあれおもしろいが、ちょっとやりすぎの感がある。ギリシャ神話に基づく王権争いのはずなのに、登場人物は現代の服装。それはいいとしても、第一幕で、ゼルミーラが父に自分の母乳を飲ませる場面がある。驚いて、原作がそうなっているのかと思ってあれこれネットを探してみたが、どうもこれは演出によるものらしい。そこまでやることはないのではないか。
とてもおもしろい。ダミアーノ・ミキエレットは色遣いもおしゃれ。かささぎを黙役のバレリーナが演じ、とてもチャーミング。ただ、私としては、第二幕が水たまりの中で演じられるのがどうにも気になる。歩きにくそうだし、そもそもその必然性が良くわからない。
歌手陣については、ニネッタを歌うマリオラ・カンタレロが、ちょっと癖のある声ながら、容姿(ちょっと太めだけど・・・)も含めてとてもチャーミング。フェルナンドを歌うアレックス・エスポジトも見事。ただ、ジャンネットや代官やルチアやピッポ役が少し弱い。音程が不安定。外見を重視しすぎたのだろうか。
指揮はリュウ・ジャ、ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団。ドラマティックでよいところも多いのだが、ところどころ不安定さを感じた。とはいえ、序曲だけが有名な子のオペラの珍しい映像として、大変楽しめた。
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