« まだロッシーニをみている 「ギヨーム・テル」「イタリアのトルコ人」「エルミオーネ」 | トップページ | 映画DVDの感想 「天才スピヴェット」「デリカテッセン」「ロング・エンゲージメント」「ミックマック」「ニュルンベルグ裁判」 »

「ブルスキーノ氏」「イェヌーファ」「ばらの騎士」「フィエラブラス」の映像など

 

 2015824日、相模メモリアルパークに11年前に世を去った友人・北川正さんの墓参りにいった。共通の友人であったMさんが名古屋から上京するのに合わせて、この日にしたのだった。北川夫人にも同行していただいた。北川さんはボードレールやバタイユを研究するフランス文学者だったが、脳腫瘍のため50代の早すぎる死を迎えた。北川さんとの共訳で「苦悩の始まり」(新評論刊)というアフリカ小説を出したこともある。

 

私が親しくした友人の中で、最も破天荒で最も芸術家肌で最も愛すべき人物だった。そのあまりの独りよがりで非常識な言動のために、どれほど困らされたか。そして、周囲の人みんなが北川さんの言動に呆れながら、どれほど彼を愛していたか! 

 

墓参りの後、北川夫人、Mさんとともに食事をしながら、北川さんの思い出、現在抱えている共通の懸念(一人立ちできずにいる子ども、高齢になった親、自分の年金)などについて話した。ついでに言うと、私の両親は、815日に施設を移ったが、まだ新しい環境になじめない様子。少しでも早く慣れるように私の家族もたびたび顔を出しているが、高齢者が習慣を変えるのは難しいようだ。

 

 そんななか、一昨日(2015年8月25日)、やっと仕事が一段落した。今晩から次の仕事に移るが、その前に1日半ほどゆっくりした。また、オペラ映像を何本か見た。感想を書く。

 

 

 

 

 

911_2


ロッシーニ「ブルスキーノ氏」
2012年 ペーザロ、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル (アッリーゴ・ガッザニーガによる批判校訂版)

 

 

 

 クラシカ・ジャパンで放送されたのと同じ映像。演出はテアトロ・ソテッラネオ。実に楽しい。観光客が次々と訪れるロッシーニ・ランドと呼ぶべきテーマパークで繰り広げられる。原作の古めかしい時代設定を現代的にしようという工夫だろう。このストーリーでは、登場人物を現代の人間にするのは難しい。いくらなんでも現代人であれば、他人になり替わって結婚するなどあり得ないから。そこでこのような方法を取ったのだろう。それはそれで色合い豊かでおもしろい。少しも違和感はない。

 

 歌手はみんな素晴らしい。とりわけ、ブルスキーノのロベルト・デ・カンディアとガウンデンツィオのカルロ・レポーレが芸達者で歌唱も切れがいい。ソフィーアのマリア・アレイダも美しい声。フロルヴィッレのデイヴィッド・アレグレットもとぼけた味わいのある風貌と歌。ロッシーニ交響楽団はとてもいい。指揮のダニエーレ・ルスティオーニも切れがよくてうきうき感がある。若い将来有望の指揮者だということだが、その通りだと思う。ただ、前半、少し歌手との音のズレを感じた。

 

 

 

511_2


ヤナーチェク「イェヌーファ」
2014年 ベルリン・ドイツ・オペラ

 

 ここ数か月、ロッシーニのオペラ映像ばかりをみていた。私はロッシーニ初心者なので、野球にたとえると、これまでは長いロードに出ていた気分。ヤナーチェクのオペラを見て久しぶりにホームグラウンドに戻った気がする。

 

 とてつもない演奏。オーケストラもさることながら、ドナルド・ラニクルズの指揮がいい。音は切れがよく、しかも表情豊かで豊穣。ぐいぐいと引き込み、心の奥底を鋭くも美しい音でかき乱す。これまでの演奏では聞こえなかった音も表情豊かに聞こえる。ただ、ローカル性が消えた感がなくもない。ヤナーチェク特有のイントネーションが薄まっている。その点が不満といえば不満だが、ないものねだりというべきだろう。ともあれ、これまでのこのオペラの映像の中では圧倒的といえるだろう。

 

 歌手陣は脇役を含めて全員が適役。これほどそろった映像はこれまでなかっただろう。

 

 コステルニチカ役のジェニファー・ラーモアが見事な歌と演技。強圧的な女性をリアルに演じている。第三幕の怯えや悲しみ、後悔、神への惧れが伝わる。イェヌーファを歌うのはミカエラ・カウネ。ハンサムな男性にひかれる清純な女性を歌う。これまた見事な歌唱。ラツァ役のヴィル・ハルトマンは生真面目な役を、シュテヴァ役のラディスラフ・エルグルは気の弱い見てくれだけの男を、この上なくリアルに描く。ラツァとステヴァはきっとこんな男たちだったのだろうと思わせるだけの説得力がある。そしてなんと、おばあさんの役を歌うのは往年の大歌手ハンナ・シュヴァルツ。バイロイトやベルリンでフリッカやヴァウトラウテを聞いた記憶がある。かなりの高齢だと思うが、しっかりと歌っている。

 

 演出はクリストフ・ロイ。現代の服装だが、閉塞感を強調して白い壁に囲まれた室内で物語が展開する。田舎の息苦しさ、それどころか生きることの息苦しさ、その中で必死に生きようとする命を感じる。これこそがヤナーチェクの魅力だろう。

 

 

 

505_2


「ばらの騎士」
2004年 ザルツブルク祝祭大劇場

 

「ばらの騎士」は中学生のころから大好きなオペラ。よって、いよいよ本当にホームグラウンドに戻った気分で映像をみた。

 

 DVDを購入後、ネットを見ているうちに、かつて購入したDVDと同じ映像らしいことに気付いた。カバーが変わっているので、間違えて二度購入してしまった・・・と思いつつ見始めたら、まったく覚えがない。一度見たのにすっかり忘れたのか、それとも、購入しただけで見ないままになっていたか。念のため、古いDVDを探してみたが、見つからず。いよいよ謎が深まった! 購入したつもりになっていただけだったか?

 

 演奏はとてもいい。アドリアンヌ・ピエチョンカのマルシャリン、アンゲリカ・キルヒシュラーガーのオクタヴィアン、ミア・パーションのゾフィーは、いずれも容姿を含めて、これまで見た最高レベルの歌と演技だと思う。フランツ・ハヴラタのオックス、フランツ、グルントヘーバーのファニナルともに見事。歌手の役は、なんと若きベチャワではないか! セミョン・ビシュコフの指揮はきわめて濃厚。雄弁でドラマティック。ぞっとするほど美しいところがある。

 

 疑問に思うのは、ロバート・カーセン演出。第一幕は、オックスが軍服を着ていることを除けばそれほど意外には思わない。第二幕は全体が黒で統一され、照明も暗くて、まさしく漆黒の世界。ファニナルは武器商人という設定らしい。武器商人が軍の実力者オックスに取り入って娘のファニナルを使って、いっそう関係を強化しようとしている。背後には兵士たちが並ぶ。場面的には、「神々の黄昏」のハーゲン登場の場面を思い出す。第三幕は娼館に設定され、半裸で胸を出した女性たち、全裸の男性が次々と登場し性的な行為を行う。軍人たちが利用する娼館という設定なのだろう。ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」にこのような場面があったような気がする。最後、オクタヴィアンとゾフィーはベッドで戯れる。

 

 演出家の気持ちはわからないでもない。シュトラウスにはエロティックな面が強く、どす黒い部分もないではない。「サロメ」「エレクトラ」にそれが強く発揮されている。だが、こうすると、豪華でしゃれていて、ユーモアにあふれ、心の機微に触れ、人間存在の深みをさりげなく描いているというせっかくのこの「ばらの騎士」の魅力が台無しになってしまう。音楽は明らかに上品でしゃれているのに、舞台は扇情的で、かなり下品。「ばらの騎士」を愛する人間としては、十分に楽しめない。DVDで見るのはいいが、ザルツブルクまで行ってこれを見せられたら、きっと私は怒り出しただろうと思った。

 

 なお、音質・画質ともDVDはあまりよくない。BDにすればよかったのだろうか。

 

 

 

536


シューベルト 「フィエラブラス」
2014年 ザルツブルク音楽祭

 

 昨年、ザルツブルクで実演を見たものの映像。実演を見て素晴らしいと思ったが、映像で見ても納得。メッツマッハーの指揮がいい。音が美しい。フィエラブラスのミヒャエル・シャーデ、カール王の ゲオルク・ツェッペンフェルト、ローラントのマルクス・ウェルバ、エギンハルトのベンジャミン・ベルンハイムはいずれも見事。が、それ以上に、エンマのユリア・クライターが素晴らしい。実演を見た時も、容姿も美しく声も最高だと思ったが、映像で見ると、容姿の美しさは想像以上。フロリンダのドロテア・レシュマンも実にいい。

 

 演出のペーター・シュタインはおとぎ話風。わかりやすい。ただ、改めてみたが、やはりオペラとしては、少なくとも私の趣味ではない。きれいな歌が続くが、ドラマティックな盛り上がりがない。シューベルトはオペラ作曲家ではないと改めて思った。

 

|

« まだロッシーニをみている 「ギヨーム・テル」「イタリアのトルコ人」「エルミオーネ」 | トップページ | 映画DVDの感想 「天才スピヴェット」「デリカテッセン」「ロング・エンゲージメント」「ミックマック」「ニュルンベルグ裁判」 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/532807/62165757

この記事へのトラックバック一覧です: 「ブルスキーノ氏」「イェヌーファ」「ばらの騎士」「フィエラブラス」の映像など:

« まだロッシーニをみている 「ギヨーム・テル」「イタリアのトルコ人」「エルミオーネ」 | トップページ | 映画DVDの感想 「天才スピヴェット」「デリカテッセン」「ロング・エンゲージメント」「ミックマック」「ニュルンベルグ裁判」 »