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ロッシーニ・オペラの映像「試金石」「パルミラのアウレリアーノ」「セミラーミデ」「モーゼとファラオ」

 大学がやっと夏休みに入った。休み中もオープンキャンパスやAO入試のためにしばしば大学に顔を出さなければならないとはいえ、授業期間中に比べると、時間的な余裕ができた。書かなければならない原稿もたくさんあり、私的な雑用も多いが、時間を作ってロッシーニのオペラ映像をいくつかみた。感想を書く。

 

741


「試金石」
2007年 マドリッド王立劇場

 色鮮やかでおしゃれな舞台。時代設定は現代。プールのある別荘で行われるブルジョワの騒動というところか。歌手たちはいずれも容姿もそろい芸達者。芝居としても実に楽しい。アスドルバーレ伯爵役のマルコ・ヴィンコは後半、少し声に疲れが出る感じだが、粋な役をうまく演じる。ヒロインのクラリーチェを歌うマリー=アンジュ・トドロヴィッチも、よく響くメゾで、歌いまわしもうまい。マクロービオのピエトロ・スパニョーリはとても伸びのある声で自在に歌う。そのほか、ジョコンドのラウル・ヒメネスもきれいな声。アスパージアのラウラ・ブリオリ、ドンナ・フルヴィアのパトリツィア・ビッチーレもコケティッシュで魅力的。

 指揮はアルベルト・ゼッダ。勢いがあり、楽しい演奏。いうことなし。ピエール・ルイージ・ピッツィによるおしゃれな演出も見事。楽しくてわくわくして、実に満足できる映像。

 

798


「パルミラのアウレリアーノ」 
2011年 イトリアの谷音楽祭

 南イタリアで行われている音楽祭の映像。見るのも聞くのも初めてのオペラだが、「セヴィリアの理髪師」の序曲で始まり、この序曲の中のメロディがオペラの中に現れる。要するに、この「パルミラのアウレリアーノ」の序曲を後に「セヴィリアの理髪師」の序曲に転用したということだ。魅力的なメロディ満載で、とても美しい。

歌手はなかなかのレベル。アウレリアーノを歌うボグダン・ミハイが実にいい。若いテノールだが、声に張りがあるし、容姿もいい。アルサーチェを歌うカウンターテノールのフランコ・ファジョーリもはじめのうちこそ不安定だが、だんだんと声が伸びてくる。ゼノービアを歌うマリア・アレイダは、少し音程が不安定だが、声は美しい。

 ただ、イタリア国際管弦楽団という名のオーケストラがなんとも貧弱な音。ジャコモ・サグリパンティの指揮も、オーケストラをうまくコントロールしているとはいいがたい。オーケストラの性能のせいかもしれないが、もたつきぎみ。ティモシー・ネルソンの演出は現代を舞台にして、中東とヨーロッパの共存の理想を語ろうとする。

 

370


「イギリス女王エリザベス」 1985年 トリノ王立劇場

「英国女王エリザベッタ」とも訳される。以前からタイトルだけはよく知っていた(なにしろ、「セヴィリアの理髪師」序曲はこのオペラの序曲を転用したことはよく知られている)が、実演はもちろん映像も初めて。

 1985年の映像。しかし、1950年代か60年代の隠しどりを思わせるような、かなり質の良くない録画と録音。本当に正規盤なのだろうか。

 とはいえ、演奏は素晴らしい。指揮のガブリエーレ・フェッロは、メリハリがあり、勢いがあって、とてもドラマティック。そして、エリザベッタのレッラ・クベルリが美しい声と可憐な姿で気品にあふれている。マルティルデのダニエラ・デッシーも若々しくて声が美しい。男声陣も負けていない。ライセスター役のアントニオ・サヴァスターノ、悪役のノーフォークを歌うロックウェル・ブレイクも強い声でロッシーニ特有の歌いまわしを堪能できる。

 物語はわかりやすいし、美しい音楽にあふれており、素晴らしいオペラだと思う。序曲をはじめ、私たちが「セヴィリアの理髪師」の中の音楽として知っているメロディがいくつかあらわれるが、言い換えればそれほど豊かな音楽にあふれているということ。もう少し音がよければもっと感動できるのだが、ときどき鑑賞に支障が出るほど音に難があるのが残念。

 

 

446


「セミラーミデ」
2011年 フランダース歌劇場

このオペラについても小学生のころからタイトルと序曲は知っていた。が、全編を聴くのもみるのも、この映像が初めて。

「セミラーミデ」という美しい響きのタイトルであり、それが女性の名前だと知っていたので、シンデレラのようなけなげな女性の物語だとばかり思っていたが、まったく違った。夫を殺し、離れて育った実の息子にそうと知らずに横恋慕して権力をふるい、最後には息子に殺されてしまうバビロンの女王の物語。素晴らしいオペラだと思った。もっともっと上演されてしかるべきだ。軽妙なロッシーニではなく、激しく重く胸をえぐるロッシーニ。

ミルト・パパタナシウの歌うセミラーミデが、その細身で妖艶な姿と迫力ある歌唱で素晴らしい。生々しくドラマティック。イドレーノを歌うロバート・マクファーソンも太いバスの声が悪役ぶりを発揮して実にいい。英雄アルサーチェをメゾ・ソプラノのアン・ハレンベリが歌う。この人も堂にいっている。この三人の加わる二重唱はぞくぞくする。

 それにもまして素晴らしいのが、アルベルト・ゼッダの指揮。ドラマティックで鋭利で深い音を出す。しかも、生き生きとした情感を失わない。

 演出はナイジェル・ローリー。登場人物は全員、現代の服装。緑色を強調した美しい色調で、ドラマティックな雰囲気を高めるが、イドレーノがセーター姿で、多くの男性陣がスーツ姿である理由がよくわからなかった。

 が、ともあれ音楽とドラマに引き込まれて最後までどきどきしながらみた。

 

107


「モーゼとファラオ」 
2003年 ミラノ・スカラ座公演 アルチンボルディ劇場

 ミラノ・スカラ座の公演(ただし、会場はアルチンボルディ劇場)だけあって歌手たちはすべてそろっている。2003年の映像なので、多くの歌手たちが若手だったのだろうが、今では大御所たち。モーゼ役のイルダール・アブドラザコフ、ファラオ役のアーウィン・シュロット、アメノフィス役のジュゼッペ・フィリアノーティ、シナイード役のソニア・ガナッシ、アナイ役のバルバラ・フリットリが最高の歌唱。とりわけ、フリットリの第四幕の歌には酔った。

 モーゼのエジプト脱出を題材にしている(「エジプトのモーゼ」の改作)が、ロッシーニ作曲だけあってあまり宗教臭くなく、ドラマとして楽しめる。ルカ・ロンコーニの演出もわかりやすく、スペクタクルをうまく織り込んで飽きさせない。リッカルド・ムーティの指揮もとてもダイナミック。

ただ、私はこのオペラを素晴らしいとは思えなかった。「セミラーミデ」のほうにずっとひかれた。

 

 

余談。

テレビ東京の昼に放映されていたアメリカのテレビドラマ「キャッスル 〰ミステリー作家は事件がお好き」はとてもおもしろかった。その後番組である「エレメンタリー ホームズ&ワトソンIN NY」が始まったので、初回を録画して、昨日みてみた。

現代のニューヨークでのホームズとワトソン(ただし、ルーシー・リューの演じる東洋系女性のワトソンという設定)の活躍を描く。私はどうもこのルーシー・リューという女優に魅力を感じることができない。ストーリー展開も少し無理があるかな?という印象を持ちながら見ていた。ワトソンがオペラを見に行く(NYシティ・オペラなのだろうか? 一度訪れたことはあるが、記憶にない)。よりによって「トリスタンとイゾルデ」の上演中、ホームズがおしかけ、席に割って入り、大声でワトソンに話しかけ、こともあろうに携帯電話を使って外部に電話をする!

私はこの時点でこのドラマをみるのをやめた。「トリスタンとイゾルデ」を邪魔するような人間に私は共感できない。女性ワトソンが、それにあまりあるような魅力的な女性ならまだしも、そうでもない。数回分録画していたのだが、それも消した。

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コメント

トリスタンの上演中に 席に割り込んで来て、話したり、電話したり?ですか。演出家はオペラとミュージカルを混同してるようですね。また 役者さん自身も 不可思議に感じなかったとすれば、いかにもアメリカンな感じですね、BBCなら あり得ない話でしょう。全てを抹消された気持ちが よくわかります。

投稿: yotin | 2015年8月 1日 (土) 16時29分

yotin 様
コメント、ありがとうございます。
おそらく、ホームズがいかに変人であるかを示すエピソードとしてこのような場面を設定したのだと思いますが、おっしゃる通り、BBC版の「ホームズ」でしたら、絶対にありえないでしょうね。アメリカのドラマもなかなかおもしろいのですが、私のようなヨーロッパ好きには、このように時々違和感を覚えるものがあるのも事実です。

投稿: 樋口裕一 | 2015年8月 2日 (日) 22時46分

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